そもそも年末調整って?
まずは、年末調整について解説していきます。
年末調整とは
年末調整の時期になると、
- 保険会社からは「保険料控除証明書」
- 会社からは「給与所得者の保険料控除申告書」
が配布されます。
年末調整では、給与所得者である従業員が「給与所得者の保険料控除申告書」と共に「保険料控除証明書」などを会社(給与支払者)を経由して管轄の税務署長に提出することで、払いすぎている税金が戻ってくることがあります。

なお給与支払者は、税務署長から提出を求められたとき以外は、給与所得者の保険料控除申告書を提出する必要はありません。提出を求められなかった場合は、給与支払者が保管しておくことになっています。
関連ページ:生命保険料控除証明書とは?控除証明書を紛失した場合はどうすればいい?
生命保険料控除とは?わかりやすく解説
生命保険料控除とは
会社員や公務員などの給与所得者(従業員)が支払うべき所得税や住民税は、毎月支払われる給与から天引きされ、給与支払者(会社)経由で納税されています。
そもそも給与所得者が支払うべき所得税は、年収から給与所得控除を差し引いた「給与所得」から、さらに従業員個人で加入している保険の保険料などの所得控除を差し引いた「課税所得」を基礎として算出されます。
ココがポイント
毎月、給与支払者経由で支払っている所得税や住民税には、保険料などの所得控除が加味されていません。そのため年末調整で、過不足を調整することになります。
つまり、特定の生命保険や損害保険などに加入している場合、所得から控除されて税金が安くなるのです。
会社員や公務員が年末調整で利用できる所得控除には主に、生命保険料控除や地震保険料控除などがあります。
生命保険料控除は、
- 一般の生命保険
- 個人年金保険
- 介護医療保険
の3つの保険のどれかに加入していた場合に、年間の支払保険料により一定額が所得控除となります。地震保険料控除では、火災保険とセットで加入する地震保険の地震保険料のみが所得控除となります。
生命保険料控除は自動的に適用されるのではなく、年末調整や確定申告の際に自分で申告しなければなりません。
年末調整での生命保険料控除の申告方法
給与所得者は年末調整で生命保険料控除を申告すると、給与から天引きされていた所得税が還付されます。自営業者は確定申告後に支払う税金が軽減されます。

step
1「給与所得者の保険料控除申告書」に必要事項を記入する
まず、会社から配布された「給与所得者の保険料控除申告書」に、自身が契約している保険についてなどの必要事項を記入します。
step
2「保険料控除証明書」を添付する
1の申告書に、加入している生命保険(一般の生命保険、個人年金保険、介護医療保険)や地震保険に関する保険会社から送られてきた「保険料控除証明書」を添付します。
step
3給与支払者である会社に提出する
これらを会社の提出期日までに提出すれば、生命保険料控除の申告が完了です。

また、年末調整で生命保険料控除をし忘れてしまった場合でも、自分自身で確定申告の手続きをすれば所得税や住民税が戻ってきます。なお還付の確定申告は、5年間さかのぼって申告することが可能です。
関連ページ:【2022年】年末調整で生命保険料控除を出し忘れたらどうなる?その対処法
戻ってくる金額はいくら?生命保険料控除による還付金の計算方法
では、生命保険料控除で一体いくら税金が戻ってくるのかを計算してみましょう。

支払った生命保険料のうち控除対象となる金額 × 所得税率 = 還付金額
また、この計算をするには下記の書類が必要です。
必要書類
- 生命保険料控除証明書
- 源泉徴収票
次に、計算の詳しい手順を見ていきましょう。
step
1生命保険料の控除金額を確認
まずは、生命保険料控除証明書を用意して、ご自身が年間に支払っている保険料を確認しましょう。
生命保険料控除の対象となる金額は、以下の表の通りです。なお、2012年度より生命保険料控除制度が改正され、
- 2011年12月31日までに締結した保険契約は「旧制度」
- 2012年1月1日以降に締結した保険契約は「新制度」
と明記されます。
所得税の生命保険料控除額
新制度
年間払込保険料 | 控除される金額 |
20,000円以下 | 払込保険料全額 |
20,000円超 40,000円以下 |
(払込保険料×1/2)+10,000円 |
40,000円超 80,000円以下 |
(払込保険料×1/4)+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
旧制度
年間払込保険料 | 控除される金額 |
25,000円以下 | 払込保険料全額 |
25,000円超 50,000円以下 |
(払込保険料×1/2)+12,500円 |
50,000円超 100,000円以下 |
(払込保険料×1/4)+25,000円 |
100,000円超 | 一律50,000円 |
住民税の生命保険料控除額
新制度
年間払込保険料 | 控除される金額 |
12,000円以下 | 払込保険料全額 |
12,000円超 32,000円以下 |
(払込保険料×1/2)+6,000円 |
32,000円超 56,000円以下 |
(払込保険料×1/4)+14,000円 |
56,000円超 | 一律28,000円 |
旧制度
年間払込保険料 | 控除される金額 |
15,000円以下 | 払込保険料全額 |
15,000円超 40,000円以下 |
(払込保険料×1/2)+7,500円 |
40,000円超 70,000円以下 |
(払込保険料×1/4)+17,500円 |
70,000円超 | 一律35,000円 |
※新制度は一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料(税制適格特約付加)それぞれに適用
※旧制度は一般生命保険料、個人年金保険料(税制適格特約付加)それぞれに適用
保険の契約時期や支払っている保険料によって、控除金額は異なります。生命保険料控除証明書で支払い保険料を確認し、控除額を上記の表でチェックしてみましょう。
複数年度分の保険料を一度に支払った場合は、1年ずつ保険料を振り分けた生命保険料控除証明書が送付されますので、その金額をそのまま採用して下さいね。
例:新制度での生命保険料控除額の計算方法
ここで、加入している生命保険が「新制度」の場合を例に、計算シミュレーションをしてみます。
年間の保険料が8万円を超える場合は、所得税から控除される金額は4万円です。3万円の場合は、2万5,000円になります。
「じゃあ年間保険料が8万円を超えている場合は、4万円税金が戻ってくるの?」と疑問に思う方もいるかと思いますが、4万円丸ごと戻ってくることはありません。
ココがポイント
生命保険料控除で戻ってくるのは支払いすぎた税金ですので、このケースでは4万円に対して支払った所得税が還付されます。
「控除される4万円に対しては、所得税がかからない」というのが生命保険料控除です。
複数の生命保険に加入している場合はどうなる?

新制度での所得税の生命保険料控除には、前述したとおり以下の3枠の控除があります。
- 生命保険
- 個人年金保険
- 介護医療保険
3種類のうち複数の保険に加入している場合、各保険で控除額を算出して、各加入保険の控除額の合算額が全体の控除額となります。
ココがポイント
もし3種類すべての保険に加入している場合、控除限度額は各保険4万円なので、全体の控除限度額は合計で12万円(4万円×3)です。
生命保険と介護医療保険の2種類の保険に加入しているケースで、一般生命保険料が年間10万円・介護医療保険料が年間3万円の場合、一般生命保険料の控除額は4万円・介護医療保険料の控除額は2万5,000円になるので、全体の控除額は6万5,000円となります。
step
2自分の所得税率を把握する
次に、自身の所得税率を確認するために課税所得を源泉徴収票で確認します。給与所得者の場合は収入から、
- 基礎控除
- 社会保険料控除
- 配偶者控除
- 扶養控除
- 給与所得控除
- 医療保険料控除 など
を差し引いたものが課税所得になります。所得税の税率は、所得に応じて増える仕組みになっています。
課税所得 | 所得税率 |
195万円以下 | 5% |
330万円以下 | 10% |
695万円以下 | 20% |
900万円以下 | 23% |
1800万円以下 | 33% |
4000万円以下 | 40% |
4000万円超 | 45% |

step
3生命保険料控除の対象金額に所得税率をかける
では、実際に生命保険料控除によって戻ってくる還付金額を、計算シミュレーションしてみましょう。
年間払込保険料が8万円を超え、生命保険料控除が4万円・課税所得が500万円の場合、上の表を見ると所得税率は20%です。なので、戻ってくる税金は4万円の20%である8,000円になります。
4万円(支払った生命保険料のうち控除される金額) × 20%(所得税率) = 8,000円(戻ってくる税金の金額)
生命保険料控除の還付金額は税率が低い場合はそれほど高額にはなりませんが、申告すれば必ず受け取ることができるので、面倒くさがらずに手続きしましょう。

関連ページ:【2022年】年末調整で生命保険料控除を出し忘れたらどうなる?その対処法
自営業者の生命保険料控除の計算方法
これまで給与所得者を例にとって説明してきましたが、自営業者も基本の考え方は同様です。
確定申告のように、課税所得を計算して自身の所得税率を割り出し、生命保険料控除の対象金額にかけた分だけ、支払う所得税額が減額されます。
共働き夫婦の場合、どちらが生命保険料控除を申告するのがいい?
共働き夫婦の場合、生命保険料控除はどちらが申告したらいいのでしょうか?
国税庁によると
納税者が生命保険料、介護医療保険料及び個人年金保険料を支払った場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます
とあり、保険料を支払った人が生命保険料控除を申告することになっています。
※出典:国税庁 No.1140 生命保険料控除
なお、妻が生命保険の契約者だが、保険料は夫が払っているといった場合はどうなるのでしょうか?
国税庁のFAQには
Aがその保険料を支払ったことを明らかにした場合は、生命保険料控除の対象として差し支えありません。
とあります。
生命保険料控除を受けるのに
必ずしも払込みをする者が保険契約者である必要はありません(所得税法第76条第5項、第6項)
とも明記されていて、夫婦や家族の保険などを、夫が保険料を払っている場合は、「生命保険料控除」を夫にまとめても構いません。
※出典:国税庁 妻名義の生命保険料控除証明書に基づく生命保険料控除
ただし、生命保険料控除には上限があり、その上限に達してしまう際は、本人分の保険料が優先して処理される傾向にあるようです。
よって、夫婦で収入があるなら、上限を超えないように、それぞれが申告をしたほうがよいでしょう。
パートで働く人は生命保険料控除を申告できる?
パートで働く人も生命保険料控除を受けることができます。
共働き夫婦の場合、どちらが生命保険料控除を申告するのがいい?で説明した通り、生命保険の契約者ではなくても、パートで働く人の口座などから保険料を支払っているのであれば、生命保険料控除を申告することが可能です。
住民税は還付ではなく軽減される
生命保険料控除は住民税に対しても適用されますが、住民税は前年度の所得に対してかけられるものなので、申告することで翌年の税金が軽減されます。

なお、控除額は控除対象の保険料にそれぞれ適用され、複数の保険に加入している場合は、合算額が控除額となり7万円が限度となります。
旧制度の場合
控除の対象は、以下の2つの生命保険です。
- 一般生命保険
- 個人年金保険
年間払込保険料 | 控除される金額 |
1万5,000円以下 | 払込保険料等の全額 |
1万5,000円超~ 4万円以下 |
払込保険料等の2分の1+7,500円 |
4万円超~7万円以下 | 払込保険料等の4分の1+1万7,500円 |
7万円超 | 一律3万5,000円 |
新制度の場合
控除の対象は、以下の3つの生命保険です。
- 一般生命保険
- 個人年金保険
- 介護医療保険
年間払込保険料 | 控除される金額 |
1万2,000円以下 | 払込保険料等の全額 |
1万2,000円超~ 3万2,000円以下 |
払込保険料等の2分の1+6,000円 |
3万2,000円超~ 5万6,000円以下 |
払込保険料等の4分の1+1万4,000円 |
5万6,000円超 | 一律2万8,000円 |
たとえば「新制度になってから生命保険と介護医療保険に加入し、年間10万円の一般生命保険料と年間3万円の介護医療保険料を支払い、所得税率が10%の方」の場合、住民税と所得税がいくら控除されるのでしょうか。
この方のケースでは、一般生命保険料の控除額は、所得税分が4万円・住民税分が2万8,000円。介護医療保険料の控除額は、所得税分が2万5,000円・住民税分が2万1,000円です。

所得税は、6万5,000円の10%である6,500円が安くなり戻ってきます。住民税は一律10%なので、4万9,000円の10%である4,900円が安くなり、翌年の住民税が軽減されます。
介護医療費保険料控除の対象は2012年以降の契約から
所得税や住民税の生命保険料控除については、平成22年度(2010年)の税制改正において、旧制度と新制度で扱いが異なることになりました。
ココがポイント
新制度では、従来の生命保険料控除及び個人年金保険料控除に加えて、介護医療保険料控除も適用される扱いとなっています。
介護医療保険料控除の対象となる契約は、平成24年(2012年)1月1日以降に契約した、
- 医療保険
- 医療費用保険
- がん保険
- 介護保障保険
- 介護費用保険
などの契約です。
介護医療保険の生命保険料控除をシミュレーション
介護医療保険に加入していて、介護医療保険料が年間3万円、所得税率が10%の方の事例を検証します。
この方の契約が新制度の対象である場合、介護医療保険料の控除額は、所得税分が2万5,000円・住民税分が2万1,000円となります。
所得税は、2万5,000円の10%である2,500円が安くなり戻ってきます。住民税は一律10%なので、2万1,000円の10%である2,100円が安くなり翌年の住民税が軽減されます。
ココに注意
対してこの方の契約が旧制度の対象である場合、介護医療保険料控除は適用になりません。
そのため新制度の対象である契約と比較すると、所得税と住民税を合算して4,600円の差額があります。
関連記事:生命保険料控除とふるさと納税はどちらがお得?併用による影響や上限に関して解説
まとめ
生命保険料控除の対象となる金額は、保険料や契約時期によって異なります。そのため、生命保険料控除証明書で保険料と加入時期を確認の上、保険料控除額の表で控除金額を確認してみましょう。
その上でご自身の所得税率がわかれば、還付・減額される金額がわかります。所得が多い方は戻ってくる金額も多いので、年末調整や確定申告の際に忘れずに申告してくださいね。