15歳から39歳のがん患者であるAYA世代の医療費と公的支援は現在どのようになっているのでしょうか?
本記事では課題と治療していく上で必要となる費用などのお金について説明していきます。
目次
AYA世代と国の支援の方向性
AYA世代は15〜39歳と幅広い年代です。
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厚生労働省が実施した「第1回小児・AYA世代のがん医療・支援のあり方に関する検討会」(平成29年12月1日)の資料で、AYA世代のライフステージ別の分類で思春期(Adolescents)と若年成人(Young adults)の2つに分けられており、それぞれ下記のように定義されています。
思春期(Adolescents)
就学期。精神的・社会的自立に向けた発達段階。就労前で経済的自立ができていない。意思決定の主体は親になりがち。性的にも発達途上。
若年成人(Young adults)
就労期。精神的・経済的に自立し始める。意思決定は本人。次世代を生み育て、社会を支える。
この資料の中でも、国の方針として、AYA世代への支援の在り方は下記のように述べられています。
同じ年齢であっても、自立の度合い、就学・就労・経済的状況、家庭環境により、ライフプランには個人差があるため、具体的な対応において、上記の分類によって画一的な対応をすることは望ましくない。
AYA世代については変化の激しいライフステージと重なるため、公的支援の在り方を含めて患者のひとりひとりにより寄り添った形であることが必要とされています。
AYA世代のがんの現状と課題
過去の記事でAYA世代のがんの種類について見てきましたが、特徴は下記の通りです。
- AYA世代のがんは希少がんが多い
- 10代は小児がんと罹患するがんの種類が重複している
- 20代は小児がんと成人のがんと両方の特徴を備えている
- 20代から30代にかけて女性特有のがんの罹患率が多くなる
AYA世代のがんの上記の特徴に加えて、がんの患者の絶対数が少ないこと、小児と成人のはざまにあたる患者の扱いが難しいことなどから、病院など医療機関や関係者にAYA世代の診療や患者の相談支援のノウハウが蓄積されにくいという課題があります。
変化の激しいライフステージと重なることから、就学、就労、場合によっては妊娠・出産・育児を含めた支援が必要となりますが、情報提供を含めて十分な支援や相談体制が整えられているとは言えません。
AYA世代の医療費と公的助成制度について
AYA世代は小児と成人のはざまに位置する患者も多いことから、小児と成人の治療に対応できる病院が必要となります。
現状、小児期は就学含めて手厚い支援体制がありますが、小児と成人のはざまに位置するAYA世代の患者に対しては非常に手薄い状態です。
15歳未満、18歳未満の発症の小児がん患者は、一部所得に応じた自己負担がありますが、保険診療の自己負担分に対する医療費がほぼ公費で負担されます。
また、一部条件に合致したがん患者については20歳まで公的助成を受けることが可能な場合があります。
40歳以上の末期がん患者は、介護保険から、訪問介護、入浴介助、福祉用具貸与などのサービスを1割負担で受けることができます。
ココがポイント
AYA世代が利用可能な助成制度は、健康保険の高額療養費制度、年金制度から障害年金などの基本的なもののみとなっています。
図ををみてもわかるように、AYA世代(15歳から39歳)、特に、20歳から39歳までの年代に対しては、医療費助成などの制度がないことがわかります。
治療のため仕事を続けるのが難しく、経済的困難を抱える人も少なくありません。
障害年金は、がんにより、長期療養が必要で仕事や生活が著しく制限を受ける状態になった場合でも申請が可能です。
申請が認められれば、医療費などが免除されます。
また、障害年金の対象に該当し、年金を早くから受給できる場合がありますので、下記の相談窓口に相談してみましょう。
【経済的支援の相談】
- がん相談支援センター
- 各自治体の相談窓口
- ソーシャルワーカー
- 社会保険労務士
AYA世代の妊孕性(にんようせい)の問題とお金の話
妊孕性(にんようせい)とは?
AYA世代は15歳から39歳と若い世代であることから、がん治療後の後遺症として、妊孕性(にんようせい)の低下・廃絶(はいぜつ)の問題に直面する可能性があります。
妊孕性(にんようせい)とは
卵巣、子宮以外も含めて骨盤の中にある臓器、精巣に対する抗がん剤、放射線治療、外科的手術は、生殖機能にダメージを与える可能性があります。
卵巣や精巣などの性腺機能不全をきたす妊孕性(にんようせい)の低下、子宮・卵巣・精巣など生殖臓器の喪失により将来子供を持つ事が困難になる妊孕性の廃絶(はいぜつ)があります。
▼妊孕性についての記事はこちらです。
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妊孕性の温存(にんようせいのおんぞん)とは?
抗がん剤を使った場合でも、機能低下が一時的で、治療が終われば機能が回復する可能性が高いケースもあります。
妊孕性の温存(にんようせいのおんぞん)とは
妊孕性の温存の方法は?
妊孕性の温存の方法として主なものは下記の4つになります。
- 受精卵凍結(パートナーがいる場合のみ)
- 卵子凍結
- 卵巣凍結
- 精子凍結
妊孕性の温存にかかる費用は?
妊孕性の温存にかかる費用はどのくらいなのでしょうか?
受診するまでにかかる費用 :
- 紹介状作成料(がん治療を受ける病院と生殖医療機関が異なる場合)
生殖補助医療を用いた妊よう性温存方法にかかる費用 :
- カウンセリング料:初回 5000 円、再診 2000 円
- 受精卵凍結:約 35 万円
- 卵子凍結:約 35 万円
- 卵巣凍結:約 60 万円
- 精子凍結:約 5 万円
- 凍結保存した場合の更新料:約 2 ~ 6 万円 / 年
- 凍結精子を使った顕微授精:約 40 万円
生殖医療は、保険適応外で自費診療となります。
治療が長くなると、それだけ負担も大きくなります。
乳がんの場合、5年、10年単位で治療を続ける場合もあり、治療費だけではなく、こうした費用も加わることで負担が大きくなっていきます。
※出典:「小児・若年がん長期生存者に対する妊孕性のエビデンスと生殖医療ネットワーク構築に関する研究」
パンフレット<これからがんの治療を開始される患者さまへ>
関連ページ:不妊治療はどこまで健康保険(公的医療保険)適用?費用はいくら?条件やメリットとデメリット
妊孕性の温存に関する公的助成制度の現状について
妊孕性の温存には費用がかかることを見てきました。
それではそれに対する公的助成制度はあるのでしょうか?
非常に残念なことですが、国としてのがん患者への妊孕性の温存に関する助成制度は存在していません。
妊孕性の温存に関する助成制度の整備を求める声が上がっているものの国としては検討できる段階ではないとしています。
下記は2019年7月16日の閣議の際の報道です。
◆厚労相 AYA世代の妊孕性温存助成制度は「検討できる段階ではない」エビデンスが確立されていないとの判断 研究事業は今後も継続
――厚生労働省
根本匠厚生労働相は、7月16日の閣議後会見で、AYA世代の妊孕性温存のための助成制度の創設は「具体的に検討できる段階ではない」との認識を示した。妊孕性(妊娠できる力)の温存が若年のがん患者の妊娠につながるというエビデンスが十分に確立できていないことを理由に挙げている。
国としての助成制度はありませんが、がん患者に限らず、不妊症などに悩む夫婦に対して、高額な不妊治療費の一部を補助する公的制度として都道府県が実施する「特定不妊治療助成金制度」があります。
ただし、この制度は法律上の婚姻関係にある夫婦に限定されているため、未婚者の場合は適応対象外となります。
がん患者の妊孕性温存の助成制度を整備する自治体が増えています。
2019年11月20日2021年4月22日現在、がん患者の生殖機能に関する助成制度がある自治体は、下記の通りです。今後も増える可能性があります。
参考
まとめ
AYA世代の医療費の公的助成制度は、非常に手薄になっています。
また、妊孕性の温存という視点で見た時にも、国としての妊孕性の温存の助成制度は整備されておらず、子供を望んでいる人は現状、全額自己負担となるケースが多いこと、自治体によっては独自の助成制度を整備している自治体も存在しているということがわかりました。
AYA世代にあたる世代は、がんになった場合により一層の自助努力が必要となるため、うまくがん保険を活用したいところです。
がん保険の診断給付金などを、がん治療開始前に妊孕性の温存治療に充てるということもひとつの手段として考えられます。
万が一に備えて、ただし、無駄な支出をしないためにも、お金の専門家であるファイナンシャルプランナーに相談してみてはいかがでしょうか。