

更新日:2026年6月23日
法人保険とは、法人が契約者となって加入する保険の総称です。 この記事では、法人が意識すべきリスクや法人向けの生命保険・損害保険の種類・活用法、税務上の取扱いなどを解説します。
法人保険とは、契約者が個人ではなく法人(企業)である保険です。
保険の基本的な仕組みや種類は、個人が加入する保険とほとんど変わりません。
法人は法律上「人」として認められるため、保険契約者や保険金受取人になることができます。
ただし、生命保険の被保険者(保険事故の対象者)は自然人(個人)に限られ、法人保険では役員・従業員がこれに該当します。
保険契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 | |
|---|---|---|---|
生命(個人)保険 | 個人 | 個人 | 個人 |
法人保険 | 法人 | 個人(役員・従業員など) | 原則として法人 |
個人の保険が主に遺族の生活保障を目的とするのに対し、法人の保険は事業継続に関わる多様なリスクへの備えを目的とします。
法人が見据えるべき主なリスクは以下の5つです。
法人が意識すべきリスク
事業活動には、例えば次のようなリスクがあります。
特に中小企業では、経営者個人の営業力・人脈・専門知識に事業が大きく依存していることが少なくありません。
経営者が死亡や重度の疾病・障害により経営の第一線を離れた場合、取引先との関係維持や受注活動が停滞し、売上が急激に落ち込むリスクがあります。
以上のとおり、経営者は多方面から資金繰り悪化のリスクにさらされています。
そのため、自社にとって必要な資金需要の規模を適切に把握した上で、資金的な手当を講じておくことが不可欠です。
経営者もいずれリタイアの時期を迎えますが、役員退職金は従業員の退職金とは性格が異なります。
経営者は事業活動リスクを自ら負担してきた立場にあり、役員退職金はこれまでの企業成長に対する報償としての性格が強くなります。
そのため、支給額も従業員と比べて高額となる傾向があります。
しかし、役員退職金を支給する時点で、社内にその原資が十分に存在するとは限りません。
退職金の支給が企業の資金繰りを圧迫し、事業継続に支障をきたすおそれがあるため、長期的な視点で計画的に原資を確保しておくことが重要な経営課題となります。
中小企業は経営者の親族(通常は子ども)に事業承継させることが一般的です。
事業承継には、経営権(取締役の地位)の承継に加えて、経営者が保有する自社株式の承継が必要になります。
中小企業(非公開企業)の株式は証券取引所に上場されていないため、客観的な市場価格がありません。
しかし、過去の業績や資産・負債の時価を反映した税務上の株価が算定され、先代経営者の死亡時にはその株式が相続財産として相続税の課税対象となります。
次期経営者が株式を承継するには、相続税の納税に耐えうる資金力が必要であり、この資金をどのように確保するかが事業承継における大きな課題です。
準備が不十分なまま相続が発生すると、納税資金の捻出のために株式を分散売却せざるを得なくなるなど、経営権の安定にも影響を及ぼしかねません。
我が国では就業人口の減少が著しく、中長期的な人材確保を喫緊の経営課題と捉える企業が増えています。
中長期的な売り手市場の環境下で、自社が従業員から選ばれ、長期にわたりコミットしてもらうためには、給与・賞与といった待遇面の改善だけでなく、福利厚生を充実させることも重要です。
従業員に死亡や重大な傷病といった万一の事態が発生した際に、従業員本人やその家族の生活を支える制度が未整備の場合、人材の採用競争で後れをとるだけでなく、既存の従業員の離職にもつながりかねません。
法人の事業活動には、偶然の事故や第三者への賠償責任に起因するリスクも存在します。
これらのリスクは発生頻度は低いものの、ひとたび発生すると損害額が甚大となり、事業継続そのものを脅かしかねません。
実際、日本損害保険協会の「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」によると、4社に1社が自然災害やサイバーリスクなど何らかの被害を経験しています。
また、被害があった企業の約54.5%が「リスクへの備えが不足していた」と回答しています。
自社の業種・事業内容に応じて、どのようなリスクにさらされているかを平時から把握し、備えを講じておくことが重要です。
※参考:日本損害保険協会ホームページ
法人保険は、契約者が法人であるという点を除けば、個人が加入する生命保険と基本的に同じ種類の商品で構成されています。
終身保険は、被保険者が死亡したときに保険金受取人が保険金を受け取る保険です。
被保険者はいずれ必ず死亡するため、最終的には保険金を受け取れます。
また、契約期間が経過するにつれて、解約返戻金が増加するのも特徴です。
養老保険と終身保険の違いは、以下の通り保険期間の終盤にあります。
終身保険と養老保険の違い
養老保険も満期時または死亡時のいずれかのタイミングで、保険金を受け取ることができる貯蓄型の保険であり、解約返戻金は満期まで増加していきます。
定期保険と養老保険の違いも、保険期間の終盤にあります。
終身保険と養老保険の違い
なお、定期保険のうち、長期平準定期保険のように保険期間が長い(100歳満期など)商品などは、解約返戻金が発生することもあります。
法人の事業活動に伴う偶然の事故や賠償リスクに備える保険として、損害保険(第二分野保険)があります。
火災、落雷、風水災などの偶然な事故による建物・設備・商品などの事業用資産の損害を補償する保険です。
第三者に損害を与えた場合に、法人が負う法律上の賠償責任を補償する保険です。
事業内容に応じてさまざまな種類があります。
企業が所有・管理する施設の欠陥や、従業員の業務遂行中の事故により第三者に損害を与えた場合の賠償責任を補償します。
店舗や事務所を構える企業にとって必要性の高い保険です。
製造・販売した製品の欠陥や、提供したサービスが原因で第三者に損害を与えた場合の賠償責任を補償します。
製造業や飲食業など、製品を扱う企業にとって特に重要性の高い保険です。
建設工事などの請負作業の遂行中に第三者に損害を与えた場合の賠償責任を補償します。
建設業や設備工事業など、請負業務を行う事業者にとって必要性の高い保険です。
従業員の業務中・通勤中の死亡・負傷に対して、公的労災保険の上乗せ補償や、安全配慮義務違反などを理由に企業が負う使用者賠償責任を補償する保険です。
公的労災保険だけでは従業員やその遺族への補償が十分でないケースもあり、企業の賠償リスクに備える手段として活用されています。
役員が業務執行上の判断により会社や第三者に損害を与え、損害賠償請求を受けた場合の賠償金や訴訟費用を補償する保険です。
株主代表訴訟への備えとしても活用されています。
不正アクセスやウイルス感染等のサイバー攻撃による情報漏えい、システム障害などに起因する損害賠償責任や、事故調査・システム復旧などの事故対応費用を包括的に補償する保険です。
サイバー攻撃は年々高度化・巧妙化しており、企業規模や業種を問わず攻撃対象となっています。
DXが進む中、優先度の高い保険といえます。
関連記事:法人向けの賠償責任保険|サイバー保険
火災・水災などにより事業用資産に損害が生じ、休業を余儀なくされた場合の利益損失や営業継続費用を補償する保険です。
BCP(事業継続計画)の一環として位置づけられ、災害後の事業再開までの資金繰りを支える役割を果たします。
社用車の事故による対人・対物の損害賠償責任や、車両自体の損害を補償する保険です。
社用車を保有・使用する法人にとって必須の保険といえます。
上で取り上げた5つのリスクに対して、それぞれどの保険を選び、どう活用するかを解説します。
事業活動リスクに対しては、生命保険と損害保険の双方から備えることが有効です。
保険契約者と保険金受取人を法人、被保険者を経営者とする生命保険に加入することで、経営者が死亡・高度障害などの万一の事態に陥った場合に、保険金を借入金の返済、仕入債務の決済や従業員退職金の支払いなどに充てることができます。
資金需要の規模は経営環境の変化に応じて増減するため、保障金額を機動的に見直せる定期保険が有効です。
掛け捨て型のため、貯蓄型の終身保険・養老保険と比べて安い保険料で必要な保障を確保できます。
また、経営者が健在であっても、取引先の倒産や経済環境の急変などにより資金繰りが一時的に窮することがあります。
解約返戻金が蓄積している生命保険に加入していれば、その解約返戻金の一定範囲内で保険会社から融資を受けられる「契約者貸付制度」を利用可能です。
保険契約を解約せずに資金を調達できるため、保障を維持したまま急場をしのぐことができます。
ただし、契約者貸付はあくまで借入金です。
そのため、金利情勢に応じた利息負担が発生する点と、掛け捨て型の保険は解約返戻金がいずれ減少に転じるため、貸付可能額が縮小していく点には留意が必要です。
火災・自然災害などによる事業用資産の毀損に対しては、火災保険で備えるのが基本です。
建物・設備・商品などの復旧費用を補償するほか、地震リスクには地震危険補償特約を付帯することで対応ができます。
加えて、災害により営業停止を余儀なくされた場合の利益喪失や、休業中も発生し続ける固定費の負担に備えるには休業補償保険が有効です。
火災保険で事業用資産そのものの損害をカバーし、休業補償保険で営業停止期間中の資金繰りの悪化をカバーするという形で、両者を組み合わせて活用することが望ましいでしょう。
経営者のリタイアは将来必ず訪れるものであり、高額になりがちな役員退職金の原資を計画的に確保しておくことが重要です。
そのため、保険契約者・保険金受取人を法人、被保険者を経営者とする生命保険に加入しておくという手法があります。
経営者の退職時にその保険を解約し、解約返戻金を原資に役員退職金を支給するというスキームが広く活用されています。
このスキームのポイントは、解約返戻金がピークに達する時期に合わせて経営者の退職・保険の解約を行い、解約返戻金の益金計上と役員退職金の損金計上を同一事業年度に発生させることにあります。
これにより、解約返戻金による利益の増加を役員退職金の経費で相殺し、当該事業年度における法人税負担の急激な増加を抑えることが可能になります。
退職金の原資を確保する際に活用されるのが、保険期間を超長期(例:50年間や99歳満了など)に設定した定期保険や逓増定期保険です。
なお、保険を解約した際に受け取る解約返戻金は益金(収入)として計上されるため、節税効果はありません。
先代経営者の死亡時には、保有していた自社株式が相続財産となり、相続税が課されます。
次期経営者がこの納税資金を確保するために、生命保険を活用する方法があります。
保険契約者・保険金受取人を法人、被保険者を先代経営者として生命保険に加入しておき、先代経営者の死亡時に法人が受け取った保険金を原資として「死亡退職金」を次期経営者(相続人)に支給するスキームです。
なお、死亡退職金には「500万円×法定相続人の数」の相続税非課税枠があるため、次期経営者の税負担を軽減しつつ納税資金を確保できます。
なお、経営者が比較的若く長期の保険期間を確保できる場合は、超長期の定期保険や逓増定期保険が有効です。
一方、経営者が高齢で十分な保険期間を確保できない場合は、貯蓄型の終身保険・養老保険に加入し、死亡保険金の確実な受け取りと非課税枠の活用を重視する選択肢も考えられます。
役員・従業員の福利厚生に生命保険を活用する代表例に、養老保険における「ハーフタックスプラン」と呼ばれるものがあります。
この契約形態では、保険料の2分の1を福利厚生費(損金)、残り2分の1を資産(保険積立金)として計上でき、従業員の死亡保障と退職金原資の確保を同時に実現できます。
そのため、保険契約者を法人、被保険者を役員・従業員とし、死亡保険金受取人を遺族、満期保険金受取人を法人に設定します。
保険契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 | |
|---|---|---|---|
死亡保険金受取人 | 満期保険金受取人 | ||
法人 | 役員・従業員(親族を含む) | 遺族 | 法人 |
ただし、被保険者は役員・従業員を普遍的に対象とする必要があり、特定の者のみに限定すると保険料がその者への給与と認定され、所得税の課税が発生するため注意が必要です。
また、損害保険会社が提供する団体傷害保険や医療保険を福利厚生として活用する方法もあります。
法人が契約者となり役員・従業員を被保険者とすることで、個人加入より割安にけがや病気への補償を提供でき、人材の定着・確保にも寄与します。
火災・自然災害による企業財産の毀損、製品の欠陥や業務遂行中の事故に起因する賠償責任、サイバー攻撃による情報漏えいなど、事業活動に伴う偶然の事故・賠償リスクに対しては、各種損害保険で備えるのが一般的です。
自社の業種・事業内容を踏まえ、どのリスクの発生頻度と影響度が高いかを見極めた上で、優先度の高い保険から加入を検討しましょう。
生命保険は、課税所得の圧縮の効果をもたらす経費に計上できるのか、資産としての計上が必要なのかについて解説します。
なお、以下の解説において「第三分野保険」という用語が登場します。
契約者 | 保険金受取人 | 会計処理 | |
|---|---|---|---|
死亡保険金 | 生存保険金 | ||
法人 | 法人 | 法人 | 資産計上 |
役員・従業員の 遺族 | 役員・従業員 | 経費計上 (ただし役員・従業員の給与課税) | |
法人 | 50%資産計上、50%経費計上※ | ||
※ 結果として特定の者のみが対象となる場合には給与課税
契約者(保険料負担者) | 保険金受取人 | 会計処理 |
|---|---|---|
法人 | 法人 | 期間の経過に応じて100%経費計上 |
役員・従業員またはその遺族 | 期間の経過に応じて100%経費計上※ |
※ 結果として特定の者のみが対象となる場合には給与課税
上記の表の「期間の経過に応じて100%経費計上」とは、月払いの場合は支払時に100%を経費計上できるということです。
前払(一時払)における未経過(将来に対応する)保険料はいったん資産計上となり、期間の経過によって順次取り崩して経費計上します。
この場合、保険期間が終身の第三分野保険の保険料を前払(一時払)しているときは、保険期間開始日から被保険者の116歳の誕生日までを保険期間として未経過保険料を資産計上します。
なお、解約返戻金がない、またはごく少額で保険料払込期間が保険期間より短い定期保険または第三分野保険については、被保険者1人当たりの事業年度中の払込保険料(複数の契約がある場合にはその合計額)が30万円以下であれば、100%経費計上できるという「少額特例」があります。
役員・従業員を被保険者とする保険期間3年以上の定期保険または第三分野保険で、最高解約返戻率が50%超のものについては、上記(2)の「期間の経過に応じて100%経費計上」は認められません。
保険期間の前半についても、保険料の一部しか経費として認められず、残額はいったん資産計上をした上で、保険期間の後半まで経費計上が繰り延べられる取扱いとなります。
なお、上記(2)および(3)の取扱いは、2019年7月8日以後の保険契約に係る保険料について適用されます。
そのため、同日前の保険契約に係る保険料については、同年6月28日付けの国税庁長官通達改正前の処理方法によります。
しかし、下記のような解約返戻金の蓄積度合が相対的に低い保険契約については、上記(2)の「期間の経過に応じて100%経費計上」が認められます。
一部資産計上期間(A) | 100%経費計上期間(B) | 100%経費計上+資産取崩期間(C) |
|---|---|---|
保険期間の | 左右の中間期間 | 保険期間の末期25%期間 |
40%資産計上 | 100%経費計上 | 100%経費計上に加えて過去の資産計上分を均等取崩で経費計上 |
一部資産計上期間(A) | 100%経費計上期間(B) | 100%経費計上+資産取崩期間(C) |
|---|---|---|
保険期間の | 左右の中間期間 | 保険期間の末期25%期間 |
60%資産計上 | 100%経費計上 | 100%経費計上に加えて過去の資産計上分を均等取崩で経費計上 |
一部資産計上期間(A) | 100%経費計上期間(B) | 100%経費計上+資産取崩期間(C) | |
|---|---|---|---|
最高解約返戻率に達するまでの期間 | 左右の中間期間 | 解約返戻金が最高となった期間が 経過した後の期間(※2) | |
当初10年間 | 11年目以降 | ||
「最高解約返戻率×90%」は資産計上・残額は経費計上 | 「最高解約返戻率×70%」は資産計上・残額は経費計上 | 100%経費計上 | 100%経費計上に加えて過去の資産計上分を均等取崩で経費計上 |
※1:最高解約返戻率に達した後、毎年の解約返戻金増加額が年間保険料の70%超となる期間が継続する場合にはその期間が終了するまで(A)の期間を延長する。
※2:(A)の期間が5年未満の場合には5年間(ただし、保険期間が10年未満の場合は保険期間の50%の期間)。この場合、(B)の期間はなく保険期間の残余期間は全て(C)の期間になる。
法人が支払う事業用の損害保険料は、原則として期間の経過に応じて全額損金算入が認められます。
これは損害保険が掛け捨て型であり、生命保険のような貯蓄性を持たないためです。
ただし、保険期間が複数年にわたる長期契約の場合は、未経過保険料(将来に対応する保険料)をいったん前払費用として資産計上し、期間の経過に応じて順次損金算入します。
生命保険のように最高解約返戻率に応じた複雑な資産計上ルールは適用されないため、税務処理は比較的シンプルです。
法人保険は、経営者の万一への備えから事業活動に伴う賠償リスクまで、企業が直面する幅広いリスクに対応できる有効な手段です。
ただし、税務上の取扱いは保険種類や契約形態によって異なり、身の丈を超える保険加入は資金繰りを圧迫しかねません。
ファイナンシャルプランナーや税理士など、専門家と相談しながら、自社のリスク状況と財務内容に見合った保険を選ぶことが大切です。
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