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医療保険

高齢者に民間の医療保険はいらない?公的医療保険制度でまかなえる金額とは

高齢者に民間の医療保険はいらない?公的医療保険制度でまかなえる金額とは

「高齢者に民間の医療保険はいらない」と言われてきたのには、いくつかの理由があります。

窓口負担割合が現役世代より低く設定されていたこと、高額療養費制度に70歳以上向けの外来特例が設けられ通院費の上限が低く抑えられていたこと、そして高齢になってから新たに保険に加入すると保険料が割高になるといった点が主な根拠とされてきました。

しかしここ数年、こうした前提が大きく揺らいでいます

2022(令和4)年10月には75歳以上で一定以上の所得がある方の窓口負担割合が1割から2割に引き上げられ、その負担増を緩和する配慮措置も2025(令和7)年9月で終了しました。

さらに、2026年8月からは高額療養費制度の自己負担限度額が段階的に引き上げられ、高齢者の通院費を軽減してきた外来特例の上限額も見直されます。

この記事では、これらの制度変更を踏まえたうえで、高齢者に民間の医療保険が本当にいらないのか、改めて検証していきます。

この記事のポイント

  • 「高齢者に民間保険は不要」と言われてきた理由は、手厚い公的支援(低い窓口負担・高額療養費制度など)があったため。
  • 近年、窓口負担の2割化や高額療養費の上限引き上げが相次ぎ、高齢者の自己負担は増加傾向にある。
  • 預貯金に不安がある方や、一定の所得があり「2割負担」となる方は、民間の医療保険の加入や継続を検討するのがおすすめ。

「高齢者に民間の医療保険は必要ない」と言われる理由とは?

「高齢者に民間の医療保険は必要ない」と言われる理由とは?

「高齢者に民間の医療保険はいらない」と言われてきた背景には、主に以下のような理由があります。

  • 窓口負担割合が現役世代より低く設定されているため
  • 高額療養費制度によって自己負担に上限が設けられているため
  • 高齢者の医療保険は保険料が高いため

窓口負担割合が現役世代より低いため

現役世代の医療費窓口負担が原則3割であるのに対し、70〜74歳は2割75歳以上は原則1割と低く設定されています。

そのため、同じ医療費がかかっても、窓口で支払う金額が少ないため「公的制度だけで十分」と考えられているのです。

医療費の自己負担割合

高額療養費制度によって自己負担額に上限が設けられているため

公的医療保険には、1カ月の自己負担額が所得に応じた上限を超えた場合に超過分が払い戻される「高額療養費制度」があります。

高額療養費制度(こうがくりょうようひせいど)とは?

医療費が多額になった場合に、1カ月あたり一定額を超えた分が払い戻される仕組み。

この制度のおかげで、たとえ入院や手術で医療費が高額になっても、実際の自己負担は一定額に抑えられます。

70歳以上・一般区分の方であれば、月の自己負担上限は57,600円(多数回該当の場合は44,400円)です

■70歳以上の方の上限額(2026年7月まで)

区分

適用区分

ひと月の上限額
(<>内は多数回該当)

現役並み

年収約1,160万円~
・標準報酬月額83万円以上
・課税所得690万円以上

252,600円+(医療費-842,000)×1%
<140,100円>

現役並み

年収約770万円~約1,160万円
・標準報酬月額53万円以上
・課税所得380万円以上

167,400円+(医療費-558,000)×1%
<93,000円>

現役並み

年収約370万円~約770万円
・標標準報酬月額28万円以上
・課税所得145万円以上

80,100円+(医療費-267,000)×1%
<44,400円>

一般

年収156万~約370万円
・標準報酬月額26万円以下
・課税所得145万円未満等

57,600円
<44,400円>

住民税非課税等

Ⅱ 住民税非課税世帯

24,600円
※多数回該当の適用はなし

Ⅰ 住民税非課税世帯(年金収入80万円以下など)

15,000円
※多数回該当の適用はなし

仮に医療費の総額が100万円かかったとしても、窓口での最終的な支払いはこの範囲内に収まります。

さらに70歳以上の方には、入院を伴わない外来受診に対して個人ごとの月額上限を設ける「外来特例」もあります。

外来特例(がいらいとくれい)とは?

70歳以上の方に対して、入院を伴わない通院(外来)の自己負担について、個人ごとに月額上限を設ける仕組み。

一般区分(課税世帯)の場合は、月18,000円(年間14.4万円)が上限とされています

そのため、高血圧や糖尿病といった慢性疾患で毎月通院しているケースでも、自己負担額を一定額まで抑えられます。

高齢者の医療保険は保険料が高いため

民間の医療保険は、加入時の年齢が高いほど保険料は高くなるのが一般的です

60代・70代で新たに医療保険に加入すると、月々の保険料負担は大きくなります。

そのため、「その分を貯蓄に回したほうが合理的」という考え方もあります。

関連記事:シニア・高齢者は保険に入れる?おすすめ生命保険や選び方を解説

高齢者の医療費負担は増えている?知っておきたい3つの制度変更

高齢者の医療費負担は増えている?知っておきたい3つの制度変更

「公的制度で十分」という前提は、ここ数年の制度変更によって大きく揺らぎ始めています。

高齢者の医療費負担に影響する、以下3つの主な制度変更を確認しておきましょう。

  • 75歳以上の窓口負担2割への引き上げと配慮措置の終了
  • 高額療養費制度の自己負担限度額の引き上げが決定(2026年8月から)
  • 高額療養費制度における外来特例の見直し

75歳以上の窓口負担2割への引き上げと配慮措置の終了

2022(令和4)年10月から、75歳以上の後期高齢者のうち、一定以上の所得がある方の窓口負担割合が1割から2割に引き上げられました

変更前

 

変更後
2022(令和4)年10月1日〜

所得区分

自己負担割合

所得区分

自己負担割合

現役並み所得者

3割

現役並み所得者

3割

一定以上所得者・一般所得者等

1割

一定以上所得者

2割

一般所得者等

1割

対象となるのは、課税所得が28万円以上で「年金収入+その他の合計所得金額」が単身世帯で200万円以上、複数世帯で合計320万円以上の方です

この改正に際しては、急激な負担増を緩和するため、外来医療の負担増加額を月3,000円までに抑える配慮措置が3年間の期限付きで設けられていました。

しかし、この配慮措置は2025(令和7)年9月30日をもって終了しています

関連記事:70歳以上高齢者の医療費 3割負担の対象見直しへ

高額療養費制度の自己負担限度額の引き上げが決定(2026年8月から)

高額療養費制度の上限額は、2026年8月から段階的に引き上げられることが決まりました。

2025年12月、社会保障審議会医療保険部会のもとに設置された「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」で見直し案がとりまとめられ、2026年度予算案に盛り込まれています。

見直しは2段階で実施されます。

第1段階(2026年8月〜) では、住民税非課税世帯を除く各所得区分の自己負担限度額が一律約7%引き上げられます(住民税非課税世帯は約4〜5%の引き上げ)。

例えば、70歳以上・一般区分の方の入院を含む月の自己負担限度額は、現行の57,600円から61,500円になります。

■第1段階(2026年8月~2027年7月)の見直し

所得区分

月額上限
(<>内は多数回該当)

年間上限

約1,160万円~
(標準報酬月額:83万円~)

270,300円+1%
<140,100円>

1,680,000円

約770~約1,160万円
(標準報酬月額:53~79万円)

179,100円+1%
<93,000円>

1,110,000円

約370~約770万円
(標準報酬月額:28~50万円)

85,800円+1%
<44,400円>

530,000円

約200万円~約370万円
(標準報酬月額:26~19万円)

61,500円
<44,400円>

530,000円

~約200万円
(標準報酬月額:~15万円)

61,500円
<44,400円>

530,000円

非課税【70歳未満】

36,900円
<24,600円>

290,000円

非課税【70歳以上】

25,700円

290,000円

一定所得以下【70歳以上】

15,700円

180,000円

※「~約200万円(標準報酬月額~15万円)」区分に該当する場合は年間上限41万円を適用し、令和9年8月以降に償還払いとなる

第2段階(2027年8月〜) では、現行の4つの所得区分(住民税非課税を除く)が13区分に細分化されたうえで、所得に応じた追加の引き上げが行われます

■第2段階(2027年8月~)の見直し

所得区分

月額上限
(<>内は多数回該当)

年間上限

約1,650万円~
(標準報酬月額:127万円~)

342,000円+1%
<140,100円>

1,680,000円

約1,410~約1,650万円
(標準報酬月額:103~121万円)

303,000円+1%
<140,100円>

約1,160~約1,410万円
(標準報酬月額:83~98万円)

270,300円+1%
<140,100円>

約1,040~約1,160万円
(標準報酬月額:71~79万円)

209,400円+1%
<93,000円>

1,110,000円

約950~約1,040万円
(標準報酬月額:62~68万円)

194,400円+1%
<93,000円>

約770~約950万円
(標準報酬月額:53~59万円)

179,100円+1%
<93,000円>

約650~約770万円
(標準報酬月額:44~50万円)

110,400円+1%
<44,400円>

530,000円

約510~約650万円
(標準報酬月額:36~41万円)

98,100円+1%
<44,400円>

約370~約510万円
(標準報酬月額:28~34万円)

85,800円+1%
<44,400円>

約260~約370万円
(標準報酬月額:20~26万円)

69,600円
<44,400円>

530,000円

約200~約260万円
(標準報酬月額:16~19万円)

65,400円
<44,400円>

~約200万円
(標準報酬月額:~15万円)

61,500円
<34,500円>

410,000円

非課税【70歳未満】

36,900円
<24,600円>

290,000円

非課税【70歳以上】

25,700円
<24,600円>

290,000円

一定所得以下【70歳以上】

15,700円

180,000円

※「~約200万円(標報:~15万円)」区分に該当する場合は年間上限41万円を適用し、令和9年8月以降に償還払いとなる

なお、引き上げ幅は区分によって異なり、最大で現行比約38%の引き上げとなります

高額療養費制度における外来特例の見直し

高額療養費制度の中でも、高齢者に特に大きな影響があるのが「外来特例」の見直しです

高齢になるほど通院の機会が増えるため、外来特例は日常的な医療費負担を抑える役割を果たしてきました。

現行では、一般区分(課税世帯)の方は月18,000円(年間14.4万円)、住民税非課税世帯の方は月8,000円が上限ですが、これらの金額も段階的に引き上げられます。

第1段階(2026年8月〜) では、年収約370万円までの方の外来上限が月18,000円から月22,000円(年間上限21.6万円)に引き上げられます

また、第2段階(2027年8月〜) では、所得区分の細分化に伴い、年収約260万円超の方の外来上限は月28,000円(年間上限21.6万円)まで引き上げられる予定です

■外来特例の見直し(第1段階・第2段階)

所得区分

外来特例(70歳以上)

現行
(~2026年7月)

第1段階
(2026年8月~2027年7月)

第2段階
(2027年8月~)

約260~約370万円
(標準報酬月額:20~26万円)

18,000円

22,000円

28,000円

約200~約260万円
(標準報酬月額:16~19万円)

~約200万円
(標準報酬月額:~15万円)

18,000円

22,000円

22,000円

非課税【70歳未満】

非課税【70歳以上】

8,000円

11,000円

13,000円

一定所得以下【70歳以上】

8,000円

8,000円

8,000円

毎月上限額まで外来で受診している場合、現行では年間14.4万円で済んでいた自己負担が、2026年8月以降は年間21.6万円と、年間で最大約7.2万円の負担増になる可能性があります

公的医療保険制度と高額療養費制度でどれくらい医療費をまかなえる?

それでは、公的医療保険制度と高額療養費制度でどれくらいの医療費をまかなえるのでしょうか。

例えば、入院した場合の医療費総額が100万円だった場合は、自己負担割合に応じて公的医療保険でカバーされる金額は以下のとおりです。

自己負担割合

窓口で支払う自己負担額

公的医療保険がカバーする金額

1割

10万円

90万円

2割

20万円

80万円

3割

30万円

70万円

この自己負担額が高額になった場合は、高額療養費制度により所得に応じた自己負担限度額が定められています。

例えば、年収340万円程度の方(課税所得額が145万円以上)の場合、窓口で支払う金額は医療費の総額の3割である30万円となります

そこで高額療養費制度が適用されれば、約21万円が高額療養費として戻ってくるため、最終的な自己負担金額は約9万円程度となります

高額療養費制度を利用した場合の自己負担額

なお、入院の予定がある場合は、「限度額適用認定証」などを事前に発行し、支払い時に窓口に提示することで、支払う医療費を自己負担額までの支払いに抑えられます。

自己負担割合が2〜3割の方は「限度額適用認定証」、1割の方は「限度額適用・標準負担額減額認定証(減額認定証)」が必要です。

また、マイナンバーカードを保険証として利用している(マイナ保険証)場合は、限度額適用認定証を発行していなくても、窓口で支払う医療費には自動的に高額療養費制度の限度額が適用されます

関連記事:高額療養費制度は医療費がいくら以上から使える?さらに負担を軽くする多数該当、世帯合算とは?

60代以降で民間の医療保険の加入・継続を検討すべき方とは?

60代以降で民間の医療保険の加入・継続を検討すべき方とは?

公的医療保険や高額療養費制度により、実際の自己負担額がだいぶ抑えられることがわかりました。

しかし、入院時の「差額ベッド代」や「食事代」「日用品費」「家族の交通費」など、公的制度ではカバーしきれない全額自己負担の費用も存在します

これらを踏まえ、以下の条件に当てはまる方は、60代以降でも民間の医療保険への加入、あるいは現在の保険の継続を積極的に検討すべきと言えます。

  • 預貯金が少ない
  • 年金などの収入が少ない
  • 後期高齢者以降も一定以上の所得が見込まれる(2割負担の対象者)

預貯金が少ない方

預貯金が少ない場合、病気やケガによる入院では、治療費以外にも全額自己負担となる雑費が重なり、結果的に数万〜数十万円のまとまった出費になることが珍しくありません

急な入院費用を手元の貯蓄からすぐに捻出するのが難しい場合、入院給付金や一時金を受け取れる民間の医療保険が大きな助けとなります。

年金などの継続的な収入が少ない方

毎月の生活を限られた年金収入だけでやり繰りしている場合、月に数万円の継続的な通院費や薬代が発生すると、日々の生活費が圧迫される恐れがあります

そのため、日々の家計を守るという点からも、民間保険の必要性は高いと言えます。

関連記事:夫婦の年金受給額を共働き・専業主婦家庭ごとに計算!年金以外に必要な老後資金の備え方を解説

75歳以降も一定以上の所得が見込まれる方

年金やその他の収入(単身で合計200万円以上など)があり、一定の所得を維持できる方は、75歳以降の窓口負担が2割となります

これまでより窓口での支払いが2倍になるうえ、高額療養費制度や外来特例の自己負担上限額も引き上げられるため、思わぬ医療費負担を強いられるリスクがあります。

高齢者と民間の医療保険に関するよくある質問

ここでは、高齢者と民間の医療保険に関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。

Q.60代以上の高齢者は、民間の医療保険にどれくらい加入していますか?

A.60代以降の場合、民間の医療保険の世帯加入率は80~90%台です

生命保険文化センターの「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、60代以降の医療保険加入率は以下の通りです。

■ 二人以上世帯における医療保険加入率

年代

加入率

世帯全体

世帯主

配偶者

その他の家族

60〜64歳

94.1%

90.3%

69.7%

23.8%

65〜69歳

96.6%

91.6%

75.1%

25.6%

70〜74歳

93.0%

87.7%

64.6%

14.6%

75〜79歳

93.1%

84.2%

67.8%

13.9%

80〜84歳

86.3%

73.5%

52.0%

13.7%

85〜89歳

82.8%

58.6%

31.0%

31.0%

90歳以上

80.0%

50.0%

40.0%

40.0%

Q.高齢者が入院するリスクは、どのようなデータを見ればわかりますか? 

A.高齢者が入院するリスクは、人口10万人あたりでどれだけの人が入院で医療を受けているかを示す「入院受療率」を見ると把握することができます

「入院受療率」とは、ある特定の時点において、人口10万人あたり何人が入院医療を受けているかを示す指標です。 

このデータを見ると、下の表のとおり60代以降の入院受療率は男女ともに年齢が上がるにつれて上昇していることがわかります。

■ 60代以降の入院受療率の推移

60-64歳

65-69歳

70-74歳

75-79歳

80-84歳

85-89歳

90歳以上

男性

983

1320

1770

2315

3153

4589

6441

女性

695

924

1263

1803

2808

4312

6216

総数

838

1117

1502

2033

2952

4413

6275

したがって、民間の医療保険の必要性は年齢が上がるにつれて高くなる可能性があると言えます。

まとめ

現役世代並みに収入がある方は、民間の医療保険の必要性は低いと言える一方で、仕事を辞めた場合などに備えて、医療保険を状況に応じ活用することが重要です。

なお、注意すべき点として、民間の医療保険には加入できる年齢に制限があります。また、持病などがある場合には一般の医療保険への加入を断られる可能性があります。

そのため、持病などで健康に不安がある場合は、まずは一般の医療保険に加入できるか確認し、もし断られた場合には加入条件が緩和された「引受基準緩和型医療保険」も検討するとよいでしょう。

さらに、老後の資金計画を立てるうえでは、医療保険とあわせて民間の介護保険も検討するとよいでしょう

また、高齢になると、病気そのものの治療費よりも「退院後の在宅介護」や「施設への入居費用」「自宅のバリアフリー改修」などに長期的な費用がかかるケースが増加します

長生きのリスクに総合的に備えるためにも、ご自身の資産状況に合わせて介護への備えも確認しておくと安心です。 

関連記事:引受基準緩和型医療保険とは?医療保険と告知項目はどう違う?特徴とメリット・デメリットも解説