健康保険適用になる診療・ならない診療 保険適用外診療の対処法
健康保険制度において治療や薬が処方されると、私たちは、自己負担に応じた医療費を支払います。しかし、すべての医療費において自己負担が設定されているわけではありません。そこで、保険適用になる診療、保険適用外の診療について今一度確認しましょう。
健康保険適用になる診療とは
健康保険制度における自己負担割合は、年齢や所得によって異なります。小学校入学前の未就学児は2割、小学校入学後から70歳未満は3割、70歳以上75歳未満は所得に応じて2〜3割、75歳以上は所得に応じて1〜3割です。ただし、未就学児に対しては医療費を免除したり自己負担を一定額にしたり、各市区町村で助成制度があります。
ふだん、体調不良など病気や怪我で医療機関にかかると、一般的には健康保険適用になりますから、支払う医療費は自己負担割合までとなり、数百円〜数千円のことが多いでしょう。 医療費が家計を圧迫するほど高額になるケースは少ないと思います。
しかし、入院や手術をしたり、あるいは治療の内容によっては健康保険が適用されたとしても医療費が高いと感じるケースがあるかもしれません。例えば、以下のような費用は健康保険適用の費用ですが、出費が痛いと思うかもしれません。
入院費用例
胃がん入院費用:65万6,170円
乳がん入院費用:59万2,380円
良性新生物およびその他新生物(腫瘍)入院費用 57万7,900円
参考:厚生労働省「令和2年度 医療給付実態調査」第3表を参考に筆者算出
上記費用は、各病気の入院でかかった医療費の平均です。差額ベッド代や食事料金など健康保険適用外の費用は含まれていません。また、医療費総額のため窓口で支払う医療費は上記金額に自己負担割合をかけた金額になります。例えば、乳がんの医療費は約59万円ですが、自己負担が3割なら59万円×3割=18万円です。
関連記事:差額ベッド代をわかりやすく解説!医療費控除や高額療養費は適用される?
自己負担割合で医療費は抑えられるものの、それでも18万円は決して少額とは言えません。ただ、高額療養費制度がありますから、自己負担割合の金額をすべて支出することになるとは限らないでしょう。医療費が、ひと月あたりの上限額を超えた場合は、超えた金額は高額療養費として後から支給されます。上限額は年齢や年収によって異なり、69歳以下の場合は下記のような仕組みになっています。
適用区分 | ひと月の上限額(世帯ごと) | |
---|---|---|
ア | 年収約1,160万円~ 健保:標報83万円以上 国保:旧ただし書き所得901万円超 | 252,600円+(医療費-842,000)×1% |
イ | 年収約770~約1,160万円 健保:標報53万~79万円 国保:旧ただし書き所得600万~901万円 | 167,400円+(医療費-558,000)×1% |
ウ | 年収約370~約770万円 健保:標報28万~50万円 国保:旧ただし書き所得210万~600万円 | 80,100円+(医療費-267,000)×1% |
エ | ~年収約370万円 健保:標報26万円以下 国保:旧ただし書き所得210万円以下 | 57,600円 |
オ | 住民税非課税者 | 35,400円 |
※出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
例えば、年収500万円の人は適用区分が「ウ」に該当しますから、乳がんの治療をして1か月で60万円の費用がかかったとすると、その月の上限は
8万100+(60万-26万7,000)×1%=8万3,430円
となり、実質8万3,430円が自己負担する金額となります。
ただし、上記はひと月に医療費がかかった場合を想定しています。月またぎで入院となった場合は、この計算は当てはまりません。
仮に2か月で60万円、1か月あたり30万円ずつ医療費がかかったとすると、
1ヶ月あたりの上限:8万100円+(30万-26万7,000)×1%=8万430円
2か月分:8万430円×2か月分=16万860円
になります。同じ医療費でも同月にかかった医療費か、月をまたいでかかった医療費かによって実質の自己負担は異なります。過去1年に3回以上、高額療養費の上限額に達した場合は、4回目から高額療養費の上限額が下がる「多数回該当」の制度もありますから、高額治療が長引くと自己負担が下がる仕組みはあるものの、月またぎのケースには注意が必要です。制度の仕組みを正しく理解しておく必要があるでしょう。
健康保険が適用にならない診療とは?
次に、健康保険が適用にならない診療にはどのようなものがあるでしょうか。以下に例をあげましたので、確認していきましょう。
1:先進医療
先進医療は、高度な医療技術を用い、保険適用にするかどうか評価が必要な療養です。先進医療から保険適用の治療になることもあります。2023年4月現在、先進医療は全部で86種類*あります。
先進医療にかかる費用は全額自己負担で、例えば、がん細胞を体の外から放射線をあてて治療する陽子線治療の費用は約300万円(*1)です。陽子線治療を受けられる医療機関は、2023年4月現在19(*2) 施設で、2020年〜2021年の1年間で1,285(*3)件実施されました。
*2 出典:先進医療を実施している医療機関の一覧|厚生労働省
また、前立腺がんかどうかを確定診断するために行われる「MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく前立腺針生検法」の費用は約11万円で、同期間に1,338件行われました。なお、この生検法は2022年4月から保険適用となっています。
2:患者申出療養
患者申出療養とは、未承認薬等を患者の申し出によって保険外併用療養費の対象に含めることができる制度です。本来、保険適用の治療と保険適用外の治療を併用して行うことは禁止されおり、全額自己負担となりますが、患者申出療養においては、保険適用の治療と併用することができ、未承認薬等を使う治療においては全額自己負担となります。
2020年〜2021年の1年間で実施された患者申出療養の患者数は208人(*1)と決して多くはありませんが、がん治療で利用されているケースが多く、一件当たりの患者申出療養費用は約50万円(*2)となっています。
そのほか、健康保険が適用にならない診療としては、レーシック、美容整形、労災が適用となる通勤中や仕事中の怪我や病気、予防接種、正常分娩、日常生活からくる肩こりや腰痛の症状改善、矯正歯科やセラミックを使った歯科治療などがあげられます。
また、診療費には該当しませんが、入院中の食事代やベッド代も全額自己負担です。健康保険適用外となる治療においては、高額療養費は適用されませんから、これら費用が発生する場合は、自分でどう対応するのかが大きなポイントになります。
関連記事:先進医療とは?医療保険でカバーできる治療や注意点、先進医療の代表例を紹介
関連記事:患者申出療養とは?自由診療・先進医療との違いをわかりやすく解説
保険適用外診療費がかさんだ場合はどうしたらいい?
では、保険適用外の診療費がかさんだ場合には、どう備えれば良いでしょうか?方法としては、家計から支出する方法か、家計支出以外に頼る方法の2つが考えられます。診療費を貯蓄でカバーできたり、日々の収入から支払える余力があるなら、家計の体力を落とさないよう家計管理をしていくことが解決方法になるでしょう。
ただ、家計に頼るにも限度があります。診療費が高額になり、家計に頼れない場合は、やはり民間の保険に頼るのが効果的でしょう。例えば、がん診断一時金や三大疾病一時金があれば、まとまった資金が手に入りますから、かさんだ診療費に対応できるのはもちろん、セカンドオピニオンや、通院治療、より高度な治療を受ける治療の選択肢も広げられるでしょう。 また、これら一時金に限らず医療保険やがん保険の入院給付金や手術給付金があれば、ベッド代や食事代、付き添いの人の交通費などにあてることもできます。
また、先進医療に対しては先進医療特約で対応できます。保険料は月額数百円に設定している商品が多いため、保険料の負担は大きくありません。なお、健康保険適用外の治療は高額療養費の対象外ですが、医療費控除は使えるケースがあります。例えば、ベッド代や食事代、陽子線治療や容姿を美しくする目的でない矯正歯科は医療費控除の対象となります。保険金などを受け取った場合は、その金額を差し引いた上で医療費控除を受けることになります。
まとめ
健康な時は、病気になった自分をイメージしづらいものです。大きな病気にかかる可能性は低いかもしれませんが、かかってしまうと医療費がかかることはもちろん、収入も減少するかもしれません。
家族も仕事を制限されるかもしれませんし、家計状況が一気に変わる可能性があります。そのため、ふだんから病気のリスクに備えておくことが大切です。健康に気をつけるのもリスク管理の一つでしょう。医療費がかさむリスクに対しては、貯蓄で対応するにしろ、保険で対応するにしろ、この機会に、備えられているかどうか見直してみてはいかがでしょうか。