遺族年金とは?いくらもらえる?遺族年金計算方法や受給条件について解説
人生100年時代と言われ、超高齢化社会となっていますが、生まれたからには必ずいつかは亡くなります。天寿を全うして亡くなる人もいますが、不慮の事故や病気により道半ばで命を落とす人も。日本国内の令和5年の死亡者数は約159万人。全人口の約78人に1人、約20秒に1人が亡くなっており、死は決して他人ごとではありません。
いつ訪れるかわからない万一の時に備え、経済的な助けとなる遺族年金を詳しく解説します。
遺族年金とは?
遺族年金とは、国民年金や厚生年金の被保険者や被保険者であった人が亡くなった時に、その人によって生計を維持していた遺族の生活を維持するため、遺族の所得を保障する年金です。
主な受給者は配偶者や子供ですが、遺族の家族構成などにより変わります。また、死亡した人が加入していた年金制度、保険料や加入期間、遺族との関係などによっても支給額が変動します。
遺族年金の種類
遺族年金は死亡した人が加入していた年金の種類により変わります。種類は以下の2種類になります。
- 遺族基礎年金:自営業者などが国民年金に加入した場合、要件を満たせば遺族基礎年金が支給されます。
- 遺族厚生年金:会社員・公務員などが厚生年金に加入した場合、要件を満たせば遺族厚生年金が支給されます。(さらに遺族基礎年金の要件も満たしていれば、両方の年金が支給されます。)
2つの遺族年金の違いを説明します。
遺族基礎年金
日本国内に住んでいる20歳から60歳の人は国民年金に加入することが義務付けられています。学生であっても20歳を迎えると加入手続きが必要です。会社員や公務員になり、厚生年金に加入することになっても、実質国民年金保険料を払うことはなくなりますが、国民年金に加入していることに変わりはなく、働き方が変わっても、基礎年金部分は受け取れることになります。
ただし、遺族基礎年金には以下のような保険料納付要件があります。
- 死亡した人の保険料を納めた期間と保険料を免除された期間の合計が、加入期間の2/3以上であることが必要
- 学生で就労収入がない期間や、病気などで働けず収入が極端に減り、国民年金保険料を支払えない場合は、免除申請をすることで、要件を満たすことができる。
遺族基礎年金は万一の時の備えです。申請を怠ることのないようにしましょう。遺族基礎年金は収入などに関わらず、定額で払われますが、子のある配偶者または子への支給となります。子どもを養育していく一定期間、遺族の生計維持を助けるための年金と言えます。
遺族厚生年金
遺族厚生年金は会社員や公務員など、厚生年金保険に加入している人が死亡した際に、遺族が受け取れる年金です。
遺族基礎年金に比べ受取れる対象が広く、優先順位により配偶者や子だけではなく、生計を維持されている孫や祖父母まで対象となります。
また、死亡した人の年収、厚生年金の加入期間などによって遺族厚生年金額が変わりますので、定額で受け取れる遺族基礎年金とは違い、生前の収入状況に比較的沿った年金が受け取れ、遺族の暮らしを支える役目を持っています。
遺族厚生年金の保険料納付要件は、遺族基礎年金と同様です。厚生年金保険料は基本的に給与から差し引かれる場合が多いので、国民年金保険料に比べ、この要件を満たさない場合は少ないでしょう。ただし、保険料納付済期間と保険料免除期間などを合わせた受給資格期間が10年以上、という老齢基礎年金の受給要件を満たしている必要がありますので注意が必要です。
遺族の生計を維持するという役目から、
- 同居していること
- 別居はしているが仕送りをしている、または健康保険の扶養親族である
- 受け取る人の前年の収入が850万円未満であること
などの条件は必要です。
他にも、残された妻には遺族基礎年金が終了した後の生計を維持するための一助として、本人の老齢基礎年金受給が始まるまでの一定期間ではありますが、中高齢寡婦加算という制度もあり、生計を維持する一助となっています。
遺族年金の受給条件
遺族基礎年金の受給条件
遺族基礎年金を受給するには、死亡した人が次の要件を満たしている必要があります。
- 国民年金の被保険者である間に死亡した
- 国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の人で、日本国内に住所を持っていた人が死亡した
- 老齢基礎年金の受給権者であった人が死亡した
- 老齢基礎年金の受給資格を満たした人が死亡した
以上の人が死亡し、死亡した人に生計を維持されていた子のある配偶者、または子が受給対象者です。その子どもが誕生日を迎え18歳になった後、次に迎える3月末日まで支給されます。また、子どもには、20歳未満で1級2級の障害状態にある子どもも含まれます。
厚生年金に加入している会社員や公務員は、国民年金保険料を直接支払ってはいませんが、厚生年金保険が適用されている事業所に勤めることで、自動的に国民年金にも加入することになります。厚生年金保険が国民年金の費用を負担していますので、国民年金の保険料を直接納める必要はありません。従って、厚生年金に加入している人が死亡した場合、遺族基礎年金の受給条件にあてはまれば、遺族は遺族厚生年金と合わせて、遺族基礎年金も受給できます。
遺族厚生年金の受給条件
遺族厚生年金を受給するには、死亡した人が次の要件を満たしている必要があります。
- 厚生年金保険の被保険者である間に死亡した時
- 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡した時
- 1級・2級の障害厚生年金を受給している人が死亡した時
- 老齢厚生年金の受給権者であった人が死亡した時
- 老齢厚生年金の受給資格を満たした人が死亡した時
以上の人が死亡し、死亡した人に生計を維持されていた遺族の内、下記の順位で、最も優先順位の高い人が受給することになります。
- 子のある配偶者
- 子(18歳の誕生日を迎えた次の3月末日までの人、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人)
- 子のない配偶者(子のない30歳未満の妻は5年間のみ受給、また子のない夫は、55歳以上である人に限り、受給開始は60歳から)
- 父母(3.子のない夫と同様の条件あり)
- 孫(2.子の条件と同様の条件あり)
- 祖父母(3.子のない夫と同様の条件あり)
1の子のある配偶者の優先順位が1番高く、該当がなければ順に下がっていく仕組みです。
遺族年金がいくらもらえるかの計算方法
遺族基礎年金の年金額(令和6年4月分からの年金額)
遺族基礎年金は年収などによって年金額は変わらず定額です。ただし子どもの人数によって金額が加算されます。
子のある配偶者が受け取る時は、
- 816,000円(基本の定額) ※昭和31年4月1日以前生まれは813,700円
- 子の加算額(子ども2人目まで1人につき234,800円 3人目以降1人につき78,300円)
子のある配偶者がおらず子のみが受け取る場合は、子ども二人目からが加算対象となり、合計額を子の数で割り子どもそれぞれに受給する方法です。
遺族厚生年金の年金額
遺族厚生年金は死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4の額です。
報酬比例部分とは年金額の計算の基礎となるもので、年金の加入期間や過去の報酬等に応じて決まります。
報酬比例部分=A+B
A=平成15年3月以前の加入期間
平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの加入期間の月数
B=平成15年4月以降の加入期間
平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以降の加入期間の月数
遺族厚生年金の額は、老齢厚生年金の額が基本となるので、厚生年金の加入期間が短い場合、この計算式では年金額が少なくなってしまいます。
遺族年金は生計を維持されていた遺族の生活を維持するための年金ですが、10年程度の加入期間では、わずかな年金額となり、生計の維持に支障をきたす恐れがあります。
そのことから、厚生年金の被保険者期間が300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算する短期要件があります。
また、遺族厚生年金の加算制度のひとつとして、中高齢寡婦加算という制度もあります。
- 夫が亡くなった時に、40歳以上65歳未満で生計を同じくする子がいない
- 遺族年金を受けていた妻が、子が18歳に到達した年度末を迎え、遺族年金を受給できなくなった
いずれかの要件を満たせば、40歳から65歳の間612,000円(遺族基礎年金の3/4)を加算するというものです。この加算の背景として、遺族基礎年金がもらえず、残された妻の生活維持が困難になる可能性がある事への配慮になります。
遺族年金のケースごとのシミュレーション
いくつかのケースで遺族年金額の計算をしてみます。
ケース1 子どもがいる夫婦で夫が死亡した場合(厚生年金加入)
家族のプロフィール
- 夫40歳 厚生年金加入(加入月数201月) 平均年収360万
- 妻36歳
- 子 8歳、5歳
遺族年金受取の流れ
遺族年金を請求する方の手続き|日本年金機構を参考に筆者が図を作成
夫40歳で亡くなったケースです。厚生年金の加入期間は201ヵ月と300月に到達していませんので、短期要件で300ヵ月とみなして遺族厚生年金額を計算しています。34.7万円の遺族厚生年金を妻は一生涯受け取れることになります。
またこのケースの場合2番目のお子さんが18歳に達した年度末の後も、65歳になるまで中高齢寡婦加算の支給があるので、生活の助けになるでしょう。
ケース2 子どもがいる夫婦で夫が死亡した場合(国民年金加入)
家族のプロフィール
- 夫40歳 国民年金加入
- 妻36歳
- 子 8歳、5歳
遺族年金受取の流れ
遺族年金を請求する方の手続き|日本年金機構を参考に筆者が図を作成
ケース1と同じ家族構成ですが、夫婦で自営業を営み、国民年金のみ加入している場合の例です。遺族厚生年金部分がないので、妻は一生涯受け取ることができる年金はありません。また、中高齢寡婦加算は厚生年金の加算項目なので、このケースでは、2番目のお子さんが18歳に達した年度末で遺族年金は終了となります。
ケース3 子どもがいない夫婦で夫が死亡した場合(厚生年金加入)
家族のプロフィール
- 夫40歳 厚生年金加入(加入月数201月) 平均年収360万
- 妻29歳
遺族年金受取の流れ
遺族年金を請求する方の手続き|日本年金機構を参考に筆者が図を作成
子どもがいない場合で夫が亡くなった時妻が30歳未満のケースです。この場合、妻は遺族厚生年金を終身受け取ることができず、5年間のみ受け取ることになります。子どもがおらず、若年の妻の場合、今後の就労で生活が維持できると見込まれるため、この仕組みになっているようです。
遺族年金だけでは不安な場合は民間保険で備える
厚生年金加入者の場合、若いうちに夫が亡くなったとしても、短期要件があるため、一定の遺族年金を受け取ることができます。ただし、子どもが18歳を迎えた年度末に1人ずつ加算が減っていくとすると、養育費として一番お金のかかる、大学・専門学校・就職などの時期に遺族年金が少なくなってしまいます。少なくとも最後のお子さんが独立し収入を得る事が可能な頃まで、夫が亡くなった収入減に備える民間保険に加入しておく必要はあるでしょう。
毎年誕生月に日本年金機構から送られる「ねんきん定期便」を参考にすると、現在時点での情報ではありますが、万一の時に受け取れる遺族年金額を計算することができます。現在の就労収入と比べて、不足する金額を民間保険で備えると安心です。
定期死亡保険で備える
お子さんが独立するまでの一定期間、不足金額を定額で保障します。
不測の事態はどの時点で起こるかわかりません。いつでも契約の保険金を支払う定期保険は安心感があります。一生涯死亡保険金を保障する終身保険に比べると、定期保険の保険料は割安ですので小さな負担で大きな保障を準備できます。
関連記事:定期保険の必要性とは?定期保険の種類や保険料の相場、加入のメリット・デメリットを解説
定期収入保障保険で備える
毎月の不足分を、給料と同じように受け取れる収入保障保険で備えるのもひとつの方法です。遺族年金で不足する部分を保障金額とすることで、万一の際、遺族年金に不足分がプラスされ、今までと変わらない生活ができるという仕組みです。受け取り始める時期が遅くなると、受け取る金額の総額が減少しますが、その分保険料が割安になります。遺族年金の上乗せという考え方に大変マッチした保険ですが、大学進学のような金銭的負担が大きい時期に不測の事態が起きると、資金が不足してしまう恐れがあるところが注意点です。
関連記事:収入保障保険の仕組みと特徴、メリット・デメリット、受け取った場合の税金や活用方法まで徹底解説!
保険料比較
死亡を保障する各種保険の比較をしてみました。毎月5万円不足する計算で、お子さん2人が独立するまでを想定し、30歳男性が30年間保険に加入する試算です。
1.定期死亡保険
- 保険金額:1,800万円(不足5万円×12ヵ月×30年)
- 加入時期:30歳加入
- 保険料支払い:60歳まで
- 保険料:4,300円/月
筆者による定期死亡保険金額のイメージ図
2.定期収入保障保険
- 保険金額:月5万円
- 加入時期:30歳加入
- 保険料支払い:60歳まで
- 保険料:1,800円/月
筆者による定期収入保障保険金額のイメージ図
(参考)終身死亡保険
- 保険金額:1,800万円
- 保険料支払い:終身払終身保障
- 保険料:21,000円/月
筆者による終身死亡保険金額のイメージ図
関連記事:終身保険の必要性についてファイナンシャルプランナーが解説!
まとめ
遺族年金は制度が複雑です。万一の時に受給できない事態にならないよう、ある程度の知識を持っていることは大事です。
目安を示す計算ツールや早見表など、情報はあふれていますが、具体的に自分の遺族年金について知りたい場合は、地域の年金事務所でたずねることが1番確実です。民間の保険などに加入する場合は確認してみてもいいでしょう。
また、遺族年金は申請しなければ受給できません。支給事由が生じた日から5年が過ぎると時効となってしまいます。請求漏れのないよう有効に活用しましょう。