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保険管理アプリ「保険簿」とは|InsurTech最新動向
InsurTech Interview

保険管理アプリ「保険簿」とは|InsurTech最新動向

「保険の請求もれのない社会へ」をミッションに掲げ、Insurtech事業を展開する株式会社IBの井藤健太CEOに「保険簿」についてお話を伺いました。

「保険簿」とは保険書類の管理ができるアプリ

コのほけん!編集部

「保険簿」というアプリはどのようなサービスなのでしょうか?

井藤CEO
一言で言うと、「保険簿」は保険管理アプリです。保険加入者向けに無料で提供しています。

このアプリでは、保険書類の画像をアップロードしていただくと自動でデータ化して、簡単に保険書類の管理ができます。また、家族と共有できる機能や、請求診断機能などを提供しています。

請求診断機能というのは、例えば、病気になった、物が壊れた等思い当たる事案をタップして選択してもらうと、「保険簿」に登録されているデータの中から請求できそうな保険がピックアップされるという機能です。直近ですと「コロナになった」という事案を選ぶなどがケースとしては多くなっています。

このような機能は、保険の請求漏れという課題を解決することを目的に提供しています。

コのほけん!編集部
保険の請求が漏れるというケースは多いのですか?

井藤CEO
そうですね。私自身はかつて保険の営業をしていました。当時、お客様に「こういうケースでも支払えることありますよ」という話をすると、そのことを知らない、または、請求し忘れていたお客様が肌感覚として非常に多かったのです。

当社のフェルミ推定ではあるのですが、保険金の請求漏れが年間で1.6兆円ぐらいは発生しているのではないかと予想しています。

コのほけん!編集部
なるほど。保険には入っているけれど、実際に保険の保障を使える時に請求できていない人が多いということですね。加入している保険の情報をアプリの中で管理することによって、請求漏れを防ぐことができるサービスなのですね。

このアプリでは、どのように保険の書類を登録するのでしょうか? 何か入力などは必要ですか?

井藤CEO
お客様が入力する必要はなく、写真を撮ってもらうかスマホの写真フォルダーに入っている画像をアップロードしてもらう形になります。

保険に加入している方はご家族分を含めた全ての保険を把握し、請求できるわけではありません。例えば、自分の家族に万が一の事態があった時に、保険証券がどこにあるか、どの保険に加入しているか、保障内容などを全て把握することは難しいですよね。

また、災害に遭った場合には、保険証券が流されてしまったり、燃えてしまったりしたような状況の中で保険金を請求する事は非常に難易度が高いと思います。

請求漏れを発生させている要因はいくつかあるのですが、それら保険証券の紛失やご家族の保険を把握できないことが保険金の請求漏れの大きな要因の一つだと考えています。

コのほけん!編集部
それは、自分が入っている保険と家族が入っている保険を一緒に管理することで、 事故などがあった際にどの保険のどの部分を使えるかが把握しやすいということなのですね。

 

開発の背景は?

コのほけん!編集部

「保険簿」を開発された背景について教えていただけますでしょうか。

井藤CEO
私は2011年の東北大震災の時に現地ボランティアに行きました。その時に、被災された現場を見て、保険の請求漏れの大きな要因はそこにあると感じました。家財などすべて流されてしまっており、保険証券なども当然どこにあるかわからない状況です。その経験が保険の請求漏れというところに着目し始めたきっかけです。

コのほけん!編集部
実際、保険金の請求漏れというのは特に災害の事象でよく起きているのですか?
生命保険や自動車保険でも起きてますか?

井藤CEO
自動車保険だと、何か事故を起こした時にアクションを起こす人がほとんどだと思うので、基本的には保険金の請求漏れはないと思います。しかし、例えば水害などで車が水没した場合、自動車保険にエコノミータイプという車の事故限定の保険をつけていたら保険金を請求できないと思いますよね?しかし、実はこのケースだと保険金が支払われることがほとんどなのです。

このように保険の内容が複雑であったりとか、加入した時には分かっていても、5年後、10年後に忘れてしまうことによって発生する請求漏れが多いですね。

<コのほけん編集部>
保険に加入している人は、時間が経つにつれ、どのような内容の保険に入ってるかが正確に把握ができなくなるというケースも発生するのですね。

 

「保険簿」は保険加入者、保険会社や保険代理店の双方にメリットがある

コのほけん!編集部

「保険簿」はどのような方のどのような課題を解決するサービスなのでしょうか。

井藤CEO
保険簿は保険加入者には請求漏れを防ぐという機能が非常に役に立つと思います。一方で保険を販売する、保険会社や保険代理店にとってもメリットがあります。

保険業界の方になぜ勤めてるのですか?と訊くと、「予想不可能な不幸が遭った際に、重ねて経済的な困窮が来ないようサポートしてあげる」というモチベーションで働いている方が多い印象です。しかし、もし、そのようなサポートができておらず全く役に立っていない場合、働いてる人も嬉しくないですよね。

保険本来の役割をきちんと果たすという本質的な部分が保険業界の使命でもあり、そこに「保険簿」として貢献できることがあると思います。

一方で、保険契約者が加入している保険から保険金を請求しきちんと受け取るという、保険助かったという前向きな体験を得ることが、保険業界の今後の盛り上がりに影響するのではないかと思います。今は人口減少で市場が縮小していると言われてますが、保険業界を維持拡大していくためには、やはりメリットをしっかり提供してあげるということが非常に大事です。さらに、それをストレスなくできるということが非常に大事だと思っています。

「いや、そんなこと当たり前だ」と世の中の人は思うかもしれませんが、今までの保険業界ではこれが当たり前じゃなかったわけですね。

そのことを象徴する出来事が2015年に金融庁が出したFD宣言です。「顧客本位の業務運営」ということなのですが、金融庁は「顧客本位の方針」を打ち出したのです。
2008年の保険法改正から金融庁は継続して顧客保護の観点で動いています。現段階ではある程度「顧客保護」は改善してきたのではないかという判断のもと、業界として次に何をしていくべきかと考えると「顧客本位」に進んでいくと考えております。
「顧客本位」とは、ユーザビリティをあげることや、ホスピタリティをもって取り組むというということです。「これがないとビジネスとして成り立たないよ」というメッセージが顧客本位の方針、FD宣言なのです。

コのほけん!編集部
なるほど。保険会社からすると、この請求の仕組みはメリットがあるということですよね。

井藤CEO
そうですね。保険各社も今までマイページを作るなど、顧客本位のサービスを提供する努力はしてきています。しかし、保険の特性上、難しいこともあります。

証券取引などを行う口座や銀行口座というのは、1番いいものに1極に集中していきます。そのため、1人1アカウントが普通だと思うのですが、保険は逆に広がっていってしまいます。

保険は1人当たり平均6件もの契約に入っています。契約件数を生産年齢、人口で割ると1人当たり6件ぐらいになるのです。しかも、御社のような保険代理店サービスがどんどん普及してきて、保険に対して合理的な判断をすればするほど、小さい保険にたくさん入るという形が1番合理的な形になりつつあります

保険は接点も少ないサービスですから、どこの保険に入っているか分からなくなることも珍しくありません。

そのため、保険会社によっては自社でマイページを作ったとしても使われないという課題が出てきていると思いますが、各社の保険証券を一元管理することで、保険会社がマイページで意図した顧客本位のサービスを提供できるようになってくるのではないかと考えてます。

 

請求診断機能はワンタップで請求できるかどうか診断できる

コのほけん!編集部

保険簿のアプリの中で、一押しの機能やこだわりのポイントなどはありますか?

井藤CEO
保険金の請求漏れを防ぐ目的で作られたアプリなので、冒頭でお伝えした「請求診断機能」というのは、今のところ他の保険アプリにはない独自機能です。

病気になったとか、物が壊れたとか思い当たる事案をタップしてもらい、新たに請求できそうな保険がその登録されているデータの中からピックアップされるという機能になります。また、「こういう請求漏れが多い」などのワンポイントアドバイスも提供しています。

コのほけん!編集部
ユーザーにとっては本当に役に立つサービスだと思いますが、このアプリを作るのはとても大変ではなかったでしょうか?

井藤CEO
とても難しいと思います。生命保険や損害保険、少額短期保険や共済などの約款を全て読み込まないとできません。さらに、約款の内容をアルゴリズムにも落とし込まないといけないので、データベース設計の知識も必要になります。保険マニア的な知識にプラスしてエンジニア経験も必要になります。

やはり機能としてここが1番重要なので、今後引き続きタイムリーにアップデートをしていきます。

さらに、サービスの機能というより特徴なのですが、「保険の販売に一切関わらない」ということを決めています。商品の案内がある、または商品契約をするなど、どこかの保険会社に偏りが出る可能性があるとなると、プラットフォームとしての戦略が取りにくくなると考えています。

未だに保険にネガティブな印象をもっているお客さまも多くいると感じています。保険の管理をしているアプリであるにも関わらず、そこで保険商品の提案がされると不信感を持つお客様が出てくると思うのです。

弊社が保険を販売すればその分利益は出せます。しかしながら、国民全員が使うようなインフラ的なサービスを目指しているので、経営的には少し厳しい戦略ではありますが、それはやらないということを決めています。

 

今後の展望は?

コのほけん!編集部

今後、「保険簿」を通してどのような世界を実現したいかの展望を教えて下さい。

井藤CEO
「保険簿」を考えたきっかけは、先ほどお話しした2011年の東日本大震災において現地ボランティアをした時のエピソードなのですが、もう1つは、その頃に話が出てきたマイナンバー制度です。当時、私は大学で「保険学」を学んでおり、卒業論文を書くタイミングでした。

個人のアカウントに保険会社の情報が全部紐づいていれば、保険の一括管理も、加入後の手続きも全部ワンストップででき、さらに医療連携システムとか、行政のシステムとかと連携していくと自動で保険に関する手続きが完了する、そういう世界が来るのではないかということを構想したのです。

目指してる世界はまさにそこで、保険の管理も手続きもワンストップもしくは自動化を目指してるところです。ですので、構造的・仕組み的に保険の請求漏れが発生し得ない状況、加入者が気づかなくても権利を享受できる世界を作りたいです。

まとめ(編集後記)

せっかく万が一に備えて加入している保険ですので、加入者自身がしっかり補償を把握し、請求したいところですが、日常ではあまり意識しないところでもあります。

こういったサービスも活用しながら、請求漏れを減らしていけるとよいですね。

井藤健太プロフィール

株式会社IB【保険簿】/代表取締役CEO
1989年生まれ/兵庫県尼崎市出身/関西学院大学商学部卒
保険乗合代理店、保険会社、SI企業を経て2018年10月に株式会社IBを創業

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