本格的な年末調整の時期になりました。令和4(2022)年については、年末調整に関して大幅な変更点はありません。本記事では、昨年令和3(2021)年までの年末調整の変更点についてもおさらいをしつつあわせてご紹介したいと思います。子育て世帯にも関わる変更点もありますので必読です。
目次
2021(令和3)年の主な変更点は?おさらいしましょう!
昨年令和3年(2021年)までに実施された年末調整の主な変更点についておさらいをしましょう。
主な変更点は、下記の5つになります。
- 年末調整関係書類への押印廃止
- 年末調整電子化のための事前申請の廃止
- 住宅ローン控除の特例の見直し
- 子育てに係る公的助成等の非課税措置
- 勤続5年以下の従業員の退職金が300万円を超える場合の退職所得課税額の引き上げ
年末調整関係書類への押印廃止
政府が掲げている行政のデジタル化の一環で、令和3(2021)年から年末調整関係の書類への押印が不要になりました。
氏名欄など「印」と印字されていた部分が令和2(2020)年分の様式から削除されています。
年末調整電子化のための事前申請・承認の廃止
年末調整関係の書類を電子データで提出する場合、これまでは給与の支払者が事前に所轄の税務署長の承認を受ける必要がありましたが、令和3年分の年末調整から事前申請(「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」の提出)および税務署長の承認が不要になりました。
これは、給与の支払者、つまり、勤務先の会社が行うことであるため、会社員の方への影響は、電子化にともない年末調整に係る書類の作成方法が変わる、等の影響が挙げられます。
住宅ローン控除の特例の見直し
「住宅ローン控除の特例の見直し」とは、所定条件に当てはまる場合、住宅ローンの控除適用期間が原則の「10年」から「13年」に延長されるもの、また、合計所得金額が所定金額を超えない場合には床面積が40㎡以上50㎡未満の住宅でも適用されるという2つの見直しです。
【住宅ローン控除の適用期間の延長の条件】
令和4(2022)年の年末までに入居していること、および、契約締結期間で契約されていること
種類 | 契約締結期間(以下の期間内で契約されていること) |
注文住宅 | 令和2(2020)年10月〜令和3(2021)年9月末 |
分譲住宅 | 令和2(2020)年12月〜令和3(2021)年11月末 |
【住宅ローン控除の面積要件の緩和の条件】
上記の条件にあわせて、下記の2つの条件を満たす場合
- 床面積が40㎡以上50㎡未満
- 合計所得金額が1,000万円以下
住宅ローン控除の控除額等については、国税庁のHPなどでご確認ください。
子育てに係る公的助成等の非課税措置
地方自治体や国からの子育てに関する所定の助成について令和3年1月1日以後は非課税となったため、確定申告等は必要ありません。
こちらは直接年末調整とは関係しないのですが、これまで地方自治体や国からの子育てに関する所定の助成は原則、課税所得になり、確定申告で雑所得として申告する必要があったのですが、令和3年分以後の所得税からは非課税扱いとなりました。
対象の例
- ベビーシッターの利用料に対する助成
- 認可外保育施設等の利用料に対する助成
- 一時預かり・病児保育などの子を預ける施設の利用料に対する助成
※上記の助成と一体として行われる助成についても対象
( 例:生活援助・家事支援、保育施設等の副食費・交通費等 )
具体的に、どういった公的助成かというと、
勤続5年以下の場合の退職所得課税額の見直し
勤続年数が5年以下で、退職所得金額が300万円を超える場合の退職所得課税額の見直しが行われました。
これまで、退職所得金額の計算は、下記の条件で計算されていました。
【退職所得金額の計算式】
【退職控除の計算】
納税者本人の勤続年数 | 退職所得控除額の計算式 |
20年以下 | 40万円 × 勤続年数( 80万円に満たない場合には、80万円 ) |
20年超 | 800万円 + 70万円 × ( 勤続年数 − 20年 ) |
今回、
- 勤続年数5年以下
- ( 退職金の金額 - 退職所得控除額 )>300万円
となる場合、「× 1 / 2」が無くなります。
【勤続年数5年以下、退職金から退職所得控除額を引いた残りの金額が300万円を超える場合の退職所得金額の計算式】
2022年1月1日以降に支払った退職手当等に適用になります。念のため、この改正についても留意しておきましょう。
2020(令和2)年までの変更点
- 給与所得控除額の引き下げ
- 基礎控除額(一律38万円から一律48万円)の引き上げ
- 配偶者控除と配偶者特別控除の見直し
- 「ひとり親控除」の新設と寡婦(寡夫)控除の見直し
- 年末調整書類書式の改訂
給与所得控除額の引き下げ


給与所得控除
フリーランスや自営業者などの事業所得として収入を得ている方は、所得税の計算の際に、商品の売上金額から仕入原価や販売経費等、その他、交際費や外注費などといった必要経費を差し引いています。
一方、会社員などのように給与所得を収入を得ている方の場合、何が必要経費なのかといったところは個人差があるため、一律に計算できるよう、所得に応じて、給与所得控除が定められています。
給与所得控除の金額は、給与収入に応じて次の表のようになっています。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票 の支払金額) |
令和2年分以降 給与所得控除額 |
平成29年分~令和元年分 給与所得控除額 |
162万5千円まで | 55万円 | 65万円 |
162万5千1円から180万円まで | 収入金額×40%-10万円 | 収入金額×40% |
180万1円から360万円まで | 収入金額×30%+8万円 | 収入金額×30%+180万円 |
360万1円から660万円まで | 収入金額×20%+44万円 | 収入金額×20%+54万円 |
660万1円から850万円まで | 収入金額×10%+110万円 | 収入金額×10%+120万円 |
850万1円以上 | 195万円(上限) | 220万円(上限) |
例えば、年収900万円の人の控除額は、上記の早見表から195万円だとわかります。
また、年収400万円の人の控除額は、上記早見表の計算式をもとに計算をすると、
400万円 × 20 % + 44万円 = 124万円
となります。
年間給与所得660万円以下については、
基礎控除額(一律38万円から一律48万円)の引き上げ
令和2年(2020年)から所得からの控除できる基礎控除額の金額が引き上げられました。令和元年(2019年)以前は一律38万円でした。
個人の合計所得金額 | 控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
なお、2400万円以上は基礎控除額が段階的に減額され、2500万円超で0円になります。
個人の住民税における基礎控除額は令和3年(2021年):43万円です。
また、引き下げに伴い、子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除が新設されました。
もっと詳しく
- 特別障害者に該当する人
- 年齢23歳未満の扶養親族を有する人
- 特別障害者である同一生計配偶者
- 特別障害者である同一生計の扶養親族を有する人
総所得金額を計算する場合、給与の収入金額(その給与の収入金額が1,000万円を超える場合には、1,000万円)から850万円を控除した金額の10%に相当する金額を、給与所得の金額から控除するものです。
配偶者控除と配偶者特別控除の見直し
令和2年(2020年)は配偶者控除と配偶者特別控除の見直しがありました。
主な変更点は下記の通りです。
- 配偶者控除・配偶者特別控除における配偶者の合計所得金額の引き上げ
- 配偶者控除・配偶者特別控除における納税義務者の所得制限
配偶者控除や配偶者特別控除とはどのようなものなのでしょうか?
配偶者控除と配偶者特別控除
配偶者控除・配偶者特別控除における配偶者の合計所得金額の引き上げ
配偶者控除では、年間の合計所得金額が38万円から48万円(給与収入のみは103万円以下)へ、配偶者特別控除では、配偶者の合計所得金額の上限が123万円(給与収入201万円)まで引き上げられました。
配偶者控除・配偶者特別控除における納税義務者の所得制限
納税義務者の合計所得金額が900万円(給与収入1,120万円)を超えると控除額が段階的に減少し、合計所得金額1,000万円(給与収入1,220万円)を超えると控除が適用されなくなります。
「ひとり親控除」の新設と寡婦(寡夫)控除の見直し
「ひとり親控除」の新設
特別の寡婦および寡夫控除が廃止され「ひとり親控除」に一本化されました。
納税者が所定の条件に該当するひとり親の場合、35万円の所得控除が受けられます。なお、個人住民税(市民税・県民税)のひとり親控除は30万円です。
国税庁のHPでは、ひとり親のことを下記のように記載しています。
ひとり親とは、原則としてその年の12月31日の現況で、婚姻をしていないこと又は配偶者の生死の明らかでない一定の人
これは、所得控除を受けようとする年の12月31日時点で、納税者本人が下記のすべての条件に当てはまる場合、「ひとり親控除」が適用されます。
- 男性か女性か性別を問わず
- 本人の合計所得金額が500万円以下であること
- 現在、結婚していない状態、未婚の状態であること(所定の条件下での配偶者の生死不明も含む)
- 住民票に事実婚の記載がないこと(内縁関係の相手がいないこと)
- 扶養家族に子(合計所得金額が48万円以下)がいること
同じひとり親でも、性別や婚姻歴の有無で所得控除の取り扱いが異なっていましたが、この見直しにより、性別・婚姻歴の有無に関係なく、条件に合う「ひとり親」であれば、「ひとり親控除」を受けられるようになりました。
所得税控除は令和2(2020)年から、住民税控除は令和3(2021)年から適用となります。
寡婦(夫)控除の見直し
寡夫控除はひとり親控除へ一本化されたため廃止になり、寡婦控除(女性限定)のみとなりました。
寡婦控除は、27万円の所得税控除を受けられるものです。なお、住民税(市民税・県民税)における寡婦控除の額は26万円です。
条件は、下記の1~4に当てはまり、
- 女性のみ
- 本人の合計所得金額が500万円以下であること
- 現在、結婚していない状態、未婚の状態であること(所定の条件下での配偶者の生死不明も含む)
- 住民票に事実婚の記載がないこと(内縁関係の相手がいないこと)
かつ、下記の1もしくは2のどちらかの条件に当てはまる場合に適用となります。
- 夫と死別(生死不明を含む)※この場合は扶養家族の有無は問われません
- 夫と離婚して、子以外の扶養家族がいる
こちらも、「ひとり親控除」と同様、所得税控除は令和2(2020)年から、住民税控除は令和3(2021)年から適用となります。
年末調整書類書式の改訂
年末調整に係る書類として、「給与所得者の基礎控除申告書」及び「所得金額調整控除申告書」が新しく設けられました。
年末調整において基礎控除又は子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受けようとする所得者は、その年最後に給与の支払を受ける日の前日までにそれぞれ「給与所得者の基礎控除申告書」又は「所得金額調整控除申告書」を給与の支払者に提出しなければならないこととされました。
2022(令和4)年の年末調整に関する主な変更点は?
2022(令和4)年の年末調整に関して大きな変更点はありません。
「控除証明書」の電子化の対象が拡大しました。
これまでは、「生命保険料控除証明書」「地震保険料控除証明書」「住宅ローン控除証明書」の3点でしたが、2022年10月以降、「社会保険料控除証明書」「小規模企業共済等掛金控除」についても、控除証明書の電子化の対象となっています。
社会保険料控除
国民年金保険料の控除証明書が電子化対応です。詳細は、日本年金機構のHPをご確認ください。
なお、国民年金基金の掛け金の控除証明書は電子化の対象にはなっていません。
小規模共済等掛金控除
小規模共済等掛金控除の対象となるものは下記の3つです。
(1)小規模企業共済法の規定によって独立行政法人中小企業基盤整備機構と結んだ共済契約の掛金(ただし、旧第二種共済契約の掛金はこの控除ではなく生命保険料控除の対象となります。)
(2)確定拠出年金法に規定する企業型年金加入者掛金または個人型年金加入者掛金
(3)地方公共団体が実施する、いわゆる心身障害者扶養共済制度の掛金(この共済制度とは、地方公共団体の条例で精神または身体に障害がある者を扶養する者を加入者として、その加入者が地方公共団体に掛金を納付し、当該地方公共団体が心身障害者の扶養のための給付金を定期に支給することを定めている制度のうち一定の要件を備えているものをいいます。)
現状、小規模企業共済等控除対象のもので、電子データに対応しているのは、iDeCo(イデコ)のみです。
控除証明書は、iDeCo(イデコ)の運用管理機関から発行されますので、ご自身の運用管理機関へご確認ください。
独立行政法人 中小企業基盤整備機構が提供している「小規模共済」は、2022(令和4)年度は電子化に対応していません。来年以降、対応予定とのことです。その他、しょうがい共済については、ご加入の自治体へお問い合わせください。
まとめ
令和2(2020)年、令和3(2021)、令和4(2022)年の年末調整に関連する変更点をおさえてきました。生命保険料控除などについては下記のリンクでご確認ください。
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