不妊治療の健康保険適用の拡大範囲はどこまで?費用やメリット・デメリットも解説
2022(令和4)年4月から不妊治療に対する健康保険(公的医療保険)の適用が開始されました。不妊治療の費用に備えて民間の医療保険の利用を検討する人もいると思います。本記事では公的医療保険の適用になった不妊治療の概要と医療費、健康保険適用となったことによるメリット・デメリット、不妊治療に対する保障がある民間の医療保険についてご紹介いたします。
不妊治療とは?
不妊治療(ふにんちりょう)とは
不妊治療とは、妊娠を望んでいるのに一定期間妊娠という結果がえられない男女に対して行う治療です。
それでは、「不妊(ふにん)」とはどのようなものなのでしょうか?
日本産婦人科学会のHPでは、下記のように記載があります。
「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないものをいいます。日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年というのが一般的である」と定義しています。
「一定期間(一般に1年)」の間、妊娠しないものについては「不妊」と判断されます。
そして、
不妊症とは、なんらかの治療をしないと、それ以降自然に妊娠する可能性がほとんどない状態をいいます。
※出典:一般社団法人 日本生殖医学会 Q2. 不妊症とはどういうものですか?
と定義されています。
そもそも、不妊の原因はなんでしょうか?
不妊の原因は、男性側、女性側のどちらか、あるいは両方にある場合もあり、原因が何もない場合もあるそうです。
不妊の原因の詳細については、医療機関などの情報をご確認ください。
ひとくちに「不妊症」と言っても原因を含め様々です。
厚生労働省の資料によると、
- 不妊を心配したことがある夫婦は35.0%(夫婦全体の約2.9組に1組)
- 実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は18.2% (夫婦全体の約5.5組に1組)
となっています。
不妊治療が2022(令和4)年4月から健康保険(公的医療保険)適用に。その対象範囲は?
不妊治療は2022(令和4)年4月から健康保険(公的医療保険)適用になりました。人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」などの基本治療も対象範囲となりました。
これまでは、
治療と疾病の関係が明らかで、治療の有効性・安全性等が確立しているものについては、保険適用の対象としている一方で、原因が不明な不妊症に対して行われる体外受精や顕微授精等 については、保険適用の対象としていない。
とされていました。
健康保険(公的医療保険)適用の不妊治療
- 不妊の原因を調べるための検査
- 不妊の原因がはっきりしていてその症状に対する治療
については健康保険(公的医療保険)が適用され、
健康保険(公的医療保険)の適用対象外
- 原因がわからない不妊
- 治療の効果が確実ではない体外受精などの不妊治療
は健康保険(公的医療保険)の適用対象外で、「特定不妊治療費助成事業」という助成制度でカバーしていました。
2022(令和4)年4月からは、下記のとおりとなっています。
健康保険(公的医療保険)適用の不妊治療
- 不妊の原因を調べるための検査
- 不妊の原因がはっきりしていてその症状に対する治療
- 原因がわからない不妊
- 治療の効果が確実ではない体外受精などの不妊治療
不妊治療が健康保険(公的医療保険)適用になる条件
不妊治療が健康保険(公的医療保険)適用になる場合も、これまでの助成金と同様に、年齢制限、回数制限があります。
【年齢制限】
- 治療開始時に女性の年齢が43歳未満
【回数制限】
初めての治療開始時点の女性の年齢 | 回数の上限 |
---|---|
40歳未満 | 通算6回まで(1子ごとに) |
40歳以上43歳未満 | 通算3回まで(1子ごとに) |
※ 保険適用前の助成金の支給回数は、回数の計算に含まない。
※年齢制限・回数制限の経過措置
令和4年4月2日から同年9月30日までの間に43歳の誕生日を迎える人は、43歳になってからでも、 同期間中に治療を開始したのであれば、1回の治療(採卵~胚移植までの一連の治療)に限り保険診療を受けられる。
令和4年4月3日から同年9月39日までの間に40歳の誕生日を迎える人は、40歳になってからでも、 同期間中に治療を開始したのであれば、回数制限の上限は通算6回となる。
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不妊治療の費用(保険適用時の費用と保険適用外の費用)
不妊治療の費用は、女性不妊治療の費用と男性不妊治療の費用の2種類に分類されます。
ここで、健康保険(公的医療保険)適用になる不妊治療法について簡単に説明いたします。
不妊治療法名 | 内容 |
---|---|
人工授精 (AIH:Artificial Insemination of Husband) | 女性側の排卵の時期に合わせて、洗浄濃縮したパートナーの精子を子宮内に注入する方法です。 |
体外受精・胚移植(IVF-ET:in vitro fertilization – embryo transfer ) | 排卵近くまで発育した卵子を体外に取り出し(採卵)、精子と接触させ(媒精)、受精し分割した卵を子宮内に戻す不妊治療のことです。 |
simple-TESE (肉眼的精巣精子採取術) | 手術で精巣(睾丸)から組織を採取し、その中から精子を探し出し、この精子を利用して顕微授精を行うものです。 |
micro-TESE(顕微鏡下精巣精子採取術) | 非閉塞性無精子症(精巣で精子を作り出す能力が低下して、精液の中に精子が確認できない状態)の方の精巣から精子を採取する手術で、この精子を利用して顕微授精を行うものです。 |
下記の通り、保険適用外の費用と保険適用時(3割自己負担で計算)の費用について記載しました。
女性不妊治療に係る費用
費用 | 最多 | 平均値 | 中央値 | 平均値の3割負担 |
人工授精 | 15,001〜20,000円 | 30,166円 | 25,000円 | 9,049円 |
体外受精 | 400,001〜500,000円 | 501,284円 | 500,000円 | 150,385円 |
simple-TESE | 150,001〜200,000円 | 173,322円 | 160,000円 | 51,996円 |
micro-TESE | 250,001〜300,000円 | 295,395円 | 300,000円 | 88,618円 |
男性不妊治療に係る費用
費用 | 最多 | 平均値 | 中央値 | 平均値の3割負担 |
男性不妊検査に係る費用 | 15,001〜20,000円 | 45,242円 | 20,000円 | 13,572円 |
simple-TESE
費用 | 平均値 | 中央値 | 平均値の3割負担 | |
手術費用 | 187,191円 | 180,000円 | 56,157円 | |
凍結 | 凍結1本 | 32,350円 | 30,000円 | 9,705円 |
凍結4本 | 38,373円 | 30,000円 | 11,511円 | |
凍結8本 | 50,395円 | 40,000円 | 15,118円 | |
全身麻酔 | 26,500円 | 21,000円 | 7,950円 | |
その他費用 | 37,464円 | 5,000円 | 11,239円 |
micro-TESE
費用 | 平均値 | 中央値 | 平均値の3割負担 | |
手術費用 | 316,115円 | 300,000円 | 94,834円 | |
凍結 | 凍結1本 | 33,687円 | 30,000円 | 10,106円 |
凍結4本 | 40,191円 | 30,000円 | 12,057円 | |
凍結8本 | 51,323円 | 39,800円 | 15,396円 | |
全身麻酔 | 38,195円 | 21,000円 | 11,458円 | |
その他費用 | 57,464円 | 5,000円 | 17,239円 |
関連記事:AYA世代の医療費と妊孕性温存、公的助成制度について、実施している自治体などについてもご紹介|女性のがん保険の必要性
不妊治療の保険適用のメリット
不妊治療が保険適用になったことのメリットは下記の通りです。
メリット
- 経済的負担の軽減
- 標準治療の方針の基準の明確化
経済的負担の軽減
不妊治療は自由診療だったため、治療費は全額自己負担でした。
不妊治療の高額な治療費が負担で、不妊治療を受けること、体外受精・顕微授精といった生殖補助医療を受けること自体を諦めていた人も少なからずいたと思われます。保険適用になったことで、そうした経済的負担が軽減され、治療の選択肢も広がっていくと考えられます。
標準治療の方針の基準の明確化
病気の治療を保険診療で行えるようにするには「標準化」と呼ばれる、治療の方法・進め方の統一が必要です。
個人それぞれによって不妊の要因は様々であり、それに対応するために不妊治療はオーダーメイドである必要があり、その標準化が難しいといわれてきました。
年齢や治療回数の制限などがありますが、一定のレベルでの不妊治療の標準化ができたことで、治療の方法・進め方が分かりやすくなり、不妊治療を始めやすくなったと感じる人もいるかもしれません。
不妊治療の保険適用のデメリット
不妊治療が保険適用になったことで起きるデメリットは下記の通りです。
デメリット
- 人によっては助成制度廃止で負担額が大きくなる
- 医療格差が広がる可能性がある
人によっては助成制度廃止で負担額が大きくなる
一般的に、健康保険(公的医療保険)の適用で患者個人の経済的負担は軽くなると考えられます。
ただ、保険診療や先進医療として認められていない治療法を併用したい人にとっては負担額が大きくなる可能性があります。
現在は法律で、歯科医療の一部以外は保険診療と自由診療を混ぜて治療をすること(混合診療)ができません。
保険診療ではない治療や先進医療ではない治療を受けると、本来なら保険診療の対象だった分も含めて、全額自己負担になります。これまでは助成制度によって併用が可能だったため、支払った治療費の一部が返ってきていましたが、それがなくなったことで実質的に経済負担が増えるケースも出てくるでしょう。
医療格差が広がる可能性がある
現在の法律のもとでは、先進医療と保険診療の併用は認められているものの、自由診療との併用は認められていないので、保険診療と自由診療を希望する人は、現時点では保険診療分を含めた不妊治療の治療費を全額自己負担するしかありません。
高額な治療費を払える経済力のある人だけしか不妊治療を受けられなくなる可能性があります。
このように医療機関や経済状況によって受けられる治療に差が生じやすくなるのは、現状の不妊治療保険適用のデメリットであり、問題であるといえます。
民間の医療保険は不妊治療に使える?
2022(令和4)年4月から、下記の不妊治療は保険適用の「手術」に分類されました。
- 人工授精
- 採卵術
- 体外受精/顕微授精管理料(受精費用)
- 受精卵・胚培養管理料(培養費用)
- 胚凍結保管管理料(凍結費用)
- 胚移植術
現在、ご契約中の民間の医療保険や生命保険によっては給付金の対象になる可能性があります。保険会社・商品ごとに異なるので、ご自身で保険会社にお問合せください。
また、不妊治療に対して給付金が出る商品も増えています。詳細は担当の営業または保険会社にお問合せください。
- はなさく生命「はなさく医療」
- アクサ生命「アクサの「一生保障」の医療保険スマート・ケア」
- 三井住友海上あいおい生命「&LIFE 医療保険Aセレクト」
- 日本生命「ニッセイ 出産サポート給付金付3大疾病保障保険 ChouChou!」
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まとめ
不妊治療の必要性は、こどもがほしいと思うようになってはじめてわかることが多いものです。
結婚していない独身の方や、結婚して間もない時点では当然わかりませんが、もし、将来的にこどもを持つということを考える可能性があるならば、場合によっては不妊治療が必要となる可能性であったり、高額になりがちな費用について留意しておきたいものです。
最近の民間の医療保険では、不妊治療に対応する給付金が出る商品なども増えてきました。貯蓄などでも対応することはもちろんのこと、医療保険を検討しているのであれば、不妊治療に対応しているか等も女性の医療保険選びのひとつのポイントだと言えます。
支払う保険料と受け取れると想定される給付金のバランスも見ながら検討をしてみてはいかがでしょうか?