老後資金はいくら必要?iDeCo・NISA ・ 変額保険で貯めた場合をシミュレーション
近年「人生100年時代」といわれ、私たちは長寿を前提としたライフプランを立てる必要があります。老後の人生設計において生活資金を心配する方は少なくありません。本記事では、老後資金は「何が」「いくらくらい」必要かを理解して、iDeCo・積立NISA・変額保険を使った場合の資産運用シミュレーション例をご紹介します。
老後資金は実際にはいくら必要?公的年金で賄える?
従来、多くの日本人にとって、老後資金の原資は銀行の預貯金や金利収入、企業退職金、年金が中心でした。しかし、超低金利が常態化して金利収入は減少、退職金の金額は上がらず、年金制度維持に対する懸念があるなど、十分な財源を確保するためには自らが追加的に動き、補う必要があります。
人々は様々な老後生活に対する不安を持ちますが、年金や退職金等では不十分であるという不安は多くの人に共通する悩みです。

※公益財団法人 生命保険文化センター「令和元年度生活保障に関する調査(速報版)」をもとにコのほけん!編集部で作成(n=3388)
金融庁ホームページ金融審議会の報告書で公表された「2000万円問題」が話題になりました。報告では、収入が年金だけの65歳以上の夫と60歳以上の妻の夫婦のみという無職の世帯の平均的なケースを取り扱いました。
1ヵ月の実収入約21万円に対して、実支出は約26万円なので、年金だけでは毎月約5万円不足、つまり老後20年では約1,300万円、30年では約2,000万円の資金が不足する計算になります。
これにより、老後は公的年金だけでは生活費が足りず、年金とは別に、カバーする財源を自分で準備しなければならない、と言う認識が世の中で広まりました。

※総務省「家計調査報告(家計収支編)平成29年(2017年)平均速報結果の概要」をもとにコのほけん!編集部が作成


平均寿命が延びれば、当然必要なお金も増えます。厚生労働省「令和4年簡易生命表」によると、日本の平均寿命は男性が81.05歳、女性は87.09歳とされています。生活習慣の良化や技術の進歩を理由に平均寿命が延びる可能性はあると考えられます。やはり人生100年時代では、長くなる人生をより楽しく生きていくために、十分な資産の確保が必要となります。
実際に老後に必要な生活費の目安
老後資金は以下の計算式で求めることができます。
必要な老後資金 =(毎月の生活費 - 毎月の収入) × 老後の生活期間 + その他の支出
必要な老後資金の水準を理解するためには、上記4つの項目を理解する必要があります。以下では、まず支出、つまり毎月の生活費およびその他の支出の金額を理解するための方法を探っていきます。
必要な生活費の計算方法
一般的な生活に必要な費用の目安を知るために、総務省統計局の2022年「家計調査年報(家計収支編)」 を参考に費用項目を見てみましょう。
総支出=消費支出+非消費支出
消費支出=食料+住居+光熱・水道+家具・家事用品+被服及び履物+保健医療+交通・通信+教育+教養娯楽+その他の消費支出(諸雑費・交際費・仕送り金)
非消費支出=税金+社会保険料
当然、生活環境や生活スタイル、ライフイベントなど個人の状況によって各費用項目の大小は変わります。住居費は住んでいる地域や持ち家か賃貸かで異なります。また、健康状態によって医療費の支払金額も差が出ます。しかしながら、最低限の生活を送るうえでの支出項目としては網羅的で、上記項目を基に自分はいくら必要かをイメージすることができるでしょう。
また、定年退職後の支出内容の変化をイメージすることも重要です。それまでとは生活パターンや行動範囲、人間関係に大きな変化が現れるため、要・不要のすみわけを行う必要があるでしょう。
夫婦2人暮らしの場合
項目 | 65歳以上の夫婦のみの無職世帯 | 65歳以上の単身無職世帯 |
---|---|---|
食料 | 67,776円 | 37,485円 |
住居 | 15,578円 | 12,746円 |
光熱・水道 | 22,611円 | 14,704円 |
家具・家事用品 | 10,371円 | 5,956円 |
被服及び履物 | 5,003円 | 3,150円 |
保健医療 | 15,681円 | 8,128円 |
交通・通信 | 28,878円 | 14,625円 |
教育 | 3円 | 0円 |
教養娯楽 | 21,365円 | 14,473円 |
その他の消費支出(諸雑費、交際費、仕送金) | 49,430円 | 31,872円 |
消費支出合計 | 236,696円 | 143,139円 |
直接税 | 12,854円 | 6,660円 |
社会保険料 | 18,945円 | 5,625円 |
非消費支出合計 | 31,812円 | 12,356円 |
参照:家計調査報告〈家計収支編〉2022年〈令和4年〉平均結果の概要 p.19丨総務省統計局
総務省統計局の2022年「家計調査年報(家計収支編)」によると、「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の毎月かかる生活費の平均額は
月26万8,508円
でした。
内訳は、
消費支出額は23万6,696円、非消費支出額は3万1,812円
でした。
支出の中で一番割合が大きかったのは、食費で6万7,776円(28.6%)。次にその他(諸雑費・交際費・仕送り金)4万9,430円(20.9%)、交通・通信費の2万8,878円(12.2%)となっています。
また、生命保険文化センターが行った「生活保障に関する調査(令和元年度)」によると、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考える最低日常生活費は、
月額平均22.1万円
という調査結果が出ています。
単身者の場合
総務省統計局の2022年「家計調査年報(家計収支編)」によると、
「65歳以上の単身の無職世帯」の毎月かかる生活費の平均額は
月15万5,495円
でした。
内訳は、
消費支出額は14万3,139円、非消費支出額は1万2,356円
でした。
支出の中で一番割合が大きかったのは、食費で3万7,485円(26.2%)。次にその他(諸雑費・交際費・仕送り金)3万1,872円(22.3%)、光熱・水道の1万4,704円(10.3%)となっています。
生活費以外に老後に必要なものは?
リタイア後の人生で実現したい夢は人それぞれです。「人生の円熟期において、実現したいと思う夢」に関する調査結果によると、「旅行」「健康・長生き」「お金」が上位にきました。続いて「スポーツ・運動」「音楽」「教養」といったジャンルも人気でした。しかし、やはり旅行をはじめ、希望する余暇を過ごすうえでも出費がかさみます。

出典:「人生の円熟期“プレミアムエイジ”と理想のセカンドライフに関する意識調査」日本ロングライフ株式会社調べ
また、それぞれのライフステージや家族構成もしくはライフプランによって異なりますが、イレギュラーな特別支出が必要になるケースも考えられます。例えば、住宅の改修費や車の買い替え、子どもの結婚費用やお祝い、医療や介護費用などの支出は起こり得るでしょう。
最低生活を送るうえで必要な生活資金に加えて、こうしたイレギュラーな費用の発生が考えられるだけではなく、ゆとりある老後生活を送ることを望む場合には、更に必要資金は加算する必要が出てきます。
生命保険文化センター「2022(令和4)年度生活保障に関する調査」によると、
【ゆとりある老後生活を送るための費用】
最低日常生活費23万2,000円+ゆとりのための上乗せ額14万8,000円=月額約37万9,000円
老後資金はいつから貯めるのがいい?
最低生活を送るだけではなく、ゆとりある生活をおくることを目標にするならば、必要資金は膨大なものになると予想されます。
総務省統計局の2022年「家計調査年報(家計収支編)」によると、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の実収入は24万6,237円であるため、
ゆとりある生活をおくるためには、毎月約13万円、年間で156万円が不足することになります。老後30年と仮定すると、およそ4,680万円以上の資金が必要です。
それではいつから老後資金を貯めるべきでしょうか。結論は「今すぐ」です。
日常生活を送るなかで発生する一定の支出と並行して、将来を見据えた貯金や資産運用に資金をまわすことは簡単ではありませんが、できるだけ早いうちからコツコツと小額から行動に移し始めて、継続することが重要です。
ライフステージが上がるにつれて支出額は逓増する傾向があるといえます。家族が増えれば食料費や光熱・水道費は増加します。ライフイベントが起きれば臨時の支出も増えます。歳を重ねると保健医療の支出が重なります。また、経済環境の悪化や働き方の多様化など、外部環境の変化が影響して、雇用および収入が不安定になる可能性もゼロではありません。収入がある今から少しずつ行動に移して継続していくことが賢明です。
老後資金を効率よく貯める方法はある?
公的年金や退職金といった収入以外に、今から老後資金を貯める方法として様々な方法があります。
大きく分けると、
【老後資金を貯める方法】と【老後資金を増やす手法】
です。
前者は預貯金や定期預金などが該当する静的なアプローチです。
後者は反対に動的なアプローチで、資産運用で効率よく増やすことを目指します。お金を資産に投資して「お金に働いてもらう」ことで、時間をかけて複利効果を享受する狙いがあります。
この老後資金を増やす資産運用の手法は複数存在しますが、今回は、iDeCo、つみたてNISA、変額保険に焦点を当てます。
iDeCo
iDeCo(イデコ)は個人型の確定拠出年金という私的年金であり、公的年金に上乗せすることができます。月々5,000円から自分自身で掛金を積み立てて、原則60歳以降に元本と運用益を受け取ることができる制度です。自己判断で定期預金や投資信託等の投資商品を選定して資産運用まで行います。
メリットは、掛金全額が所得控除の対象となること、運用益が非課税で、受け取り時は退職所得控除・公的年金等控除の対象になることです。
積立NISA
積立NISAは、個人の長期・積立・分散投資を支援するために設けられた非課税制度です。自ら口座開設して、投資信託や株・ETF等へ投資します。解約して資金化が可能であるため自由度の高い運用が可能です。
掛金の所得控除などの税制優遇メリットはありませんが、運用益が非課税になります。2024年から新NISA制度になり、生涯投資額上限の引き上げ、運用益の非課税の恒久化、成長投資枠と積立枠の併用可能など、より使いやすくなる見込みです。
変額保険
変額保険は生命保険と資産運用を兼ねた商品です。被保険者が死亡・高度障害状態となった場合には保険金が支払われますが、保険契約者が支払う払い込み保険料を、保険会社が被保険者に代わって株式、債券、投資信託等を対象として特別勘定で運用します。
定期保険と違い、変額保険は、運用成果に応じて、満期保険金や解約返戻金が変動する保険商品になります。元本割れするリスクもあるものの、運用成果次第では資産を増やすことが可能です。
iDeCo、NISA、変額保険の特徴やメリット・デメリット等について解説したコラムがありますので詳細についてはこちら「iDeCo vs NISA vs 変額保険 どれがいいか徹底比較 ~我が家に合う資産形成の選び方~」をご覧ください。
iDeCo・NISA・変額保険で老後資金をシミュレーション
iDeCoで貯めた場合
iDeCoを利用する場合、運用益の非課税と所得控除のメリットを享受できます。
効果①非課税の運用益
運用後の資産合計は、掛金、運用期間、および年率リターンによって変化します。ここでは年率リターンを4%と仮定して、掛金と運用期間に応じて資産合計額がどの程度になるかを一覧表で確認しましょう。
なお、本シミュレーションはどの掛金でもコンスタントに運用益が複利で増える前提で計算しています。しかし、年率リターンが期待を下回り運用益がマイナスになる場合には複利効果が得られないこともあります。

※金融庁「資産運用シミュレーション」を基に筆者作成
効果②所得控除
iDeCoの掛金は全額が所得控除になります。所得にかかる税金を計算する際に、年間掛金合計額に税率を掛けた額を差し引いて計算します。つまり、所得税や住民税にかかる課税所得を少なくして節税効果を得られるため、実質的に老後資金を貯めるうえでプラス効果がはたらくことになります。
掛金と所得税率によって節税効果は異なります。たとえば、月5000円の掛金で年間6万円を拠出する場合、所得税率10%の人は、所得税が6000円(年間拠出額6万円×所得税率10%)減り、住民税(原則10%)も6000円(年間拠出額6万円×住民税率10%)安くなります。
なお、iDeCoは一定の手数料がかかります。手数料の水準は利用する金融機関によって異なりますので事前に確認しましょう。手数料等のコストを加味したうえで、運用益の非課税効果や節税効果をどの程度享受できるかをイメージしておきましょう。
積立NISAで貯めた場合
積立NISAのメリットは運用益が非課税になることで、非課税期間を最大限利用することで、効率よくお金を増やす効果が期待される制度です。また、投資する投資信託の信託報酬等の手数料はかかりますが、口座開設や管理にかかる手数料負担は無く、資産運用に係るコストが小さいことも特徴です。
旧来の積立NISAは、年間投資額上限は40万円、非課税保有期間が20年間で最大投資額は800万円でした。2024年以降の新NISAでは積立投資枠と名称が変更されるだけでなく、年間投資額上限は120万円、生涯投資上限額は1800万円(成長投資枠を併用しない場合)と大幅に拡大します。また、非課税保有期間は無期限に、投資可能期間は恒久化されるなど、より多くの非課税メリットの恩恵を受けることができる長期積立分散投資の制度となります。

※金融庁「資産運用シミュレーション」 を基に筆者作成
基本的な運用益の算出方法は既出のiDeCoと同様ですが、生涯投資額上限の額に達するタイミングに留意をする必要があります。仮に掛金が月額10万円とすると年額上限の120万円の枠を使い切ることができますが、生涯投資上限額1800万円に15年後に到達することになり、それ以上は積み立てることができません。
また、新NISAで成長投資枠を併用する場合には積立投資枠の上限額が変動する点も留意しましょう。成長投資枠の年間投資上限は240万円で、生涯投資額上限は1200万円です。仮に成長投資枠をフルで使うと仮定した場合、積立投資枠として充当できる投資額は600万円になります。上記のケースでは、月額10万円で積み立てると5年で積立枠が埋まります。
変額保険で貯めた場合
変額保険には、「基本保険金」と「満期保険金/解約返戻金」という2種類の保険金があり、運用実績によって受取額が変わるのは「満期保険金/解約返戻金」です。死亡または高度障害で支払われる保険金である「基本保険金」は運用結果の影響を受けません。
変額保険(有期型)に加入した場合の保険金をシミュレーションで確認しましょう。たとえば、契約年齢30歳の方が月払保険料20,000円の「30年間の変額保険」に加入した場合、運用実績によって「満期保険金/ 解約返戻金」が下記表のように変化します。
仮に30年後の満期まで加入した場合、払込保険料の累計は720万円(月2万円×12カ月×30年間)ですが、満期保険金は運用実績に応じて変化します。下記表では、運用実績を払込保険料の累計に対する差額で示しています。今回のケースでは、運用実績が-3%の場合は-332万円、一方で+3%の場合は+237万円となります。

このように、同じ変額保険でも、運用実績がマイナスになるかプラスになるかで受け取れる保険金が大きく変わります。変額保険は保険会社が用意した方針の異なる運用メニューを選ぶだけの容易さが特徴ですが、安定した運用パフォーマンスが期待される運用商品の選定も重要な判断ポイントになります。
まとめ
「人生100年時代」と言われ、長期化する老後生活を送るための資金を、公的年金や退職金だけで賄うことに不安を抱く方は多いです。老後資金を貯める行動は今すぐに準備することが賢明です。それぞれのライフスタイルによって異なりますが、まずは、老後の生活費やその他支出がどの程度かかるのか、そしてどれだけの追加資金が必要かを認識することから始まります。そしてiDeCo、積立NISA、 変額年金など、老後資金を増やす資産運用の手法を活用しながら老後資金作りにコツコツと取り組んでいきましょう。