がん保険の必要性
こちらの記事では、がん保険の必要性についてファイナンシャルプランナーが徹底的に解説します。がん保険の種類や保険料の相場、加入のメリット・デメリットについても触れておりますので、ぜひご参考にしてみてください。
1. がん保険とは
がん保険とは、民間の保険会社が販売している医療保険の仲間のひとつで、病気の中でもがんに特化して保障する保険です。
医療保険とは違い、がん保険は契約後すぐに保障開始とならず、免責期間(待機期間)があり、免責期間(待機期間)は90日間であることが一般的です。
がん保険の保障内容は保険会社ごとに異なり、強く力を入れている保障にも特徴が出ているので自分がどんな保障をがん保険に求めるのかによって選ぶがん保険は違ってきます。
がん保険は主に次の4つの保障内容から成り立っています。
1. がん診断給付金
2. がん入院給付金
3. がん通院給付金
4. がん手術給付金
この他にも、
・がん先進医療特約
・放射線治療給付金
・緩和療養給付金
・保険料払込免除特約 など
保険会社によって名前や保障内容は異なりますが、 がんに特化したたくさんの保障や特約を選ぶことができます。
たくさんの保障を選べばそれだけ保険料は高くなりますが、必要な保障だけを選べばあなただけのオーダーメイドのがん保険を作ることも可能です。
(1)がん保険の給付金
がん保険に加入すると、どのような保障が得られるのでしょうか。前述した主な4つの給付金を見てみましょう。
がん診断給付金
- がん診断給付金(がんしんだんきゅうふきん)
- 初めてがんと診断された時点で保険会社所定の条件を満たした場合に受け取ることができる一時金のこと。)
会社によって「診断一時金」や「がん診断保険金」など、呼び方が異なる場合があります。
50万円・100万円単位のまとまった金額から、万が一の時に受け取れる金額を自由に設定することが可能です。給付金の使い道は限定されておらず、入院費用にも退院後の通院費用にも使うことが可能です。
なお、がん診断給付金を受け取れる回数は「1回のみ」や「無制限」など、ご加入いただく保険によってさまざまです。
がん入院給付金
- がん入院給付金(がんにゅういんきゅうふきん)
- がんの治療を目的に入院した場合に受け取れる給付金のこと。
受け取れる入院給付金の金額は、5,000円や1万円など用意された選択肢の中からご自身で設定します。
入院給付金の保障期間に関して、医療保険とがん保険では以下の違いがあります。
医療保険 | 一般的に、60日や120日など給付される日数に制限がある |
---|---|
がん保険 | 一般的に入院日数の制限はない |
万が一治療が長引いて長期入院になったとしても、全日数分の入院給付金を受け取ることが可能です。
がん通院給付金
- がん通院給付金(がんつういんきゅうふきん)
- がん治療のために通院した場合に受け取れる給付金のこと。
入院前後の通院で保障されるタイプ、通院のみで保障されるタイプなど保障の形態は保険の種類によっても異なります。
かつては、がん治療と言えば「入院して手術をするもの」というケースが多かったものが、現在では医療技術の進歩によって通院による治療を受ける人が増加しており、平成20年の時点から外来で治療する人が入院で治療する人を上回っています。

※出典:厚生労働省「平成29年患者調査」
統計表5受療率(人口10万対),総数-入院-外来・年次・傷病大分類別より作成
このことから、がん保険も通院の保障を手厚くする必要性が高まっているといえます。
がん手術給付金
- がん手術給付金(がんしゅじゅつきゅうふきん)
- 所定のがんの手術を受けた場合に入院給付金とは別で受け取れる給付金のこと。
入院1日あたりで受け取れる入院給付金と異なり、手術給付金は手術内容によって受け取れる金額が変わります。
保障の金額については「がん入院給付金日額の10倍」など「がん入院給付金日額の〇倍」という表現で表されるのが一般的で、この表記がなされているのは、人によって入院給付金の金額が異なるためです。
例えば、入院日額5,000円の保険に加入している人が倍率20倍の手術を受けた場合、受け取れる手術給付金は5,000×20=10万円となります。
手術の回数には一般的に制限はありませんが、一部の商品には「何日に一回まで」という条件を設けている商品もあります。
(2)がん保険の特約
付加できる特約(オプション)としては、たとえば
・がん先進医療特約
・女性がん特約
・緩和療養特約
があります。
がん先進医療特約
- 先進医療(せんしんいりょう)
- 厚生労働大臣が認定する最新の高度医療技術のこと。
先進医療の技術料は、通常の治療に適用される 健康保険制度や高額療養費制度が適用されません。
たとえば、重粒子線治療という先進医療を受けた場合の費用は、照射回数に関わらず一連の治療で約300万円となります。

がん先進医療特約を付けることで、上図の自己負担となる部分の負担をカバーすることが可能です。
通算1,000万円~2,000万円を上限とし、かかった技術料を実費で保障するタイプが主流になっています。
がん保険に付帯する先進医療特約の場合、「がんの治療を目的とした先進医療」にのみ適用される点は注意が必要です。
女性がん特約
- 女性がん特約(じょせいがんとくやく)
- 女性特有のがんによる入院・手術等の際に保障される特約。
がん保険や医療保険に特約として付加することで、万が一女性特有のがんを罹患した際の保障を手厚くすることができます。
乳房の切除術や子宮・卵巣の全摘手術を受けた時に、手術一回に月〇万円とう形で給付金が支給されます。また、乳がん手術を受けた後の「乳房再建術」を受けた際にも、同様に給付金が支給されるタイプもあります。
契約の形態は保険会社によってもさまざまですが、10年単位の自動更新になっている場合には更新時に保険料が上がることもあるため注意が必要です。
緩和療養特約
- 緩和療養特約(かんわりょうようとくやく)
- がんによる痛みを和らげる治療や緩和ケアのために入院、あるいは在宅医療を受けた時に緩和療養給付金が支給される特約。
がんによる痛みを和らげる目的で疼痛緩和薬(とうつうかんわやく)や神経ブロック等を使用した際などに、入院・通院・在宅のいずれの方法でも保障されます。
特約としてご自身で自由にオーダーメイドできる商品のほか、主契約のがん保険に緩和療養給付金が含まれているタイプもあります。
保険期間や給付金の額は保険ごとに異なるものの、保険期間が終身タイプの特約もあり、支払いは月ごとに1回、保険期間を通じて24回等の支払い上限が設定されるのが一般的です。
何のため? | ・がんの罹患時の高額になりがちな医療費に備えて |
---|---|
いくら必要? | ・社会保険では準備しきれない部分の医療費と収入減による生活費の工面に |
期間は? | ・自分が必要な期間(一定期間、一生涯)を設定 |
誰が使う? | ・自分のために |
受取方法は? | ・診断されたら一括して受け取れる(非課税)保険 |
2. がん保険の必要性
(1)がんの罹患率と死亡率
国立がん研究センターの調査によると、生涯でがんに罹患する確率は、
- 男性65.5%(2人に1人)
- 女性50.2%(2人に1人)
といわれています。
罹患率は男女ともに50歳代くらいから増加し、高齢になればなるほど高くなる傾向にあります。
※出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
対人口10万人(人口10万人あたり、年齢別で何人ががんになるのか)
また、男女でがんで死亡する人の多い部位も異なっていて、男性では肺・胃・大腸・膵臓・肝臓が、女性では大腸・肺・結腸・膵臓・胃 が多いという結果も出ています。


※出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
ただし、死亡する人が多い部位と罹患しやすい部位は異なり、罹患する人の多い部位は男性は前立腺・胃・大腸 の順に、女性は乳房・大腸・結腸の順となっていて違いは明らかです。


※出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
次の図を見るとわかる通り、男性では40歳以上で消化器系のがん(胃、大腸、肝臓)の罹患が多くを占めますが、70歳以上ではその割合は減少し、前立腺がんと肺がんの割合が増加しています。

※出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
女性では40歳代では乳がん、子宮がん、卵巣がんの罹患が多くを占めますが、高齢になるほどその割合は減少し、消化器系のがん(胃、大腸、肝臓)と肺がんの割合が増加する傾向にあります。

※出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
このように、男女それぞれで罹患しやすいがん、死亡するリスクの高いがんが違うことを理解し、それぞれの年齢ごとに異なるリスクがあることを知っておきましょう。
また、
・検診受診率の上昇により早期発見・早期治療ができるようになった
・治療技術の進歩
・検査技術の向上 など
の理由から罹患率が延びているかわりに、がんの死亡率は減少していることから、がんは「早期で治療すれば治る」病気へと変わってきました。
(2)がん保険の加入率
公益財団法人生命保険文化センター「令和元年度 生活保障に関する調査」によれば、がん保険・がん特約の加入率は42.6%です。

※出典:公益財団法人生命保険文化センター 令和元年9月 「生活保障に関する調査」民間の生命保険会社・JA(農協)・県民共済・生協などを含むがん保険・がん特約
上図のように、がん保険の加入率は右肩上がりで増加しており、2人に1人に近い割合の人が何らかのがん保険に加入していることになります。
性別ごとの加入率を見ると男性は43.2%・女性は42.2%と、若干男性の方が加入率が高くなっており、性別を通じて40代の加入率がもっとも高くなっています。

※出典:公益財団法人生命保険文化センター 令和元年9月 「生活保障に関する調査」
また、がんへの備えはがん保険だけでなく、三大疾病(がん、急性心筋梗塞、脳卒中)に備えるための特定疾病保障保険に加入する方法もあります。
民間の生命保険会社やJA(農協)、県民共済、生協などで扱う特定疾病保障保険・特定疾病保障特約の加入率は36.1%となっています。
(3)がん患者の就労の現状について
独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センターの調べによると、がんの患者数は年々増加しています。
20016年に診断年全罹患者数は99万5,131人で、20歳から64歳までの罹患患者数は25万8,257人と全体の26.0%を占めていることから、2〜3人に1人は就労可能年齢でがんに罹患していることがわかりました。

※資料:厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」を基に同省健康局にて 特別集計したもの
がんの治療にはたくさんのお金がかかりますので、治療費をまかなうためにも治療を続けながら働く必要が出てきます。
がんの治療をしながら働いている人 仕事を持ちながら通院している人 |
|
---|---|
男性 | 約14万4,000人 |
女性 | 約18万1,000人 |
合計:約32万5,000人 |
上表より、一昔前までの「がんは長期入院して治療する」というイメージから「働きながら治療する」段階に入ってきていることがわかります。
実際に、がん医療(放射線療法・化学療法・手術療法)の進歩は目覚ましいものがあり、生存率も1993年から1996年までが53.2%だったのに対して、2003年から2005年にかけては58.6%と上がってきています。

※出典:厚生労働省「がん患者の就労や就労支援に関する現状」
また、内閣府が令和元年9月に行ったがん対策に関する世論調査では、総数の57.5%が
がんの治療や検査のために2週間に一度程度病院に通う必要がある場合、働きつづけられる環境だと思うか
という質問に「そうとは思えない」と答えています。

※内閣府大臣官房政府広報室 2019年9月「がん対策・たばこ対策に関する世論調査」
がんと診断された後に依願退職したり解雇された人も34%いることから、3人に1人はがんの治療と仕事の両立ができなかったこともわかります。
東京都福祉保健局の調査の中でも、がん患者の53.1%が治療に専念するために退職していて、
・職場から勧められた(15.4%)
・職場に居づらくなった(17.7%)
人もいることから、会社との関係が悪くなったことが影響して がん治療と仕事を両立できなかった人が一定数いる ことも問題の一因となっています。

※出典:東京都福祉保健局 平成26年「がん患者の就労等に関する実態調査」
(4)がん診断後の仕事・収入の変化
NPO法人がん患者団体支援機構・ニッセイライフ共同実施アンケート調査によると、がんと診断された人で
・仕事をそれまでと変わらずに続けることができた人は56%
・仕事が変わったり無職になった人は39%
いることがわかりました。
そして、平均年収の変化もがんと診断される前は約395万円だったものが、診断後には約167万円と下がってしまっていることから、やはりがんの治療は仕事や生活に多大な影響を与えていると言わざるをえません。


※出典:NPO法人がん患者団体支援機構・ニッセイライフ共同実施アンケート調査(平成21年)
がん患者の就労に関しては国も対策を講じ始めており、国によるサポート体制が整いだしてはいますが、まだまだがん患者にとって当たり前のように普通に働き続けることができる世の中になるまで時間がかかるでしょう。
東京都福祉保健局の「がん患者の就労等に関する実態調査」の中でも、がん治療と仕事の両立をするうえで難しかったことの理由として、「治療費が高い、必要な治療費の見通しが立たない」(34.5%)の次に、「働き方を変えたり休職することで収入が減少する」と答えた人が29.7%いるという現状もあります。

※出典:東京都福祉保健局「がん患者の就労等に関する実態調査」上位5位 複数回答可
がんの治療をしながら働き続けることが困難になってしまったときのために、やはりがん保険の加入は早めに検討しておくべきでしょう。
(5)がんの治療費はいくらかかる?
がんの治療費は高額になりがちで、がんの部位や範囲、進行具合によって治療方法は異なり、かかる治療費にも差が出ます。
また、がんの治療費の問題は個人だけではなく、家族の問題としても家計を圧迫する原因となります。
がん治療による休職や退職も念頭に入れ、治療費や収入減による生活費の補てん方法を早いうちに考えておくと良いでしょう。
高額な治療費には健康保険の「高額療養費制度」などの社会保険も利用できますが、それを差し引いても家計にかかる負担は大きくなる傾向にありますので、預貯金に大きな余裕がない場合にはやはりがん保険への加入を検討することが必要になってきます。
これから紹介する治療費の目安は、セールス手帖社保険FPS研究所発行の「がんとお金の真実」という冊子を参考にしています。
胃がんの治療費の目安
治療名 | 費用の目安 |
---|---|
内視鏡治療 | 約5万7,000円 (自己負担3割:約1万7,000円) |
入院費用(5日間) | 約26万円 (自己負担3割:約7万8,000円) |
入院諸経費 | 約2万円 (全額自己負担) |
薬物療法 (抗がん剤治療) |
約68万1,000円 (自己負担3割:約20万4,000円) |
3ヶ月ごとの定期検査 | 約13万3,000円 (自己負担3割:約4万円) |
通院のための交通費 | 約1万円(全額自己負担) |
合計:約36万9,000円 (罹患後3年間、高額療養費適用なし) |
肺がんの治療費の目安
治療名 | 費用の目安 |
---|---|
胸部CT検査 MRI検査などの精密検査 |
約34万3,000円 (自己負担3割:約10万3,000円) |
放射線療法 薬物療法 |
約92万円 (自己負担3割:約27万6,000円) 高額療養費適用後の自己負担:8万7,000円 |
抗がん剤治療 | 約68万円 (自己負担3割:約20万4,000円) |
薬物療法 (抗がん剤治療) |
約68万1,000円 (自己負担3割:約20万4,000円) |
セカンドオピニオン受診 | 約3万5,000円(全額自己負担) |
診療情報提供書などの費用 | 約6,000円 (自己負担3割約2,000円) |
入院費用(10日間) | 約95万7,000円 (自己負担3割:約28万7,000円) 高額療養費適用後の自己負担:約8万7,000円 |
薬物療法(22ヶ月) | 約440万円 (自己負担3割:約132万円) |
定期検査(2年間) | 約40万4,000円 (自己負担3割:約12万1,000円) |
通院のための交通費 | 約11万円(全額自己負担) |
合計:約206万9,000円(罹患後3年間) |
乳癌の治療費の目安
治療名 | 費用の目安 |
---|---|
マンモグラフィー検査 エコー検査など |
約11万円 (自己負担3割:約3万3,000円) |
抗がん剤治療 | 約72万円 (自己負担3割:約21万6,000円) |
入院費用(14日間) | 約100万円 (自己負担3割:約30万円) 高額療養費適用後の自己負担:約8万7,000円 |
差額ベッド代(14日間) | 約28万円(全額自己負担) |
入院にかかった諸経費 | 約1万円(全額自己負担) |
入院で家族にかかった外食費や交通費 | 約3万円(全額自己負担) |
抗がん剤治療 | 約57万6,000円 (自己負担3割:約17万3,000円) |
ウィッグ、健康食品、サプリ、漢方など | 約10万円(全額自己負担) |
ホルモン療法 | 約95万円 (自己負担3割:約28万5,000円) |
インプラントによる乳房再建手術(4日間) | 約100万円(健康保険適用外、全額自己負担) |
定期検査により薬物療法、ホルモン療法 | 約354万円 高額療養費適用後の自己負担:64万2,000円 |
リンパドレナージマッサージ | 約18万円(全額自己負担) |
リンパ浮腫予防の弾性スリーブ代 | 約6万円 (自己負担3割:約1万8,000円) |
再発のための治療と定期検査 | 約67万円 (自己負担3割:約20万円) |
通院のための交通費 | 約8万円(全額自己負担) |
その他の雑費 | 約5万円(全額自己負担) |
合計:約353万5,000円(罹患後5年間) |
(6)公的医療保険制度でカバーできる金額
高額療養費制度を利用した場合
- 高額療養費制度(こうがくりょうようひせいど)
- 同一月(1日から月末まで)にかかった医療費が「自己負担限度額」を超えた場合に、超えた分があとから払い戻される制度のこと。
また、診療を受けた月以前の1年間に3ヶ月以上の高額療養費の支給を受けた場合、4ヶ月目からは「多数該当」として自己負担限度額はさらに軽減されます。
自己負担限度額は年齢や所得状況によって以下のとおりです。
所得区分 | 自己負担限度額 | 多数該当 |
---|---|---|
①区分ア (標準報酬月額83万円以上の方) (報酬月額81万円以上の方) |
252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | 141,000円 |
②区分イ (標準報酬月額53万円~79万円の方) (報酬月額51万5千円以上~81万円未満の方) |
167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
③区分ウ (標準報酬月額28万円~50万円の方) (報酬月額27万円以上~51万5千円未満の方) |
80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
④区分エ (標準報酬月額26万円以下の方) (報酬月額27万円未満の方) |
57,600円 | 44,400円 |
⑤区分オ(低所得者) (被保険者が市区町村民税の非課税者等 |
35,400円 | 24,600円 |
※70歳未満の区分
傷病手当金を利用した場合
- 傷病手当金(しょうびょうてあてきん)
- 主に会社員が加入する健康保険、公務員等が加入する公務員等共済組合で業務災害以外の理由による病気・ケガの療養のため仕事を休んだ場合に、所得保障を行うという法律上定められた制度。※出典:全国健康保険協会「傷病手当金」
傷病手当金を受け取るためには、以下の4つの条件を満たしている必要があります。
1. 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
2. 仕事に就くことができないこと
3. 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
4. 休業した期間について給与の支払いがないこと
傷病手当金が支給される期間は支給開始した日から最長で1年6ヶ月となり、1年6ヶ月を超えた場合には傷病手当は支給されません。
また、支給される1日あたりの金額は、支給開始日以前の連続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を30で割った金額の2/3です。
傷病手当金の1日あたりの支給額=支給開始前の過去12ヶ月の各月の標準報酬月額を平均した額÷ 30日 × 2/3
なお、自営業者等が加入する国民健康保険では任意給付(保険者である自治体単位で給付の有無を決定する項目)となるため、所得保障されないことがほとんどです。会社員よりもがん保険等に加入する必要性は高まると考えられます。
また傷病手当金は国民健康保険に加入しており、2020年の新型コロナウィルス感染症に感染した被用者にも給付されることとなりました。
※出典:厚生労働省 保険局国民健康保険課および高齢者医療課「新型コロナウイルス感染症に感染した被用者に対する傷病手当金の支給等について」
障害年金を利用した場合
- 障害年金(しょうがいねんきん)
- 障害年金とは、病気やケガなどによって仕事や生活が制限されるようになった場合に、現役世代の人でも受け取ることができる年金のこと。
国民年金の加入者が請求できる「障害基礎年金」と、厚生年金の加入者が請求できる「障害厚生年金」に分かれます。
支給される年金額は障害等級によって異なります。
障害基礎年金 (令和2年4月分から) |
|
1級 | 781,700円×1.25+子の加算額 |
2級 | 781,700円+子の加算額 |
子の加算額 | |
第1子・第2子 | 各224,900円 |
第3子以降 | 各75,000円 |
障害厚生年金 (令和2年4月分から) |
|
1級 | 報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金額(224,900円) |
2級 | 報酬比例の年金額+配偶者の加給年金額(224,900円) |
3級 | 報酬比例の年金額(最低保障額 586,300円) |
障害厚生年金の支給額を求めるには「報酬比例の年金額」を知る必要があります。計算式は以下のとおりです。
報酬比例の年金額=A+B
A:平成15年3月以前の加入期間
平均標準報酬月額×7.125÷1000×平成15年3月までの加入月数
B:平成15年4月以降の加入期間
平均標準報酬額×5.481÷1000×平成15年4月以降の加入月数
障害手当金を利用した場合
- 障害手当金(しょうがいてあてきん)
- 障害手当金とは、障害厚生年金に含まれる制度のこと。
障害厚生年金の障害等級(3級)よりも軽い障害状態の場合に一時金として支給されます。
支給額の計算式は以下のとおりです。
障害手当金の支給額=報酬比例額の年金額×2
最低保証額として、1,172,600円が定められています。報酬比例額の求め方については「障害年金を利用した場合」をご覧ください。
(7)公的医療保険制度の対象外の項目にかかる金額
対象外の項目とかかる費用
公的年金制度では一部の費用について対象外となる項目があり、その点の費用に関しては自己負担での支払いが必要になります。
公的医療保険の対象外とされる主な項目は以下のとおりです。
・差額ベッド代
・先進医療の自己負担分
・入院中の生活費
- 差額ベッド代(さがくべっどだい)
- 6人部屋等の大部屋より人数が少ない部屋を選択した際に発生するベッド代。
利用する病院ごとに1日あたりの差額ベッド代は大きく変わりますが、1人室~4人室までの差額ベッド代は平均で1日あたり「6,188円」となっています。
1日あたりの平均徴収額(推計) | |
---|---|
1人室 | 7,837円 |
2人室 | 3,119円 |
3人室 | 2,798円 |
4人室 | 2,440円 |
1人室~4人室までの平均=6,188円 |
※出典:「第401回中央社会保険医療協議会・主な選定療養に係る報告状況」平成30年11月
これらの差額ベッド代は、入院1日につき発生する費用になるため、数日の入院であれば負担は少なく感じますが、長期入院になった場合は負担が大きくなります。
平成29年度の「患者調査の概況」によれば、悪性新生物(がん)による平均在院日数は17.1日でした。
年齢を重ねるごとに入院が長期化する傾向にあることから、個室等を希望される場合はがん保険加入への検討をおすすめします。
そのほか、入院中に発生する治療以外の生活全般の費用に関しては公的医療保険ではカバーされません。
先進医療の項目とかかる費用
先述した先進医療について、厚生労働省「令和元年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」という資料で先進医療の技術料が発表されていますが、先進医療の種類によってかかる技術料はさまざまです。
先進医療Aに係る費用(抜粋)
技術名 | 平均技術費用※ |
---|---|
陽子線治療 | 約270万円 |
重粒子線治療 | 約309万円 |
抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査 | 約3万8,000円 |
※先進医療総額から年間実施件数を割って算出
1ヶ月の医療費が200万円かかったうちの100万円が先進医療であった場合、公的医療保険の対象になるのは先進医療以外の100万円の70%のみです。
一部自己負担分については「高額療養費制度」が適用されますが、先進医療の技術料には高額療養費は適用されません。
このケースでは、100万円の先進医療の技術料の全額を患者が支払わなければいけません。
自由診療の項目とかかる費用
- 自由診療(じゆうしんりょう)
- 自由診療は、厚生労働省の認可が下りていない治療法や薬を使用する医療行為で、保険が適用されない診療にあたる。
自由診療と先進医療の違いは「本来は健康保険が適用されて自己負担が3割になる部分の治療も含めて全額が自己負担になる」という点です。
1ヶ月の医療費が200万円かかったうちの100万円が国内未承認の抗がん剤等を使用した自由診療であった場合、本来は健康保険の給付対象となる100万円を含めた200万円全額が自己負担となります。
自由診療を選択することで治療の選択肢が増え、自分の病気に合った治療を受けることが可能となります。
「国内では未承認でも海外では承認済み」等の最先端治療を受けることも可能ですが、公的医療保険の対象外のため、かかった治療費は全て患者の負担になります。
3. がん保険が必要な人、不要・いらない人
がん保険の概要を踏まえて、がん保険が必要な人と、逆に不要・いらない人はどのような人でしょうか。
(1)がん保険が必要な人
がん保険が必要な人は、がんによる入院や手術の費用を手厚くカバーしたいと考えている人です。
がんの進行によって治療期間は大きく変わるほか、先進医療や自由診療を選択すれば、かかる治療費は膨大になります。
医療保険でもがんに対する保障は可能ですが、がんに特化したがん保険のほうが、より手厚い保障を受けることが可能です。
医療保険の場合は支払い日数が60日や120日などの制限が設けられていますが、がん保険には支払限度日数が設定されていない保険が揃っています。
長期入院に備えたい人も、がん保険を検討するのがおすすめです。
(2)がん保険が不要・いらない人
がん保険が不要・いらない人とは、万が一がんにかかった際の治療費をご自身の貯蓄でまかなえる人です。
がん政策情報センター「がん患者意識調査2010年」によれば、がん治療の自己負担額はさまざまですが、「100万円~150万円」だったという人が1,600人中で170人と最も多くなっています。
このことから、がん治療に使える貯蓄を200万円程度保有している方であれば、がん保険の必要性は低いと考えることができます。
ただし、あくまで平均の数値であり、中には2,000万円以上の自己負担がかかったケースもあります。
治療が長期化することを想定し、貯蓄があってもがん保険への加入を検討することをおすすめします。
4. がん保険のメリット・デメリット
(1)がん保険のメリットとデメリット
がん保険全体のメリットとデメリットを見てまいりましょう。
メリット
がん保険のメリットは以下のとおりです。
・入院給付金は日数の限度が無い
・がん診断時に一時金を受け取ることができる
・先進医療特約で最新の治療法も選択できる
・受け取った保険金や給付金は基本的に非課税である
がん保険の保険金や給付金は、具体的に以下のような給付金や保険金が非課税の対象となります。
・入院給付金
・手術給付金
・通院給付金
・疾病(災害)療養給付金
・障害保険金(給付金)
・特定損傷給付金
・がん診断給付金
・特定疾病(三大疾病)保険金
・先進医療給付金
・高度障害保険金(給付金)
・リビング・ニーズ特約保険金
・介護保険金(一時金・年金) など
ただし、がん保険の中には生存給付金のような「祝い金」のようなものもあり、このような給付金は治療目的ではないため所得税や住民税がかかりますので注意が必要です。
また、非課税で受け取った給付金が相続財産として遺族に引き継がれるような場合には、相続税の課税対象となることもありますので覚えておきましょう。
デメリット
がん保険のデメリットは以下のとおりです。
・がんに対する治療のみを保障対象としている
・皮膚ガン(上皮内新生物)の一部は保険の対象にならないものもある
・契約後には90日間の待機期間(免責期間)がある
・公的な健康保険でも対応できる場合がある死亡保障が少ない
(2)保障期間(保険期間)別のメリットとデメリット
がん保険は、保障期間(保険期間)の違いで終身型と定期型に分けることができます。
それぞれの保障期間のメリット・デメリットとなりえる項目は以下のとおりです。
終身型 | 定期型 | |
メリット | ・一生涯のがんに対する保障がある ・保険料が一生上がらない ※一部の保険会社では60歳以降の保険料が下がるものも販売しています。 |
・終身型と比べて保険料が安い ・保険満了時に保障の見直しができる |
デメリット | ・定期型と比べて保険料が高い場合がある ・契約が長くなれば保障内容が新しい医療技術についていけなくなる可能性がある |
・保障は更新しても80歳までしか続かない場合がほとんど ・更新ごとに保険料が上がる |
「一生涯のがんの保障がほしい」「保険料は一生上がらないほうがいい」と思うなら終身型を、「一定の期間だけ保障が欲しい」「今は保険料をできるだけ抑えたい」と思うなら定期型を選ぶと良いでしょう。
ただし、どちらを選んでもライフステージなどの変化があれば保障の見直しをすることもできますし、がんに対する最新の治療法を保障するプランがあれば比較検討して見直すこともできます。