iDeCo vs NISA vs 変額保険 どれがいいか徹底比較 ~我が家に合う資産形成の選び方~
資産形成には様々な手法が存在することは知っていても、自分に最適なサービスを選ぶ基準はわかりづらいのが実態です。資産形成のサービス選択においては、個人の所得や資産の状況、運用期間、恩恵を受けたいメリット、等様々なポイントを考慮しながら比較検討することが重要です。本稿では、代表的な手段であるiDeCo、NISA、変額保険を比較して解説していきます。
貯蓄から投資への時代に変化、その背景とは
国民の資産を「貯蓄から投資」へシフトさせるというスローガンが出始めたのは、小泉政権の「骨太の方針」で打ち出された2001年頃からです。「持続的な企業価値向上の恩恵が個人にも及ぶ好循環」を作り上げることを目指した日本政府は、2003年から10年続けた証券税制の優遇措置を皮切りに、様々な促進策を講じてきました。
しかし、リーマン・ショック、コロナウイルス・ショック、ロシア・ウクライナ戦争等を背景とした不安定な経済や金融市場、超低金利政策下のデフレ継続等の影響で、個人資産を投資にシフトさせる動きが起こりづらい環境が続きました。
2023年3月末時点で、日本の個人金融資産残高は2043兆円ですが、内訳は現金・預金54.2%、保険18.5%、株式等11.1%、投信4.4%となっています。株式等+投信ストックは計15.5%(316兆円は過去最高を記録)と、足元では家計のリスク性資産への投資は緩やかながらも着実に進みつつある状況です。
これは、世界的なインフレを背景にした国内の物価上昇の加速、金融緩和政策の転換への期待が高まる中での長期金利の上昇、日本株式への資金流入の動き等が相まって、リスク性資産への投資の追い風になっていると考えられます。現岸田政権では、投資から得る資産所得(財産所得)を増加させる「資産所得倍増計画」を掲げており、今後NISAや確定拠出年金といった投資優遇制度の普及が、個人資産の投資シフトの動きを後押しすることが期待されています。
iDeCo・NISA・変額保険の特徴
ここからは、個人が能動的に「自分で選択する」資産形成の主要な手段である、iDeCo、NISA、 変額保険に注目して、各サービスの特徴についてみていきましょう。
iDeCoの特徴
iDeCoとは、国民年金被保険者である国民を対象とした個人型の確定拠出年金をさします。月々5,000円から自分自身で掛け金を積み立て、原則60歳以降に元本と運用益を受け取ることができる制度です。
「確定拠出年金」は、年金といっても、厚生年金や国民年金等の「公的年金」とは違い、企業や個人が自主的に積み立てる私的年金です。企業型の確定拠出年金は、企業が掛け金を拠出して従業員が運用する制度ですが、個人型の確定拠出年金は、個人で口座を開設して、自己判断で定期預金や投資信託等決められたラインアップの中から選び、投資の意思決定を行います。
必要に応じて、企業型から個人型へ、あるいは個人型から企業型へ、積立金の移管が可能です。また、iDeCoと企業型は、掛け金の合算金額の上限等によりますが、一定の条件を満たしていれば併用が可能です。
| 企業型確定拠出年金 | |
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運営主体 | 国民年金基金連合会 | 企業型確定拠出年金規約の承認を受けた企業 |
加入対象者 | 国民年金被保険者※1 | 企業型確定拠出年金を導入している企業の従業員 |
掛金 | 本人負担※2 | 会社負担 |
掛金納付方法 | 本人口座から振替※3 | 会社より納付 |
運用商品 | 金融機関により異なる | 会社共通の商品ラインアップ |
手数料 | 本人負担 | 会社負担(一部本人負担) |
税制メリット |
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年末調整(確定申告) | 要※3 | 不要 |
掛け金
※iDeCoの仕組み|iDeCoってなに?|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】 を参考にコのほけん!編集部が作成
掛け金は5,000円以上1,000円単位(年1回に限り変更可)で設定可能です。上限金額は、国民年金の被保険者種別や個人型確定拠出年金以外で加入している年金によって異なります。毎月定額以外に賞与月の掛け金を増額する、掛け金の拠出を自発的に停止する、等柔軟な掛け金設定が可能です(ただし企業型確定拠出年金に加入している場合は毎月定額のみ)。
受け取り
受取りに関しては、老齢給付金・障害一時金・死亡一時金として「分割受取り(年金)」か「一時金の一括受取り」が可能です。老齢給付金は、50歳までに加入した場合、60歳〜75歳までの好きなタイミングで受取りを開始できます。ただし、50歳以上であるいは60歳以上で加入した場合等、通算加入期間が10年に満たない場合は受取できる年齢が引き上げられる仕組みになっています。
関連記事:iDeCoの特徴と3つの節税ポイント、NISA、個人年金保険の活用方法を解説
NISAの特徴
2014年から導入された少額投資非課税制度(NISA)は、個人が銀行や証券会社でNISA口座を開設して株式や投資信託等の有価証券に投資して、投資利益にかかる税率(20.315%)が免除される税制優遇制度です。
2024年からはじまる新NISAでは、従来のNISA制度にみられた投資期限や金額等の制限が大きく改善されて、「より多くの資金を」「長い期間で」「自由度を高くしながら」投資が出来るようになります。
新NISA制度の具体的なポイントとしては以下通りになります。
- 新NISAは「非課税保有期間」が無期限に
- 新NISAは「非課税投資枠」が大幅に拡大
- 新NISAでは「成長投資枠」と「つみたて投資枠」の併用が可能
- 新NISAでは売却分の非課税保有投資枠が翌年以降に再利用可能
詳細は筆者が執筆しました「いよいよ始まる新NISA、制度解説とメリット・デメリットとは?つみたてNISAからの移行は?」の記事をご確認ください。
変額保険の特徴
変額保険とは、生命保険と資産運用を兼ねた商品です。被保険者が死亡・高度障害状態となった場合には保険金が支払われますが、保険契約者が支払う払い込み保険料を、保険会社が被保険者に代わって株式、債券、投資信託等を対象として特別勘定で運用します。
定期保険との違い
定期保険との違いは、契約時の保険金額や、解約返戻金、満期保険金、年金額が契約時に定められた金額のまま確定しているため、保険会社の運用パフォーマンスの影響を受けず金額が変動することはありません。一方で、変額保険は、運用成果に応じて、満期保険金や解約返戻金が変動する保険商品になります。したがって、元本割れするリスクもあるものの、運用成果次第では資産を増やすことが可能です。なお、保険料払込期間中の運用成果に関わらず、死亡・高度障害保険金が基本保険金額を下回ることはありません。
変額保険の種類
変額年金のタイプは主に2種類、有期型と終身型があります。
有期型
有期型の変額年金は、5年や10年等保険期間が定まっている変額保険で、被保険者が保険期間中に万が一死亡・高度障害状態となった場合には死亡保険金または高度障害保険金を受け取りますが、運用成果次第で、満期を迎えた際の満期保険金が払込保険料の合計額を上回ることも下回ることもあります。
終身型
一方で、終身型の変額保険は、解約しない限り一生涯保障が継続する変額保険で、運用成果次第で解約返戻金が払込保険料の合計額を上回ることも下回ることもあります。
関連記事:変額保険とは?メリット・デメリットや必要性について解説
iDeCo vs NISA vs 変額保険の比較
iDeCoとNISAと変額保険はどのような点が大きく異なるのでしょうか?以下の比較する際のポイントを見ていきましょう。
iDeCo vs NISA vs 変額保険の比較ポイント
基礎項目
各サービスの目的が異なるため、対象者や運用期間もそれぞれ違いますから、利用検討の際には、まず自らの目標に照らし合わせて、適した資産形成を見つける必要があります。
運用
資産運用を行う場合は、何に投資するかをご自身で判断するか、プロに任せるか、投資上限枠の制約内でどれだけの金額を投じるか、一括か積立か、等が考慮するポイントになります。
換金性
資金の出し入れの柔軟性が考慮する点になります。短中期で必要なお金はどの程度か、いつでも引き出せるほうが良いのか、必要性は低いがどの程度の資金を投資に充てるか、保険機能があるほうが良いのか、等をよく考えましょう。
コスト
コストは運用益(リターン)にマイナスに寄与するため、資産運用の成果を最大化させるためには重要な点です。便利なサービスは全て無料というわけではなく、開始時、利用中、終了時に手数料負担が発生します。サービス提供する金融機関によって手数料率や金額が異なるため。事前に問い合わせて確認しましょう。
税制優遇
利用者が求める最大の期待は税制優遇ではないでしょうか。運用益の非課税メリットは共通しており、所得税や住民税等投資額(掛け金)に応じた控除メリットも魅力です。各サービスによって内容が異なるため、個人の所得の水準、どの税金負担を軽減させたいか、等を総合的に考慮したうえで利用サービスを決定するとよいでしょう。
iDeCo・NISA・変額保険 それぞれの資産形成に合う人とは?
iDeCo・NISA・変額保険のメリット・デメリット
これらのサービスラインのメリット・デメリットを整理すると下表のようになります。
運用益の非課税は各サービスの共通点ですが、税制優遇の内容は異なります。また、現金化のタイミングや投資枠の上限といった、運用に関する自由度の面でも差異があります。
上記の特徴やメリット・デメリットを総合的に勘案して、それぞれの資産形成手法に合う人の特徴は下記の通りです。ご自身がどこに当てはまるかを考える際に参考にしてください。
iDeCoに合う人
- 所得があり税金の納付額が大きく税制優遇を受けやすい人
- 60歳まで引き出せなくても大丈夫な人
- 老後資金を貯めたい人
iDeCoの魅力は税制優遇面の高さです。利用時のコストや投資枠に上限設定等はあるものの、所得があり税金負担を軽減させたい方には恩恵の多いサービスです。また、引き出し制限がかかるため、60歳までに引き出す必要が無く、老後資金をしっかりと貯めておきたい人に適したサービスといえます。
NISAに合う人
- 自分自身で決断して積極的にリスクをとり投資したい人
- 非課税期間を長く利用したい人
- 教育・住宅・余暇等ライフイベントに合わせて貯めたい人
- 掛け金に上限があるiDeCoだけでは十分な老後資金を用意できず併用を検討する人
NISAは運用益が非課税になる点がフォーカスされがちですが、生涯投資枠の大きさ、自らの意思決定でより広い投資商品の中から選べる点、またライフイベントに合わせて資金の出し入れが可能な柔軟性等の点が利用者にとって大きなメリットになります。特に管理コスト等手数料がかからず、無期限で投資枠を利用可能である点は他のサービスに比べて魅力度が高い点でしょう。
変額保険に合う人
- 運用をプロに任せたい人
- 長期での安定的な資産形成を望む人
- 税金控除を活用しながら老後資金の準備をしたい人
変額保険は運用を自身で行う必要はないので、商品選択に迷いがある方は利用を検討する価値があります。保険と投資信託の両機能を持つ商品性であるため、税金の控除を活用しながら、長期的な目線で老後資金を安定運用したい人には適したサービスです。運用実績は死亡・高度障害保険金には影響せず、最低保証があるため資産価値の下方リスクは限定的な点も安心材料になります。
iDeCo・NISA・変額保険は併用はできる?
iDeCo・NISA・変額保険は併用が可能です。特に各サービス間で併用可否に関する法的な規定は存在しません。サービス別で見ると、iDeCoは掛け金の水準次第では企業型確定拠出年金(DC)との併用が可能です。また、新NISAに関しては2024年から始まる制度では成長投資枠と積立投資枠の併用が可能となります。
これまで見てきた通り、各々のサービスには特徴があり、利用決定前に考慮しなければならない制約が数々あります。例えば、掛け金の上限、年間投資額の上限、生涯投資枠の上限、運用期間に応じて受けられる税制優遇の違い、運用可能期間の違い、換金性の違い、そして手数料の有無等、多岐にわたります。
しかし、別の角度から見れば、併用可能であるならば、”いいとこどり”が可能と言えます。将来の資産形成に向けて、運用に充当する金銭面で余裕がある場合は、複数のサービスを同時利用することで、自分の嗜好やライフスタイルに合わせ、短期・中期・長期での資産形成戦略を立てることが可能となります。
自分に合う資産の選び方のポイント
3つのサービスにおいて、投資後の資産価値の変動に伴う元本割れリスクがある点は共通しています。しかし、どのサービスを利用開始する場合でも、個人で金融機関のサービス内容や投資商品の手数料等等コストの違いを把握しなければなりません。
自分に適した資産運用方法を選ぶ際には、ご自身の現況把握と将来計画の明確化ののち、その希望と照らし合わせながら、下記のポイントをよくご検討されながら最適なサービスを選択されると良いでしょう。
資産運用方法を選ぶポイント
- 【投資額・掛け金に関する制限】…各サービスの投資上限枠が将来の資産形成の目標額を満たすか?
- 【運用期間】…一定期間だけ有期サービスを利用するか、無期限のサービスを長期で利用するか?
- 【運用商品選択にかかる自由度】…自分で投資商品を決めるか? 投資商品は幅広い選択肢があるほうが良いか?
- 【保険としての機能の有無】…万が一の場合に備えた保険金の受け取りを希望するか?
- 【現金化の自由度】…ライフイベントに応じて引き出せるようにしたいか、老後まで触らないで置いても大丈夫か?
- 【税制優遇】…運用益の非課税は共通、それ以外の税金負担軽減の恩恵を受けるためにはどのサービスが自分に最適か?
- 【手数料】…利用時にかかる固定的なコストはどの程度か、それは許容範囲の水準か?
まとめ
昨今では、経済状況や政策の変化等を背景に、貯蓄から投資への流れが加速しており、個人の資産形成をサポートする様々なサービスが提供されています。今回はiDeCo、NISA、変額年金に注目して解説しましたが、税制優遇や利用時の柔軟性等、各サービスのメリットおよびデメリットは異なる性質を持っているため、しっかりと理解したうえで、自分自身に適したスタイルを確立していく必要があります。各サービスを単独あるいは複数活用して、資産拡大および税金負担面をはじめとした幅広い恩恵を受けながら、ご自身の資産形成に役立てていただきたいです。