医療保険は妊娠・出産に使える?かかる費用と医療保険から受け取れる給付金を解説
妊娠したことがわかると、出産に向けて様々な準備をします。出産に向けた準備のなかでも、費用がどのくらいかかるか気になるのではないでしょうか。
特に共働き世帯にとって、出産や育児により収入が減ってしまう可能性がありますので、早めに費用を算出し、不足している場合は準備しておきたいところです。
計画的に妊娠・出産に備えるためには、費用や社会保険で受け取れる給付金を調べ、必要であれば保険を活用することもできます。
そこでこの記事では、妊娠・出産にまつわる費用、社会保険から受け取れる給付金をまとめます。
本記事のポイント
- 正常妊娠・自然分娩は健康保険(公的医療保険)適用外のため全額自己負担、民間の医療保険も使えない
- 母子手帳取得後の妊婦健診費用は各自治体から妊婦健康診査助成券(補助券)もしくは妊婦健康診査受診券等が配布され一部公費負担
- 異常妊娠や異常分娩など、検査の結果、病気や何らかの異常が判明した場合は、健康保険(公的医療保険)適用となるので、民間の医療保険の保障の対象となる可能性がある
妊娠・出産にまつわる費用の金額
妊娠や出産を控えている人にとって、どのくらい費用がかかるか心配ではないでしょうか。支払う費用があらかじめわかっていれば、計画的に準備をすることができますので、不安を解消することができます。
ここでは、代表的な費用を紹介していきます。
妊婦健診費用
妊婦健診は、妊婦さんや赤ちゃんの健康状態を定期的に確認し、妊娠期間中を安心して過ごせるように行っています。
検査項目は、健康状態の把握、検査計測、保健指導のように毎回行う基本的な検査もありますが、必要に応じて行う検査もあり、検査内容によって必要な費用は異なります。
厚生労働省が標準的なスケジュールと検査内容を例示しているのでご紹介します。
標準的な妊婦健診(例)
〇妊娠初期~23週
健診回数 ※1回目が8週の場合 | 4回 |
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受診間隔 | 4週に1回 |
必要に応じて行う医学的検査 |
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〇妊娠24週~35週
健診回数 ※1回目が8週の場合 | 6回 |
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受診間隔 | 2週間に1回 |
必要に応じて行う医学的検査 |
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〇妊娠36週~出産まで
健診回数 ※1回目が8週の場合 | 4回 |
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受診間隔 | 1週間に1回 |
必要に応じて行う医学的検査 |
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妊婦健診費用は健康保険(公的医療保険)診療の対象外のため全額自己負担です。健診の結果、問題が判明した場合の治療や検査にかかる費用は 健康保険(公的医療保険)診療扱いとなります。
母子手帳交付時に、妊婦健康診査助成券(補助券)もしくは妊婦健康診査受診券等が配布されます。
そのため、妊婦健康診査の総額から妊婦健康診査助成券(補助券)の金額を差し引いた残りの金額が自己負担額となります。
なお、お住まいの自治体ごとで、助成される金額は異なります。
令和5年3月の厚生労働省の発表によると、 公費負担額は調査対象の全国平均で107,792円となっています。
母子手帳の交付を受けるためには、産婦人科で「妊娠」の診断を受ける必要があります。その時に行う「妊娠反応検査」「超音波検査」などについては、妊婦健康診査助成券(補助券)を利用することができないので全額自己負担です。
助成券を利用した場合の自己負担額は、医療機関や検査内容によって異なりますので、お近くの医療機関で目安を聞いておくといいでしょう。
入院・分娩費用
出産にかかわる入院や分娩費用は、正常分娩は病気ではないため、保険適用外となります。分娩費用は全額自己負担となりますが、医療保険制度から出産一時金が支給されますので、実際の自己負担額は軽減されます。出産一時金については後半で説明します。
出産費用は、年間平均1%程度で上昇しています。
2020(令和2)年度の公的病院の出産費用の平均値は452,288円、中央値は449,915円でした。
マタニティ用品・ベビー用品費用
妊娠や出産にともない、妊婦帯(腹帯)やマタニティウェアなどの妊婦さん用の用具、おくるみやスタイ(よだれかけ)などの赤ちゃん用の用具が必要です。
ネットで検索すればどのような物が必要か分かると思いますが、すべて新品で揃えようとすると出費がかさんでしまいます。リサイクルショップなどを活用して出費を抑えるといいでしょう。
帰省費用
妊婦さんのなかには、帰省し、実家近くの病院で出産される人もいらっしゃいます。帰省に係る交通費が必要となりますので、実家が遠方にある人は資金準備をしておかなければなりません。
また、妊婦健康診査助成券(補助券)等は配布された自治体でしか利用することができません。「里帰り出産等妊婦健康診査助成金」などの実家で出産する人向けの助成金もありますので、実家がある自治体に確認しましょう。
関連記事:保険適用外の出産・妊娠とは?医療保険で費用はいくらになる?
社会保険制度から出るお金、出ないお金、それ以外に出るお金
ここまで妊娠や出産にかかる費用を紹介しましたが、実際には社会保険制度からの給付金や自治体の助成金などにより、費用負担は軽減されています。
給付金や助成金には支給要件や金額が設定されていますので、適用される制度があるか、支給される金額はいくらか、確認していきましょう。
社会保険制度から支給されるお金
会社員が加入している国民健康保険、健康保険、雇用保険や公務員が加入している共済組合などから、妊娠・出産にかかる給付金が支給されます。どのような保障があるかまとめます。
保険診療と高額療養費制度(国民健康保険・健康保険・共済組合)
病気やケガにより医療機関で治療を受けたときには、医療費の3割を支払えばよく、費用負担が軽減されています。正常分娩はこの3割負担の対象ではありませんが、妊娠中のトラブルや病気の発見などで適用することができます。
また1ヶ月の医療費負担が高額となり、一定の要件を満たすことで。高額療養費制度を適用でき、自己負担限度額を超えた金額が返ってきます。なお、高額療養費制度では一時的に医療費を負担しなければなりませんので、「限度額適用認定証」をあらかじめ取得しておけば、支払時の負担も軽減することができます。
出産育児一時金(国民健康保険・健康保険・共済組合)
妊娠4ヶ月(85日)以上の人が出産した場合、一児につき42万円(産科医療補償制度の対象外となる出産の場合は40.4万円)の出産育児一時金が支給されます。先ほど紹介した公益社団法人国民健康保険中央会が公表している妊婦合計負担額(平均額)は約50万円でしたので、10万円前後の自己負担が想定されます。
出産手当金(健康保険・共済組合)
出産手当金は、出産で会社を休み、休業中に給与の支払いがない場合に、出産の日以前42日(多胎妊娠は98日)から出産の翌日以後56日目までの範囲内で支給されます。受け取っている給与の額によって出産手当金の額は異なり、およそ1年間の平均給与の3分の2程度支給されます。
給与を受け取っている会社員や公務員が対象となりますので、自営業者などが加入する国民健康保険に出産手当金はありません。
傷病手当金(健康保険・共済組合)
傷病手当金は、病気やケガで療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間の待期期間のあと、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給される制度です。正常分娩は保険適用外ですが、帝王切開や妊娠中の病気などで傷病手当金の要件を満たせば支給されます。傷病手当金の支給額は、およそ1年間の平均給与の3分の2です。
なお、出産手当金と傷病手当金ともに要件を満たす場合は、出産手当金から支給され、出産手当金よりも傷病手当金が多いときに限り、その差額が傷病手当金から支給されます。また出産手当金と同様、国民健康保険に傷病手当金はありません。
関連記事:傷病手当金とは?退職後にもらえる?支給条件や計算・申請方法などを解説
育児休業給付金(雇用保険・共済組合)
育児休業給付金は、1歳~2歳(年齢によって要件あり)未満の子を養育するために育児休業をし、育児休業中の給与が休業開始時の給与と比べ80%未満に減少するなど、支給要件を満たしたときに支給されます。
育児休業給付金の額は、およそ休業開始時の給与の67%です。支給日数が育児休業を開始したから通算で180日になるまでの間の給付率です。180日経過後の給付率は50%になります。
育児休業給付金は、企業や団体に勤める人向けですので、雇用保険等に加入できない自営業者は受け取ることができません。
求職者給付(雇用保険・共済組合)
求職者給付は、働く意思と能力があるにもかかわらず働けない人のための社会保障です。病気やケガだけでなく、妊娠や出産などで退職した場合でも、離職日の翌日から1年間の受給期間内に手続きをすれば、雇用保険の被保険者期間に応じて決められた給付日数において、およそ賃金の50~80%が基本手当として支給されます。
手続きはハローワークで行いますが、妊娠・出産などで行けなかった場合には受給期間を延長できる制度もあります。
求職者給付も育児休業給付金と同様、雇用保険・共済組合に加入していた人向けですので、自営業者は受け取ることができません。
自治体で支給されるお金
ここまでは国全体による給付金を紹介しましたが、ここでは自治体単位で支給される助成金について解説します。
妊婦健康診査費助成金
各自治体では、厚生労働省が公開している標準的な検査スケジュールに合わせて、妊婦健康診査助成券(補助券)を配布しています。助成券(補助券)は、母子手帳交付時に配布されますが、多くの自治体ではスケジュールに合わせて14回分の補助券が配布されます。たとえば東京都でも14回の助成券(補助券)を受け取れますが、超音波検査の助成回数は区市町村によって異なります。
乳幼児医療費助成金
医療費の一部負担割合は、義務教育就学前の6歳までは2割負担、それ以降は3割負担となります。この一部負担額を補助するのが乳幼児医療費助成制度で、子どもが医療機関に入院や通院をした場合に支払う負担額の一部を助成してくれます。
助成金の額や対象年齢は区市町村に確認する必要があり、入院や通院でも対象年齢が異なる自治体があります。
活用したい税制
妊娠・出産には様々な費用がかかりますが、社会保険や助成金があるため、実際に負担する額はおさえられています。しかし、妊娠時の検査で病気が見つかるなど、場合によっては想定以上の負担があるかもしれません。
もし1年間で支払った医療費が一定額を超えた場合、所得税から控除できる医療費控除があります。医療費控除では、妊娠と診断されて以降の定期検診や検査などの費用や通院費用も対象になりますので、領収書を保管し、領収書をもらえなかった場合は記録を付けておきましょう。
関連記事:医療費控除とは?医療費控除のしくみ・高額療養費制度との違い・医療費控除の計算方法
妊娠・出産で健康保険(公的医療保険)や民間の医療保険は使えない?
すでに触れてしまいましたが、妊婦健診や正常分娩での出産は病気ではないので、健康保険(公的医療保険)適用外となります。同時に、民間の医療保険も給付を受けることはできません。
なお、健康保険(公的医療保険)が適用できなければ全額自己負担となりますので、社会保険や助成金を活用して費用負担を減らすことになります。
妊婦健診により病気や何らかの異常が見つかった場合は健康保険(公的医療保険)適用となります。この場合は、民間の医療保険の給付金の給付対象となる可能性が高いので、保険会社に問い合わせしてみましょう。
また、社会保険と医療費控除の対象は異なるため確認しておきましょう。
関連記事:不妊治療の健康保険適用の拡大範囲はどこまで?費用やメリット・デメリットも解説
妊娠中でも保険に入ることはできる?
妊娠中でも保険に入ることは可能です。医療保険に限定せず、生命保険(死亡保険)やがん保険などの保険に加入が可能です。
ただし、妊娠週数や健康状態によっては困難な場合もあります。
医療保険は、保険会社が指定する特定の箇所に生じた病気・ケガは、保障の対象外とする条件「特定部位不担保」とすることが多い傾向にあります。
特定部位不担保に指定された箇所に関しては、入院・手術をしても給付金を受け取れません。
妊娠中の場合は、子宮や卵巣、卵管などが不担保部位となることが多く、切迫流産や切迫早産、妊娠高血圧症候群、帝王切開での分娩などが保障対象外です。
そのため、妊娠をする前に「医療保険」の加入を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
妊娠・出産は出費がかさみます。働けなくなることも考えると、費用だけでなく収入が減ることも考えておく必要があります。
費用のほとんどは社会保険などの支援がありますので、少しは安心していただけたのではないでしょうか。あとは不足する可能性がある費用や妊娠中のトラブルによる費用をどの程度見積もり、準備しておくかどうかです。
金銭面で余裕があると体調や育児に気を配りやすくなると思いますので、早めに準備しておきましょう。