Sasuke Financial Lab株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役:松井清隆、以下「当社」)は、White Paper「生命保険が直面する多様な問題とInsurTech ーポスト・コロナ期の生保経営戦略の行方ー[2024年3月改訂版]」を公開したことをお知らせいたします。
▍生命保険が直面する多様な問題とInsurTech ーポスト・コロナ期の生保経営戦略の行方ー[2024年3月改訂版]
▍執筆者:Sasuke Financial Lab株式会社 取締役 宮脇 信介(みやわき のぶすけ)
2017 年から Sasuke Financial Lab 株式会社の取締役を務める。東京大学経済学部を卒業後、日本興業銀行等で金融市場分析や株式・債券の運用業務に従事。米国カリフォルニア大学バークレー校で MBA を取得後、ブラックロック等外資系運用会社に勤務し、債券運用ならびに債券投資プロダクト開発等を行う。尚、2014 年に日本フェンシング協会常務理事に就任、2017 年より専務理事を務める。協会運営の透明化・ガバナンス強化、企業と連携した副業兼業プロジェクトによる外部人材の活用など、様々な経営課題の解決に取り組む。
<主な資格>
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)
日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)
≪引用・転載時のクレジット表記のお願い≫
本ホワイトペーパーやリリースの引用・転載時には、必ず当社クレジット「Sasuke Financial Lab株式会社(https://konohoken.com/news/white-paper-006-20240319/)」を明記いただけますようお願い申し上げます。
▍White Paper「まとめ」より抜粋
- 生保経営に大きなインパクトを与えた 2020 年春から 3 年間におよび続いたコロナ禍が、実質上終息した。短期的には、特に財務面において、2022 年度(2023 年 3 月期)まで保険ビジネスの収益性を大きく毀損する一方、中長期的には、生保経営面から、1販路の多様化・拡大、2デジタル技術を用いた営業の効率性強化、に対する強い動機付けを与えたと考えられる。オンライン保険販売強化の動きも、この二つの戦略の融合による帰結のひとつとして認識されているとみる。
- このほど公表された 2023 年の家計調査では、2010 年代半ばから 2022 年までと同様に、生命保険全般に伸び悩む傾向が続いている。この背景には、コロナ禍の影響だけではなく複合的な要因があると考えられる。
- コロナ禍中において営業職員がタブレット端末を携行することが一般化した。実質的に「ポスト・コロナ」期に移行し、「デジタル技術を用いた営業の効率性強化」が強く求められる現状において、その推進力となるとともに、本来的な意味での DX(デジタル技術を用いたビジネスの改革)を押し進めるための基盤となる可能性がある。
- インターネット・リテラシーの制約もあり、当面はインターネット販売の強化だけでは即効性のある特効薬とはならない公算だが、「InsurTech = 保険 × テクノロジー」の本来の多様な原義に立ち戻れば、インターネットを通じた保険販売は InsurTechの一つの限定的な例でしかなく、InsurTech は様々な解を生み出す可能性を有している。
▍White Paper 本文より抜粋
(1)コロナ禍は財務面で大きなインパクトを残した
2020 年から世界的に広がったコロナ禍は、対面営業を阻害するとともに、保険金の支払いが増大することで生命保険ビジネスの収益性を大きく毀損する影響を与えた。2020年3 月以降の保険料払込猶予期間の延長や新規契約者貸付に対する利息減免といった対応に加え、特に、2020 年 4 月以降行われていた宿泊施設や在宅での治療についても入院と同等に取り扱ういわゆる「みなし給付金」の支払いが膨らんだ。(後略)
(2)「ポスト・コロナ」期の生保経営戦略:販路の多様化・拡大、デジタル技術を用いた営業の効率性向上を目指す中、オンライン保険販売は販路多様化・拡大戦略のひとつ
(前略)コロナ禍発生当初には、対面営業が大きく制限される一方、インターネット生保の好調が喧伝され、肝を冷やした営業部門も多くあるであろう。しかしながら、2022 年度にかけてはインターネット生保の契約の伸びが一服するなか、生保業界全体としては、契約獲得は回復基調を保ち明暗を分ける形となり、伝統的な対面型営業スタイルを維持する生保各社を勇気づけたと言えよう。(後略)
(3)2010 年代半ば以降、可処分所得に対し伸び悩む生保契約
インターネットを通じた販路拡大だけ行うだけでは生保にとって即効性を持つ特効薬とならない、より大きな課題が幾つかあるとみている。
ここ数年、生保契約全体が伸び悩んでいるマクロ的な状況である。冷静に見てみると、生保の新規契約の不振はより長期的・構造的な問題であると考えられ、2020 年から深刻化したコロナ禍のせいだけには出来ない。(後略)
(4)「贅沢品」としての生命保険に「構造的変化」も
統計的にみると、生命保険には「贅沢品」としての性格がある。生命保険契約は(厳密には消費ではないが)可処分所得が大きい家計ほど、可処分所得に対してより大きな「比率」でお金を支払っている傾向がみられ、可処分所得に対する弾性値が1より大きいことを示している。(後略)
(5)もうひとつの有力な仮説:公的な社会保険料の「クラウディングアウト」
ここでもうひとつの可能性について考えてみたい。
それは、近年増加傾向にある国など公的な「社会保険料」の支払いである。この項目には、「公的年金保険料」、「健康保険料」、さらに 2000 年代に入り導入された「介護保険」などの負担が入る。このような家計負担は、2000 年代央をボトムとして、特に 2010年代半ばから明確な増加傾向にあり、生命保険や個人保険等の民業(含む簡易保険)を圧迫しているとの見方である。(後略)
(6)InsurTech は生命保険の切り札となるのかという問いのヒントとして
これまでの議論で見えてきたのは、コロナ禍による影響は短期的なものであり、むしろ増加した収入が「非経常的」というここ数年間の影響や、さらに公的「社会保険料」支払い増の影響もうけた「保険離れ」という長期的、構造的な経営課題である。
これに対して、インターネットを通じた保険販売は、一定の効果は見込まれるものの、インターネットを経由した情報収集や保険加入が限定的な状況もあり、これら全ての問題に対する決定的な特効薬として不十分なものとならざるを得ないであろう。(後略)