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日本のInsurTech(インシュアテック)の社会的意義と発展について
教育機関・研究機関の専門家インタビュー記事一覧

日本のInsurTech(インシュアテック)の社会的意義と発展について

青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科でコーポレート・ファイナンス、サステナブル・ファイナンス、コーポレート・ガバナンス、アドバンスト・コーポレート・コミュニケーションを中心に指導されている伊藤晴祥准教授に日本のInsurTechの社会的意義と発展についてお話を伺ってきました。

今の専攻を志されたきっかけは何ですか?

aogaku-ito-haruyoshiファイナンスを専攻したのは大学2年生の時ですが、父が会社の経営を行っていたことから、経営学を勉強したいと思っておりました。さらに高校まで物理学等、数字を扱う学問が得意であったことから、ファイナンスは、経営を数字で分析することができる学問分野であり、自分に合っていると考えファイナンス専攻に進み、今でも興味を持って研究に取り組んでいます。

先生にとって、保険を一言で表現すると、どのようなものでしょうか?

aogaku-ito-haruyoshi困ったことを「仕方なく」お金で解決する仕組み。例えば、健康保険などであれば、本来人々が欲しいものは健康な体、病気にならない体であり、病気になった時に医者にかかる費用を補填してくれる保険は、あくまでも次善であり、最善ではないため、このように考えています。人々が本当に欲しいと思っているものは何かを考えることが重要と思っています。

日本のInsurTechのマーケットサイズは小さく、商品開発の余地がある

コのほけん!編集部

2017年経済産業省から「FinTechビジョン」が提言され、日本国内の保険業界でもインシュアテックへの注目が一気に高まりました。それから約5年を経た現在、日本のインシュアテックの現状はどのように捉えておりますか?

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
諸外国と比べたら、まだまだだと感じています。住友生命さんのVitality(※1)などのInsurTechを活用した保険商品が出てはきていますが、これも、南アフリカのDiscovery社と提携して開発したものです。アメリカでもApple watchを利用した健康増進型保険の取り組みも進んでいますが、日本では思っているほどではないといえます。生保と損保を比べると、損保のほうが、テレマティクス保険の開発など、InsurTechの活用が進んでいますが、市場規模はまだ小さいです。

中国の相互宝(※2)は、2022年1月28日に運用を終了してしまったのですが、2021年12月時点で加入者は7,500万人でした。2021年末までの受給者数の合計は179,127名でした(いずれの数値もニッセイ基礎研の片山ゆき氏のレポートから引用)。justInCaseのわりかんがん保険の加入者は、2022年8月時点で、5,352人です。日本と中国の人口が約11倍異なるとしても、日本におけるjustInCaseの加入者の割合は、中国の相互宝に対して、約0.08パーセントですね。1,250分の1という話なので、少々寂しいなと感じていて、商品開発の余地はまだあると思います。

InsurTechに関連した保険商品を買おうと思う方もいらっしゃいますが、まだまだこのような商品は一般には浸透していないですし、それ以外にもまだ問題点があります。まだまだ保険会社が努力できることがあるのではないかと考えています。

※1:Vitalityは、住友生命が売り出した「運動や健康診断などの取組みをポイント化し評価する」という仕組みを通じてリスクそのものを減らす健康プログラムを組み込んだ生命保険

※2:相互宝は、中国ネット最大手阿里巴巴集団(アリババグループ)の金融企業である螞蟻集団(アントグループ)のネット互助保険。被保険者が保険金を請求すると、加入者が費用を分担することで被保険者に保険金が支払われる仕組みになっている。毎月定額の保険料があるわけではなく、実際に支払われた保険金の総額と一定割合の運営費用(相互宝は保険金総額に対して8%)を上乗せした金額を加入者の人数で除した金額である分担金を、保険料として支払う後払い方式。

InsurTechの登場によって、これまで一般の生命保険に加入できなかった(しなかった)層へのアプローチができる

コのほけん!編集部

インシュアテックの登場は保険業界にどのような変化をもたらしたと考えていらっしゃいますか?また、インシュアテックは、日本の社会、消費者にとってメリットはありますか?

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
健康増進型など、健康になると保険料が下がるというのは今までにない商品ですし、わりかんがん保険も加入者が約5,000人しかいないものの、P2P保険がインターネットを使って拡大してきたというところはよかったと思います。P2P保険(※3)は仕組みとしては昔からあるものですが、例えば、無尽講(頼母講)(※4)や共済などですが、ただ、まだまだ社会に浸透していないという点をみると、拡大の余地がある思います。もっとメリットを出せるのではないかなと思います。

※3:P2P保険とは、コンピュータ用語の「Peer-to-Peer」(Peer to Peer – Wikipedia)に由来し、対等な関係にあるパソコン同士が通信を行うという意味である。複数人のグループで母集団を形成した保険商品に関して、契約者それぞれが保険料を出し合ってプールしておき、保障(補償)対象となる事象が起こればそこから保険金を支払う。もしくは、保険金を支払ったあとに保険金を契約者の頭数で割り、保険料を後払いするという仕組みである。

※4:無尽講(頼母講)は、金融の融通を目的とした伝統的な地域組織で、組織の一員が一定の掛金を持ち寄り、抽籤(ちゅうせん)や入札などの方法で、順番に各回の掛金の給付を受けるようにしたもの。貧困者の互助救済を目的としたため、はじめは無利子・無担保だったが、掛金をおこたる者があったりしてしだいに利息や担保を取るようになった。無尽講とは – コトバンク

コのほけん!編集部
P2P保険は社会や消費者にとって、具体的にどんなメリットがあるといえますか?

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
中国での話をすると、例えば相互宝だと保障の対象となっている疾病の数が100と多いです。P2P保険は非常に保険料が安く、相互宝だと保険金の支払額に対して8%、日本のわりかんがん保険だと、加入者数に応じて、33.33%−53.85%ぐらいです。2022年8月時点の加入者数を基にすれば20-39歳及び40歳−54歳の方は、51.52%、55-74歳の方は、53.85%となります。日本の医療保険では、付加保険料率が100%を超えることもあります。InsurTechを活用し、低廉な保険商品が開発されることには、貧困層が入れるという意味で非常に大きなメリットがあると思います。

P2P保険の開発において、保険料率や上限とする保険料や保険金額の設定、保険金支払事由が発生したことの確認方法など、メカニズムの正確さは大事なのですが、P2P保険には、保険会社が単独ではリスクを負えないものに関してもリスクを負えるようになるというメリットがあると考えます。新型コロナウィルス感染症のようなパンデミックリスクに関しては難しいかもしれませんが、個人的にはP2P保険などがさらに浸透することにより、保険料率が低い保険商品が多く市中にて利用可能になるとよいと思っています。P2P保険商品が拡充されるといいですね。

日本の社会や消費者におけるメリットという視点に戻りますが、消費者の選択肢が増えたというところでもメリットがあると思います。健康増進型保険のように、健康に気を使い、定期的に運動をすれば保険料が下がるというものや、テレマティクス保険のように、安全運転にさらに配慮すれば、保険料が下がるというようなものです。しかし、一般的に、日本の保険は保険料がまだ高いので、InsurTechをさらに活用すれば、もっと下げることはできるのではないかなと思います。

コのほけん!編集部
今、先生のお話を伺っていて、貧困層の手に届く保険料というのが感覚的にいうと月あたり1,000円以下という印象を受けたのですがいかがでしょうか?

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
その通りです。相互宝だと、100の重大疾病を保障して、罹患率を基にした私の試算では月約260円くらいですね。実際の給付額を基にすればさらに低く、約160円程度だったようです。わりかんがん保険だとがんだけで、その保険料期待値は、20-39歳の方は月253円、40-54歳の方は月544円、55-74歳の方は、2,670円なので、もっと安くできるとよいと考えています。

P2P保険の普及のための課題は保険料の安さ

コのほけん!編集部

日本における「わりかんがん保険」などの「InsurTechを活用した相互支援プログラム(P2P保険)」の課題について、今後普及するためにはどのような取り組みが必要になってくるでしょうか?

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
一番は保険料を下げることだと思います。繰り返しですが、保険金に対して乗る費用、保険料率は、相互宝が8%、わりかんがん保険で33.33%−53.85%です。既存の医療保険は、100%を超える場合もあると伺ったことがあります。以前、ある保険会社の方にお話を伺ったところ、相互宝の8%は安すぎるということでした。

相互宝は、保険商品として当初は申請したようですが、却下されてしまったようですので、規制上は、保険商品ではありません。その後当局から、業務改善命令が出され、オンライン金融事業についても、既存の金融機関と同様の規制を適用されることになり、最終的には運用を終えるという判断になったようです。

保険であれば、例えば責任準備金を積み立てる必要がある等の規制があり、その分、資本コストなどを保険料に上乗せしないといけません。しかし、規制上、保険でなければ、資本を積み増す必要もなく、資本コストを保険料に上乗せする必要が無いため、その分安く提供できると考えられます。

justInCaseのわりかんがん保険は、規制のサンドボックス制度を活用して、少額短期保険として運用を開始しました。P2P保険の本質は、リスクを請け負うのも、保険会社ではなく、保険契約者自身であることにありますので、現状保険会社が負っているリスクを保険契約者に移転できるような、そういう法律周りの整備が進んでいくと、資本コスト等を保険料に上乗せする必要がなくなるため、経費を下げ、安く保険が提供できるようになると思います。

一気に規制緩和せずに、やりやすいところから取り組んでいく。相互宝の例に習えば、日本では300以上の疾病が難病として指定されています(指定難病)。日本の場合、指定難病には医療費助成制度があり、所得水準に従い0円から30,000円の範囲で自己負担の上限額が決まっております。医療費の自己負担額もそれほど高くならないので、保険金も高くする必要がないため、安価な保険の設計がしやすいのではないかと考えます。このように、できるところから保険商品を進めていき、さらに保障の対象を広げる場合には、保険会社への影響はどうか、その影響を間接的に受ける、保険契約者への影響はどうかを検討し、規制のサンドボックス制度などを活用して試験的に進めたうえで、段階的に検証を進めながら規制緩和を進めるのがよいのではないかと思います。

コのほけん!編集部
やりやすいところから取り組んでいく、限定的かつ段階的に取り組んでいき、そのうえで仕組みや法律などのルール整備が必要ということですね。

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
日本では、InsurTechを使った保険というのは馴染みがないと思います。

普通の保険は、契約をして保険料を先に支払って、保険金が後で支払われます。保険料が英語では、premiumと呼ばれることの所以です。
P2P保険は、それとは逆で、契約が先で、保険金が支払われて、保険金に管理費用等を上乗せした金額を契約者の頭数で割った保険料を後で支払う形です。保険料は後払いであり、保険金に応じて決まりますので、バラつきが生じます。そこに対して不安を感じる方も少なからずいらっしゃると思いますので、不確実性が保険契約者の人数に応じてどのように変化するか等について理解を深めて頂くような教育等も必要になってくると思います。

コのほけん!編集部
教育という視点で言うと、4月から高校の家庭科で資産形成の授業が始まっていますが、そこに含めていったほうがいいということでしょうか?

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
それもそうですが、もっと言うと、アクチュアリー(保険数理人)的な考え方が大事です。自分が払っている保険料が、保険金や保障の対象と比較して適正なのかどうかということをわかっていないといけません。

例えばですが、自分が1年以内にがんになる確率は0.05%で、保険金が100万円に対して、1年間で支払う保険料が500円であれば、保険数理上、公平な価格(ただし金利の影響は無視しています)といえますが、その保険料が1,000円などであれば、高いと感じます。

保険料に乗っている必要経費が20%くらいで、保険料が600円くらいであれば、まだ需要はあると思うのですが、上記の通り、現状では難しいかもしれません。保険を理解するためには、保険だけの勉強ではなくて、統計学や財務、金融等、総合的な教育が大事になってきます。

コのほけん!編集部
お話を伺っていると、公教育がものすごく大事なのかなと感じます。

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
そうですね。家庭科の授業でやっているように、保健体育の保健も大事です。どの栄養素が健康維持のためには大事で、それを取るためにはどのような食事をしなければならないか、理解をすれば、健康リスクは低減できて、万が一の時に備える保険のみがあればよいことになります。さらに、保険会社からみても、健康リスクが低減することは保険金支払額の減少につながりますので、メリットがあると言えます。
自身の健康を維持するためにはどうすればよいかを理解し、自身の健康リスクを理解したうえで、適切な保険商品を選択できるようになる、そういう総合的な教育が大事であると考えます。

日本のInsurTechが目指すべきところ

コのほけん!編集部

日本のInsurTechが包括的な(誰一人を取り残さない、多様性を尊重できる)社会の実現に寄与するためにできること、また、InsurTechに携わる人間が持つべき視点について教えてください。

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
一番簡単なのは、所得の低い方でも加入できるような保険料が安価な保険の提供です。先ほど申し上げた通り、規制上は厳密には保険ではありませんが、P2P保険の一種である相互宝の大きな貢献は、貧困層が入れる仕組みであったということです。そういうものの提供、マイクロインシュランスといってもよいと思いますが、銀行でいうところのマイクロファイナンスなどのような商品を拡充することが重要と思っています。日本では、少額短期保険が制度としてありますので、この制度を活用した保険商品の充実を図り、それで足りないのであれば、制度の拡充を図るということになろうかと思います。

多様性を尊重できると言う視点でいうと、LGBTの方が入れる保険、女性しかかからない病気と同様に、LGBTの方特有の健康問題があるのだとすれば、そのような健康問題に関連する疾病等を保障の対象とするような商品開発なども社会貢献になるのではないでしょうか。

事前に、保険とはなんですか?という質問を頂いたのですが、私にとっては、保険とは次善策というか、ベストなシチュエーションではないと考えています。

だから困ったことを「仕方なく」お金で解決するしくみとお答えしたわけです。

自動車保険を例にあげれば、ベストな状態は事故がなく、当然に事故で車が壊れたりすることもなく、怪我をされる方が全くいない社会です。しかし、それが実現できていないから自動車保険に入るわけです。事故が起きてしまった時に、壊れた車を直したり、怪我をされた方にお見舞い金や医療費をお支払いするというように、次善の策としてお金で解決を試みる仕組みが保険であると考えています。

生命保険や医療保険でいうと、病気にもならないのがベストですよね。でも、万が一、病気になってしまったときに、子供や奥さんが困らないように保険に入るわけです。

理想は保険が必要ない社会です。

健康増進型保険って、健康になると保険料が安くなりますと売っているわけですが、ある程度は、人々の健康リスクが減少し、病気になる人の数が減少すれば、保険会社にとっても保険金支払額が減少するというメリットがあります。しかし、人々の健康志向が高まり、究極的には、人々が全く病気にならなくなった場合には、保険がいらない社会になります。そのため、保険を販売することが保険会社のビジネスであり目的となってしまうと、保険会社がどの程度本気で、人々の健康を願っているかどうか、懸念が生じます。

繰り返しますが、健康増進が進んでみんなが病気にならない社会になると医療保険がいらなくなります。保険会社のためにも、既存の保険商品の販売を所与とするのではなく、理想の社会を目指して、それを実現するためには、保険会社に何ができるかという発想を持った方が良いと考えます。

上記を実現するために、例えばですが、新型コロナウィルス感染症のように、新しい病気が出てくるかもしれないので、常に保険会社もチャレンジして、新しい疾病であり、よくわからないリスクであってもカバーできるよう商品開発にチャレンジしていく。

もちろん、現在の世の中では保険は不可欠ですので、保険を売ることは社会貢献になっていますので、その結果としてお金が儲かることは良いことではありますが、保険が必要ではない社会が理想であるということを謙虚に受け止めてビジネスを行っていくことが大切なのではないかと思います。

コのほけん!編集部
慶應保険学会の総会での堀田先生のお話を思い出しました。保険事業は相互扶助ではないと仰られたんですよね。

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
なるほど、面白いですね。

 

コのほけん!編集部
私は新卒で保険会社出身なので、最初に教えられたのが「保険は相互扶助です」というところから始まっています。保険学会では保険事業は相互扶助ではないという意見で一致していると仰られて衝撃的でした。利益追求ありきになってしまうと、相互扶助ではないですよね。

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
そう言う意味では、P2P保険は保険の相互扶助の原点に戻った保険といえると思います。

日本はP2P保険にも規制が適用されるので、保険料を安くしづらい部分があります。例えば、責任準備金などを積み立てる必要があり、それに伴う資本コストを保険料に転嫁する必要があります。しかし、逆に考えれば、保険会社の倒産リスクを抑え、保険の提供が安定的にするために行われており、保険契約者のメリットになっているともいえます。

P2P保険は日本のように加入者が5,000人程度では、大数の法則が働きづらく、保険料にばらつきが生じてしまいますが、相互宝のように1億人規模等、加入者数が多ければ、大数の法則が働くため、一人当たりの保険料に、それほどばらつきが生まれません。

コのほけん!編集部
母集団が大きければ持ちこたえることができるようになりますね。

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
はい。母集団が大きければ、保険料のばらつきが少なくなるという、保険契約者に対するメリットも大きくなりますし、わりかんがん保険も、相互宝も、保険料の上限額を設定していますので、保険金支払額が徴収した保険料を上回るリスクも殆どなくなり、保険会社にとっても、P2Pの運用が安定化するというメリットがあります。

相互宝は手数料8%で、100の疾病の選び方も上手です。女性は若い時は男性よりも病気になりやすくて、年齢を重ねると男性と逆転しますが、女性にしかかからない疾病を保障の対象にすることにより、男女差がなるべくないように平均化しています。

P2P保険をはじめとして、InsurTechを活用した保険には大きなチャンスがあると思いますので、日本の保険会社にはどんどんチャレンジしてほしいと思います。

近代的保険は、海上保険から始まったとされています。この前身は冒険貸借であると言われており、船舶事業者は、その運営のために、金融機関からお金を借りますが、海難事故があり全損となった場合には、債務を免れるという条件付き債務でした。24%~36%の高金利であったと言われていますが、極めてリスクの高い航海を後押しし、経済的な発展を支える極めて意義の高いものであったと思います。言い換えれば、誰かが何かチャレンジする時に後押しするのが保険であると思います。

保険商品ありきではなく、社会の発展のために保険がある、チャレンジに伴うリスクを引受する、保険会社単独ではリスクが高すぎる場合には、再保険等も利用できると思います。

ロイズも元々はコーヒーショップで、商人などの個人が保険を引き受けていました。したがって、P2P保険の原点ともいえます。個人がお金を出し合って、リスクを引き受ける形です。原点回帰ではないですが、保険が社会の発展に寄与するような存在であり続けるべきと考えます。

保険は、今は、なかなか売れない時代になっていて、市場も縮小しています。保険会社はどうしても保険を売るためにどうするのかというところを考えています。多くの人を採用しているので、雇用を守らなくてはいけないというのは理解できるのですが。

だから、既存の保険会社がプラットフォームを提供してP2P保険をやるといいと考えています。繰り返しですが、ロイズも元々はコーヒーショップであり、保険会社ではなく、保険市場であったわけです。保険会社が原点回帰をして、保険市場となり、その契約に必要な情報提供や最終的なリスクのみを負うという役割を果たすということも十分にあると思います。

コのほけん!編集部
そういったことに乗り出そうとしてるような保険会社さんってないのですか?

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
このようなお話を保険会社の方にしたことはありますが、私の知る限りではないですね。

 

コのほけん!編集部
・・・ないのですね。保険会社にはビッグデータがあります。すべての統計もあると考えるとできそうですよね。

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
SDGsとかマイクロファイナンス、今、小職も論文を書いておりますが、ルクセンブルクの保険会社が保険料の運用をサステナビリティに配慮した企業に投資することを約束した、100%サステナブル保険というものの販売を開始しています。

重視するサステナビリティというのも人によって違うと思います。例えば、SDGsで言っても17の目標があり、169のターゲットがあります。
人々のサステナビリティ選好を調査し、多くの人のサステナビリティに対する需要にマッチするような保険商品の開発を保険会社が先にやれば良いと考えます。日本の保険会社でもSDGsに取り組んではいますが、私の知る限りでは、保険商品の設計に反映するまでには至ってはおりません。

P2P保険とかは、現行のような形での営業が必要ではなくなるので、営業担当の方からは抵抗感があるかもしれませんが、新しい商品や技術を採用することは、新しい仕事が生まれることになると思いますので、長い目では雇用を守るどころか生み出すことにもなると思います。

新しいシステムや機械を導入すると人々は仕事がなくなると言うけれども、実際はそうではないとピーター・ドラッカー氏が述べていましたが、私もそう思います。

コのほけん!編集部
東大の新井紀子先生のAI vs 教科書が読めないこどもたちという著書でAIに仕事が取られてしまうんじゃないかという指摘もありましたが、仕事は何かしら、そのメンテナンスだとか、なんとかこう必要になってくるので、確かに新しい雇用には繋がるかと思います。

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
AIでできる仕事はAIに任せて、人間らしさを追究する仕事、創造をする仕事をやればいいと考えます。

 

コのほけん!編集部
その流れを読む目っていうのは結構必要になりますね。

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
そうですね。最初のFinTechビジョンの話に戻りますが、日本がFinTechに取り組み始めたのは世界的にも早かったと思います。しかし、その実用は遅れてしまっている。中国は、積極的に優秀なIT人材の育成や採用にお金をかけていますが、日本はあまりお金かけていません。アフリカやインドにも負けているような状況だと思います。

海外に目を向けると、中国は保険分野のIT活用については先進的ですので、中国から学ぶということもあり得ると思います。

コのほけん!編集部
中国は国策として取り組んでますよね。人材教育にしても、何にしても全然お金の掛け方が違うというか、もう見てて全然違いますよね。

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
確かにそうです。日本はあまり教育や研究にお金をかけてないのではないかと思います。そのあたりが、大学などの授業料などにも表れていると思います。アメリカに比較すると日本の大学の授業料は半分かそれ以下になっています。

今までもそうでしたが、これからはより、海外から学ぶ姿勢が大事だと思います。欧米のみならず、アジア諸国からも学ぶことが多くあると思います。

コのほけん!編集部
伊藤先生のいくつかの論文を拝見していると、貧困層に届くものっていう視点がある理由はどうしてでしょうか?

aogaku-ito-haruyoshi伊藤晴祥准教授
貧困問題は確かに現存する問題なので解決しなければならないのですが、いつかは解決し、貧困層がなくなることが肝要です。そのため、貧困層が今は確かに存在するので、そのような方が利用可能な保険商品の開発は重要だと思いますが、今まで述べた通り、あくまでも一時的、次善の解決策であり、究極的には貧困層がなくなることが大切です。そのため、私の理想としては、社会全体が上を目指して全体が良くなっていくことです。みんなで上を目指していくと下も上がっていきます。マイクロファイナンスも現状では貧困問題の解決に重要な役割を果たしていると考えますが、マイクロファイナンスありきとなり、貧困層をネタにビジネスをやっているっていう感覚になってしまうのは問題です。貧困層が存在しつづける方が儲かるということになりかねません。貧困層をなくすためには別の方策が必要だと考えます。

つまり、貧困層相手のビジネスというよりは、もうちょっと社会全体が上に行くような、発展していくような方向で考えた方がいいと考えています。長期的に考えた時に、よりよい社会にするためには保険ができることはなにかと考えた方がいいです。先ほど、新しいチャレンジを後押しするような保険商品があればよいと申したことにもつながります。

まとめ(編集部後記)

日本国内のInsurTechの市場規模はまだ小さく、商品開発の余地があること、その中でも、P2P保険の可能性と、普及にむけての課題点などを伺うことができました。

InsurTechの活用でより多くの人たちへ保障(補償)を届けることが可能になるよう、InsurTech企業の一員として意識していきたいと思いました。

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