がんを遺伝子から分析!がんゲノム医療とは?メリットやデメリットについても解説
がんの治療法は飛躍的に進歩を遂げています。最先端技術を駆使した研究により、治療の可能性は広がり続けています。
なかでもここ数年にわたり注目を集めているのが、がんゲノム医療です。この記事では、がんの治療に有効といわれている、がんゲノム医療について解説します。
がんゲノム医療とは?
人間が持つ細胞はおよそ37兆個といわれ、個々の細胞には染色体があり、その中には遺伝子を含む様々な遺伝情報があります。
ゲノムとは、染色体内の遺伝子を含むすべての遺伝情報のことをさします。
ゲノム医療では、この遺伝情報を調べることによって、遺伝子に起きている変異を明らかにし、ひとりひとりの体質や症状にあわせた治療を行います。がんゲノム医療では、この方法をがん治療に応用しています。
がんとゲノム(遺伝情報)の関係とは
そもそも、がんとは、ゲノム(遺伝情報)に生じた異変であり、遺伝子が正常に機能しなくなった結果、発症する病気です。
今まで、がんは臓器ごとに分類され、治療も臓器別に行われてきましたが、近年、がん患者の遺伝子検査データが集まるにつれ、臓器が同じ変異を起こすとは限らないことがわかってきました。
たとえば、乳がん患者のゲノム情報を分析すると、同じ乳がんでも、遺伝子上で起きている変異はまったく異なる、ということも判明しています。
がんゲノム医療により、遺伝子の変異にあわせ、ひとりひとりにあったより効果的な治療を実践することが可能になりました。
がんゲノム医療における遺伝子パネル検査とは?
がんゲノム医療では、がん患者の遺伝子を「遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)」によって検査し、その結果をもとに適切な薬物療法を行います。
遺伝子パネル検査では、患者の身体からがん細胞を取り出し、状態をチェックしたうえで、次世代シークエンサーという解析装置を使い、がんに関わる数十から数百の遺伝子を解析します。そして、その結果をもとに、最も効果的な治療薬を投与していきます。
なお、遺伝子パネル検査は、国が指定したがんゲノム医療中核拠点病院等にて、保険診療で受けることが可能です。
関連記事:がん保険|がん遺伝子パネル検査について
遺伝子パネル検査を受けるための条件
がん遺伝子パネル検査を保険診療で受けるには、固形がん(血液のがん以外のがん)に罹患し、治療段階が以下に当てはまっている必要があります。
- がんの標準治療がない
- がんの局所進行または転移があり、標準治療が終了した
なお、がんの標準治療とは、外科手術・放射線治療・抗がん剤治療の3つをさし、科学的な根拠がありかつ現時点で最良の治療であるとされる、最も一般的な治療法です。
関連記事:がんの治療法を知りたい!それぞれのメリット・デメリットや民間保険での備え方も解説
遺伝子パネル検査にかかる費用は?
遺伝子パネル検査は、現在一部が公的医療保険の適用となっています。
実際に検査にかかる費用は、国立がん研究センター中央病院では保険診療にかかる検査のみの費用は56万円と紹介されています。
よって、患者の負担が3割なら16万8,000円が実際にかかる費用となります。ただし、検体の準備など費用が追加でかかる可能性もあります。
なお、自由診療となる遺伝子パネル検査の費用は、40~100万円弱と設定されているところが多いようです。
また、患者の全身状態及び臓器機能などから、遺伝子パネル検査の後に化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した場合にも、保険適用となります。
がんゲノム医療を実施する病院一覧
がんゲノム医療中核拠点病院等とは、がんゲノム医療の拠点となる医療機関のことをさし、令和6年3月1日より以下の数が指定されます。
病院の種類 | 特徴 | 数 |
---|---|---|
がんゲノム医療中核拠点病院 | がんゲノム医療の研究開発を行い、医療の中核を担う。 | 13 施設 |
がんゲノム医療拠点病院 | 中核拠点病院と連携し、がんゲノム医療の実施が可能。 | 32 施設 |
がんゲノム医療連携病院 | 中核拠点病院や拠点病院と連携し、がんゲノム医療の実施が可能。 | 219 施設 |
がんゲノム医療のメリットとデメリット
がんゲノム医療は、がん治療のあり方を大きく変える医療であり、患者にとってメリットや恩恵も数多くありますが、一方で知っておきたいデメリットもあります。
がんゲノム医療のメリット
がんゲノム医療のメリットは、検査を遺伝子レベルまで掘り下げたうえで、ひとりひとりの症状や状態にあわせたオーダーメイドのがん治療を受けられること、といえます。
例えば、抗がん剤治療において、薬が合わず症状が改善しなかったがん患者が、がんゲノム医療を受け、症状にあった薬を見つけることができ、その後がんが小さくなり症状も緩和された、という実績もあります。
がんゲノム医療のデメリット
一方で、がんゲノム医療のデメリットは、治療を受けられる患者が限定されることと、結局最適な治療法がわからない可能性があることのふたつといえます。
遺伝子パネル検査ががん治療に活用できる確率
がん遺伝子パネル検査を受けて、治療に役立つと思われる遺伝子の異常が発見されるのは、検査を受けた人全体の約半数程度といわれています。
さらに、その結果をもとに、治療に有効な治療法や治療薬が見つかる人は、およそ3分の1まで減るといわれています。
また、治療に有効な薬が見つかったとしても、国内未承認で保険適用外の薬であったために、それ以上の治療を断念するケースもあり、実際に治療までこぎつけられる人はわずか10~20%程度にとどまっています。
がんゲノム医療を受けられる患者は限られる
現在、がんゲノム医療を受けられるのは、標準治療がないがんに罹患した患者や、標準治療が終わりほかに治療法がない患者に限られています。
すなわち、がんの初期や標準治療中の患者ではなく、そもそも標準治療での治療が困難という、特殊な条件の患者に限られます。がんゲノム医療は、がん治療の最後の手段といっても過言ではありません。
がんゲノム医療が抱える問題
がんゲノム医療で用いるゲノム情報は、個人の遺伝にかかわるすべての情報を含むため、他人には知られたくない遺伝的特徴など、非常にデリケートな情報も含まれています。
実際に、遺伝子検査で判明した病気のリスクなどを理由に、保険会社から保険加入を断られたり、結婚・就職において不当な扱いを受けたという事例はすでに海外や日本でもあります。
2023年6月に参院本会議で成立した「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律(通称:ゲノム医療法)」は、医療現場におけるゲノム医療のさらなる活用を推進するうえで、遺伝情報の適切な管理や、遺伝情報による不当な差別や扱いの防止を目的としています。
ゲノム医療はがん治療の選択肢を広げる一方で、遺伝情報の取り扱いには細心の注意が必要であり、今後の課題は多いともいえます。
がんゲノム医療は民間の保険で保障される?
現在、がんゲノム医療や遺伝子パネル検査に対し、直接給付金が受け取れる商品はありません。
しかし、遺伝子パネル検査の費用は、がん診断給付金(一時金)でまかなうことが可能です。がん診断給付金は、がんと診断された際に受け取れる給付金で、用途が限定されていないため、治療費や生活費など自由に使うことができます。
よって、がん保険の加入を考える場合は、がん診断給付金についても検討するとよいでしょう。
まとめ
がんゲノム医療は、以前よりもさらに注目を集めている治療法です。遺伝情報の取り扱いには社会全体で取り組まねばならない課題があるものの、有効ながん治療として、国を挙げたさらなる推進が予想されます。
がん保険を検討する際は、がんゲノム医療のような、最新の医療を受けることもイメージしてみるとよいでしょう。