民間の介護保険は必要?介護にかかる費用や公的介護保険制度との違いから必要性を解説
高齢化が進むなか、「民間の介護保険は本当に必要なのか」と悩む人は少なくありません。
介護には月々の費用だけでなく、数年単位の長期的な負担がかかるケースもあります。
この記事では、介護にかかる費用や期間、要介護になる確率、公的介護保険でまかなえる範囲を整理したうえで、民間の介護保険の必要性についてわかりやすく解説します。
この記事のポイント
- 介護には平均で約5年、総額では数百万円規模の費用がかかる可能性があり、長期化すると家計への影響は大きい。
- 公的介護保険は現物支給が基本で、自己負担や利用限度額を超える費用は原則としてカバーできない。
- 民間の介護保険は、公的制度で不足する自己負担や収入減少リスクを補う手段であり、資産状況や家族構成によって必要性は異なる。
民間の介護保険とはどんな保険?

民間の介護保険とは「日常生活能力が無くなるリスクに備える保険」です。
民間の介護保険を選ぶ基準やポイントとして真っ先に思い浮かべるのは保険料ではないかと思いますが、保険料だけをみて選ぶと失敗してしまいます。というのも、介護保険のしくみには特徴があるからです。
まずは情報整理のため、介護保険のチェックポイントを確認しましょう。
何のため? | 病気・けが全般等/認知症で介護が必要になった時のため |
|---|---|
いくら必要? | 老後の生活資金とは別に、預貯金等から計算する(目安は100〜800万円の間) |
期間は? | 一定期間(定期)か一生涯(終身)か |
誰が使う? | 契約者・被保険者・保険金受取人=自分 |
受取方法は? | 自分(被保険者)の要介護状態・認知症時に:一時金か年金形式で受け取る方法 |
民間の介護保険はバリエーションが豊かで、大きく分けて4つに分類されます。
- 貯蓄タイプ、掛け捨てタイプ
- 支払い要件が、公的保障に連動タイプ、自社基準タイプ、または両方の併用タイプ
- 支払い基準の厳しいタイプ、緩いタイプ
- 受け取り方が一時金タイプ、年金タイプ、両方の併用タイプ
自分に合った民間の介護保険は上記4つの要素を考えることで選べるため、どのタイプが自分に合っているのか、また必要なのかを考えることが大事です。
関連記事:介護保険の必要性とは?メリット・デメリットと高額介護サービス費も解説
民間の介護保険の必要性
それでは、実際に民間の介護保険があなたにとって必要なのかを多角的に検討してみましょう。
介護保険には公的介護保険もあるため、公的制度のみでまかなえるならば、わざわざ民間の介護保険に加入する必要はないでしょう。
また、そもそも介護状態にならなければ介護保険は不要、とも考えられます。
現在、どれくらいの人が介護を必要としているのか、要支援や要介護認定者数や平均寿命・健康寿命などから民間の介護保険の必要性に迫ります。
介護費用はどれくらい必要?
生命保険文化センターの調査によれば、介護に要した費用(※公的介護保険サービスの自己負担費用を含むのうち、住宅改造や介護用ベッドの購入などにかかった一時費用の合計額の平均は74万円でした。
なお、「かかった費用がない」とする人が15.8%、「15万円未満だった」人が18.6%いた一方で「50~100万円未満かかった」人が9.5%、「100~150万円未満かかった」人が7.2%いることが分かっています。
在宅介護の場合、自宅をリフォームしたり車いすやベッドを購入したりと費用がかかります。住宅をバリアフリーに改築すると、数百万円単位のお金がかかることもあるでしょう。
また、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)のうち、月々に支払っている(支払っていた)1ヶ月あたりの平均費用は7.8万円という結果になりました(※「支払った費用はない」を0円として平均を算出)。
分布で見ると「15万円以上かかった」という人が16.3%ともっとも多く、次いで「1万円~2万5,000円未満」が15.3%、「2万5千円~5万円未満」と答えた人が12.3%と続きます。
ただし、これらはあくまでも”平均”です。介護を受ける方の状態によっても、介護費用は異なります。
介護にかかる期間はどれくらい?
生命保険文化センターの調査によると、過去3年間に介護経験がある人に「どのくらいの期間介護を行ったか」と尋ねたところ、 介護を行った期間の平均は61.1ヶ月(約5年)でした。
先ほど紹介した通り、月々の介護費用は平均8.3万円かかりますから、単純計算(8.3万円 × 5年)するとトータルで平均約498万円かかるという計算になります。
もし月に15万円かかる人が、10年以上の介護に臨む場合、1,800万円の金額がかかる(15万円 × 10年)ことになるのです。公的介護保険で1割負担になったとしても、180万円は自己負担になってしまいます。
介護状態になる人はどれくらいいる?
平均寿命が80歳を超えて「人類100年時代」と呼ばれる現代、誰が要介護状態になってもおかしくはありません。
厚生労働省によると、2023年の要介護者の発生率は40~69歳では割合が少ないものの、加齢とともに急速に比率が高まっているのが特徴的です。
80歳~84歳では26.0%、85歳以上では59.5%にも達し、半分以上の方が要介護・要支援のいずれかに認定されることになります。
平均寿命と健康寿命は何歳?
2022(令和4)年の厚生労働省の発表によれば、平均寿命は男性が81.41歳、女性は87.45歳でした。しかし、全員がこの平均寿命を全うするまで健康でいられるとは限りません。
注目したいのが、2000年にWHO(世界保健機関)が提唱した「健康寿命」です。
健康寿命(けんこうじゅみょう)とは
健康上の問題で日常生活が制限されることがなく、生活できる期間のこと。
この健康寿命と平均寿命の差が、介護を必要とするような「健康とはいえない期間」になります。
厚生労働省によると、令和元年の男性の健康寿命は72.68歳、女性が75.38歳でした。令和元年の平均寿命との差は男性で「8.73歳」、女性では「12.06歳」です。
なお、2016年の男性の健康寿命は72.14歳、女性が74.79歳でした。
2016年当時の平均寿命は男性が80.98歳、女性が87.14歳のため、その差は男性で「8.84歳」、女性では「12.35歳」となります。
以上の結果から、平均寿命と健康寿命の乖離が大きいのは女性のほうであるということがわかります。これだけの長期間にわたって、介護を受ける可能性があるということです。
介護が必要となる原因
介護が必要になる背景は、人によってさまざまです。主にどのような理由で介護が必要になるのでしょうか?
厚生労働省の調査によると、介護や支援が必要になった原因としてもっとも多かったのは「認知症」で、全体の17.6%を占めています。
ついで「脳血管疾患(脳卒中)」が16.1%「高齢による衰弱」が12.8%と続きます。
その他の原因として、関節疾患や骨折・転倒といった症状・ケガによっても要支援・要介護になっています。
ちなみに、平成25年の調査では「脳血管疾患(脳卒中)」が18.5%とトップで、認知症は15.8%の2位でした。数年のうちに認知症の割合が増え、逆転しています。
認知症は周囲のサポートなしでは生活することができないため、認知症の人の割合が増加していることで「介護期間が長期間に渡りやすくなっている」と言えます。
介護する人とその負担
総務省の調査によると、介護に携わっている15歳以上の人口は約627万6,000人で、そのうち仕事をしている人は約346万3,000人です。
男女別で見てみると、男性は65.3%・女性は49.3%と、男性の方が仕事と介護を両立する人の割合が大きいことが分かります。
年齢としては、男性は55~59歳が87.8%ともっとも多く、女性は40~49歳が68.2%ともっとも多くなっています。
まだ現役で働くことのできる世代が、介護の役割を担っていることになるでしょう。
更に、育児と介護を同時に行う「ダブルケア」にも注目する必要があります。
内閣府の調査によれば、ダブルケアに携わる人は約25万人にものぼっています。男女別では男性が8万5,400人、女性が約16万7,500人と、女性の比率が高いという結果になりました。
女性の晩婚化や出産年齢が高齢化してきていることにより、育児期間と介護の期間が重なるようになってきたと考えられます。
仕事と介護の両立が難しい場合は、介護離職をする人もいるでしょう。
40代でそれまで就いてきた仕事を辞めて介護と両立できる仕事を始める場合、基本的には受け取れる給料は安くなってしまいます。
月7.8万円の介護費用がかかることもあり、生活は長期間に渡って厳しくなることが予想されます。
公的介護保険だけで介護費用をまかなうことは可能?

「公的介護保険があるので、民間の介護保険は不要」という声もよく聞かれます。しかし、実際にはどうなのでしょうか。
ここでは公的介護保険の概要や、具体的に受けられるサービスから、民間の介護保険の必要性について解説します。
公的介護保険とは
先述したとおり、男性は約9年間・女性は約12年間もの間、なんらかの制約を受けながら生活をすることになる可能性があります。
その最中に要支援・要介護になった場合、公的介護保険から支援を受けることができます。
公的介護保険は、介護が必要になったときに介護サービスを受けられる「現物支給」になるため、現金を受け取れるわけではありません。
また、公的介護保険では、要介護度によってその支給額が異なり、受けることができるサービスの内容も変わってきます。
関連記事:公的介護保険って何?認知症時に使える仕組みとサービス
公的介護保険でまかなえる介護費用は?
介護を必要としたとき、真っ先に考えるべきなのは「公的な介護保険」です。
原則として、公的介護保険では介護サービス費用を1割(所得によっては2~3割)で受けることができます。
ただし、利用できる月ごとの上限が以下のように決められています。この金額を超えた分は、全額が自己負担となります。
介護度 | 利用限度額 |
|---|---|
要支援1 | 49,700円 |
要支援2 | 100,400円 |
要介護1 | 165,800円 |
要介護2 | 194,800円 |
要介護3 | 267,500円 |
要介護4 | 306,000円 |
要介護5 | 358,300円 |
ただし、自己負担額が高額になりすぎた際は「高額介護サービス費」を活用することで、自己負担を軽減する措置が行われます。
自己負担額の上限は、以下のとおりです。
区分 | 負担の上限 |
|---|---|
【現役並み所得相当】 | 44,400円(世帯) |
【一般世帯】 | 44,400円(世帯) |
【市民税世帯非課税】 | 24,600円(世帯) |
【市民税世帯非課税】 | 15,000円(個人) |
【市民税世帯非課税】 | 15,000円(個人・世帯) |
民間の介護保険のメリット・デメリット
ここまで、介護にかかる費用や期間、また公的介護制度の概要やサービス内容について解説してきました。
以上を踏まえ、民間の介護保険のメリット・デメリットについてまとめると以下の通りとなります。
介護保険のメリット
- 公的介護保険の自己負担部分をカバーすることができる
- 公的介護保険よりも保障対象となる年齢の幅が広い
- 生命保険料控除で所得税と住民税を減税できる
- 保険会社所定の介護状態が続く限り、保険料払込免除となる場合がある
介護保険のデメリット
- 保険料を負担する必要がある
- 介護認定が保険会社独自基準の場合、支払基準を満たせない可能性がある
- 要介護度が低い状態では公的介護保険の利用限度額を超えることは少なく、介護保険の保険会社所定の要介護状態の条件を満たせることが少ない
- 健康状態の告知が必要な場合がある
関連記事:民間の介護保険は必要?それとも不要?特徴や実際の加入率から民間の介護保険の必要性について解説
まとめ
介護は、誰にとっても突然始まり、しかも長期間に及ぶ可能性があります。
公的介護保険は心強い制度ですが、すべての費用や生活への影響をカバーできるわけではありません。
民間の介護保険は、公的制度を補完し、家計や働き方へのダメージを和らげる選択肢の一つです。
「自分の場合は本当に必要か」「どの程度備えるべきか」に迷ったときは、保険についてよく知るファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談しながら判断するのもおすすめです。
さらに、医療保険と介護保険の違いについて知りたい場合は、【しっかり保険、ちゃんと節約。】医療保険と介護保険の違いとは?優先順位や併用可能かわかりやすく解説, 民間介護保険は必要ない?平均介護費用や必要性が高い人について解説, 【2025年8月度】介護保険 人気比較ランキングも参考になります。














