団信とは?団体信用生命保険の仕組みや加入する際の注意点をわかりやすく解説
団体信用生命保険は、住宅ローンを組んで家を購入する際に多くの人が利用する保険ですが、加入条件や保障内容が通常の生命保険とは異なるため、あらかじめよく理解しておく必要があります。
この記事では、団体信用生命保険の基本的な仕組みや加入する際の注意点について解説していきます。
「団体信用生命保険」とは?
団体信用生命保険とは、住宅ローンの借り主が亡くなった場合に、ローンの残債が0円になる保険のことです。省略して、「団信(だんしん)」と表現されることがあります。
住宅ローンは、20年や30年など長年にわたって返済していくものですが、もし、途中でローンの借主が死亡し、残された家族に住宅ローンを返済できるだけの経済力がないと、せっかく手に入れたマイホームを手放さなければなりません。
そのような場合に、住宅ローンの借主が団体信用生命保険に加入していると、借主が途中で死亡したり高度障害を負った場合に住宅ローンの残債がなくなり、残された家族はローンを返済する必要がなくなります。
団体信用生命保険のしくみ
団体信用生命保険は、住宅ローンの借主が保険会社と契約を結びます。そして、借主が死亡もしくは高度障害を負うなど、万一のことがあった場合、保険会社から金融機関に保険金が直接支払われます。
また、団体信用生命保険の保険料は、基本的に住宅ローンの金利に上乗せされる形で支払いますが、保険料を金融機関が契約者の代わりに負担することもあります。
団体信用生命保険の加入方法
団体信用生命保険は、住宅ローンを組む際に加入を必須としている金融機関が大多数です。
住宅金融支援機構が取り扱っている「フラット35」は団信付きの住宅ローンですが、健康上の理由その他の事情で団信に加入しない、もしくは加入できない場合も利用できます。
団体信用生命保険が保障する範囲
団体信用生命保険の保障範囲は、基本的には死亡と高度障害のみとなります。高度障害と認定されるには、「両眼の視力を全く永久に失った状態」や「中枢神経系または精神に著しい障害を残し、終身常に介護を要する状態」など、かなり重い障害状態である必要があります。
そのため通常の団信では、がんや心筋梗塞などの重い病気になった場合は、住宅ローンの残債がゼロになりませんが、特約を付加することで保障範囲を拡大することができます。
以下が代表的な特約とその保障範囲ですが、金融機関や契約先の保険会社によって大きく異なるため注意しましょう。
特約名 | 保障範囲 |
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三大疾病特約 |
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八大疾病特約 |
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また、団体信用生命保険に特約を付加する場合、その保険料は住宅ローンの金利に0.1%〜0.4%ほど上乗せする形で支払っていくため、返済額が上昇することになります。
どの特約を付加するかは、毎月の返済額を確認した上で慎重に判断しましょう。団体信用生命保険の保障範囲を比較して、住宅ローンを組む金融機関を選ぶのもひとつの方法です。
団体信用生命保険の加入条件
団体信用生命保険に加入するにあたっての条件は2つあります。
- 住宅ローンを利用する(すでに利用している)こと
- 加入者が健康状態などの告知事項を満たすこと
条件①:住宅ローンを利用する(すでに利用している)こと
団体信用生命保険は、一般的にマイホーム購入にあたって住宅ローンを利用する人、もしくはすでに住宅ローンを利用しているが、借り入れ先の金融機関を変更(借り換え)する人を対象としたものです。よって住宅ローンを利用する予定がある、もしくはすでに利用していることが加入の条件のひとつです。
条件②:加入者が健康状態などの告知事項を満たすこと
団体信用生命保険は、一般的な生命保険と同様に申込みをする際に、加入者の健康状態等を告知する必要があります。よって所定の条件を満たせない場合は、加入することができません。
団体信用生命保険の課税における取り扱い
団体信用生命保険の保険金は、基本的に課税の対象となりません。なぜなら、団体信用生命保険の保険金を受け取るのは、契約者ではなく住宅ローンを融資している金融機関だからです。また、保険金は団信契約者のものにもならないため、所得税も課税対象外です。
ただし住宅ローンを完済した住宅そのものは、相続税の課税対象となります。他の財産と合算して相続税の課税対象となるため注意しましょう。
ちなみに、一般的な生命保険の死亡保険金は課税対象となります。この時「法定相続人×500万円」分は非課税となりますが、それ以外の保険金については他の相続財産と合計され、相続税が計算される仕組みです。
関連記事:死亡保険金はいくらから税金がかかる?税金がかからない場合もある?損をしない生命保険の契約形態とは?
団体信用生命保険に加入する際の注意点
ここまで団体信用生命保険の基本的な仕組みや内容について解説してきましたが、実際に団信に加入する際は、以下の4点に注意する必要があります。
- 加入中の生命保険を見直す
- 保険金の支払い条件を確認する
- 住宅ローンの契約形態を確認する
- 健康状態によっては団信に加入できない
① 加入中の生命保険を見直す
団体信用生命保険に加入すると必要保障額のうち住居費用が不要となるため、加入している生命保険があれば保障額を忘れずに見直しましょう。
一般的に生命保険の死亡保険金は、残された家族の生活費や子どもの教育費を計算して設定します。残された家族が賃貸物件に住み続ける場合は、家賃も含めて必要保障額を計算しなければなりません。しかし、住宅を購入し団信に加入した場合は、ローン借主死亡の際は住宅ローンの返済がなくなり、住居費用が不要となります。よって生命保険も必要保障額を下げてよいと考えられます。
なお、団信に加入したにもかかわらず、住居費用を含めた保険金額を設定していると、過剰な保障に対し保険料を余分に支払い続けることになります。ムダな保険料の支払いがないか、今一度見直しを行いましょう。
団信加入後に生命保険に加入する際の注意点
団信加入後に生命保険に加入する場合は、住居費用を除いて必要保障額を算出し、保険金額を設定するのがよいでしょう。
ただしマンションを購入した場合は、団信に加入していても、管理費や修繕積立金などは引き続き支払っていかなければなりません。戸建て住宅の場合も、将来の修繕に備え、資金を積み立てていく必要があるため注意が必要です。
② 保険金の支払い条件を確認する
団信に特約を付加するときは、保険金が支払われる条件について詳細に確認しておきましょう。団信の特約を付加しても、条件によってはがんや心筋梗塞が必ず保障されるわけではないからです。
例えばがんの場合、団信の契約が成立してから90日(もしくは3ヶ月)の免責期間が経過した後に発症したがんでなければ、保障の対象になりません。
また、心筋梗塞や脳卒中は、診断されるだけでなく、「60日以上の労働の制限を必要とする状態が継続した」と医師に判断されなければ保障の対象にはなりません。
特に特約を付加するときは、保障の範囲と一緒に給付条件についても入念に確認しておきましょう。
③ 住宅ローンの契約形態を確認する
住宅ローンの契約形態によっては、住宅ローンの借主に万一のことが起こった場合でも、住宅ローンの残債がゼロにならない可能性があるため注意しなければなりません。
ペアローンで団信に加入する場合の注意点
夫婦でペアローン(夫・妻がそれぞれ債務者かつ互いの連帯保証人となるローン)を組んだ場合は、団信も夫・妻それぞれの名義で契約することになります。よって夫婦のいずれかが死亡した場合、亡くなった人の分のみ残債がゼロになります。残された夫もしくは妻は引き続きローンの返済をしていかなければなりません。
連帯債務で団信に加入する場合の注意点
連帯債務(夫・妻が主債務者もしくは連帯債務者)で住宅ローンを組んだ場合、基本的に団信は主債務者しか加入できないため、連帯債務者が死亡してもローンの残債はゼロになりません。主債務者は引き続きローンを返済していく必要があります。
④ 健康状態によっては団信に加入できない
団信に加入する際は、加入者の健康状態をありのままに告知しなければなりません。団信は、民間の生命保険よりも告知が必要な項目が少なく、比較的加入しやすい保険ですが、場合によっては加入を断られ、住宅ローンが組めないこともあります。よってできるだけ健康なうちに住宅を購入してしまうのもひとつの方法でしょう。
団信に加入できない場合はどうすればいい?
住宅ローンを組むときに団信への加入が必須となっているが、健康状態等を理由に団信への加入を断られてしまった場合、一切マイホームの購入をあきらめなければならないのでしょうか。
もし持病や病歴など、健康上の理由で団体信用生命保険への加入が難しい場合には、一般の団信よりも加入条件が緩和されている「ワイド団信」への加入を検討するといいでしょう。
ワイド団信とは
通常の団信と比較し、引受基準が緩く設定されている団信です。健康状態に不安がある方でも加入しやすいですが、保険料は通常の団信よりも割高となる点に注意が必要です。
ワイド団信の保険料は、住宅ローンの金利に上乗せされるため、通常の団信に比べ毎月の返済額が上がり、家計の負担となる可能性があることに注意しましょう。
団体信用生命保険の保障外のリスクをカバーする方法
団信はあくまで、死亡や高度障害、特定の疾病になった場合に残債がゼロになる保険に過ぎません。団信に加入したからといって、生命保険に入る必要がない、ということではありません。
団体信用生命保険ではカバーできないリスクとは?
まず、団信だけではカバーできないリスクは以下の3つが考えられます。
- 残された家族の生活費・子供の教育費
- 病気やケガで入院・長期療養した際の医療費
- 老後の生活費
団信は、あくまで万一の場合の住宅ローンの返済がなくなる保険ですので、残された家族の生活費や子供の教育費までは備えられません。
また、団信の保障範囲外の病気やケガで入院・長期療養した場合は、働けず収入が減少する中で、医療費を負担したり住宅ローンを返済していかなければなりません。
そして老後は、住宅ローンの返済終了にともない、団信の保障自体も終了しています。当然ながら老後の生活費用はあらかじめ準備しておかなければなりません。
このように住宅ローンでカバーできないリスクに対しては、公的な保険制度や民間の保険商品をうまく活用していくことが大切です。
団信の保障外のリスクに備えられる公的な保険制度
団信の保障対象外となるリスクをカバーする公的な保険制度は、主に以下の2つがあげられます。
- 公的年金
- 公的医療保険
日本は国民皆保険制度をとっているため、上記の保険制度には必ず加入しています。公的な保険制度について詳しく知らない方は、以下の記事でぜひ確認してみてください。
関連記事:社会保険制度などの公的保険と民間保険の違いを知り「万が一」に備えよう
公的年金とはどんな制度?
公的年金には、自営業やフリーランスが加入する国民年金や、会社員や公務員が加入する厚生年金があります。これらの公的年金に加入していることで、以下3つの年金の受給資格が発生します。
- 老齢年金:老後の生活費を保障する年金
- 遺族年金:残された家族の生活費を保障する年金
- 障害年金:所定の障害状態になった場合の生活費を保障する年金
年金によって、所定の状態になった場合の生活費はある程度保障されているものの、その金額は受給対象者の状況によって大きく変わります。年金がいくらもらえるのかシミュレーションした上で、民間の保険の保険金額をいくらに設定するか考えた方がよいでしょう。
関連記事:【2023(令和5)年度版】ねんきん定期便の見方と年金額の計算方法は?
公的医療保険とはどんな制度?
公的医療保険に該当するのは、自営業やフリーランスが加入する国民健康保険(国保)や、会社員や公務員が加入する健康保険(被用者保険)等です。
健康保険に加入していると、以下のような給付金を受け取れます。
- 療養の給付(原則3割負担)
- 高額療養費制度
- 傷病手当金
このうちの高額療養費制度とは、ひと月あたりの医療費の自己負担額が、その人の年収によって定められた上限を超えた場合、払い戻される仕組みです。
また、傷病手当金とは、会社員や公務員が病気やケガで働けなくなった期間の給与を補填する目的で、支給される手当金です。
団信の保障範囲外の病気やケガで働けなくなった場合は、住宅ローンの返済義務が引き続き残ります。もし入院したり働けなくなったりした際に、公的医療保険で何が受給できるのかを確認したうえで、加入する民間の保険を決めましょう。
関連記事:高額療養費制度は医療費がいくら以上から使える?さらに負担を軽くする多数該当、世帯合算とは?
傷病手当金とは?退職後にもらえる?支給条件や計算・申請方法などを解説
団信の保障外のリスクに備えられる民間保険
団信で保障されないリスクは民間の保険で備えることが可能です。リスクの種類に応じ、どのような保険が適しているのか詳しく解説します。
残された家族の生活に備える保険
残された家族の生活費や子どもの教育費に備えるには、以下のような死亡保険を検討するとよいでしょう。
- 定期保険 :死亡保険金を一括で受け取れる保険
- 収入保障保険:死亡保険金を分割で受け取れる保険
定期保険と収入保障保険の最も大きな違いは、死亡保険金の受け取り方法です。世帯主が死亡した場合の遺族の生活費や子どもの教育費から、遺族年金と配偶者の収入を差し引いた額を死亡保障額に設定するとよいでしょう。
病気・ケガによる入院や長期療養に備える保険
病気やケガでの入院や長期療養に備えるには、以下の保険を検討するとよいでしょう。
- 医療保険 :病気・ケガによる入院・手術等にかかる医療費を保障する保険
- 就業不能保険:病気・ケガにより働けない期間の収入を保障する保険
もし上記の保険の加入を検討する際は、高額療養費や傷病手当金を受け取ることも想定したうえで、保障額を設定するとよいでしょう。
関連記事:医療保険で入院に備えよう!平均の入院日数はどのくらい?費用はいくらかかる?
老後の生活に備える保険
老後の生活費に備えるには、以下の保険を検討するとよいでしょう。
- 個人年金保険:老後の年金を積み立てられる保険
- 終身保険 :死亡保障が一生涯の保険
上記の保険はどちらも貯蓄型の保険です。保険料の払込終了後や、所定の期間の払込後に解約することで、支払った保険料以上の返戻金を受け取ることができます。ただし、保険料を支払っている期間中に解約すると、支払った保険料以下のお金しか戻ってこない元本割れが起こる可能性が高い点に注意しましょう。
まとめ
団体信用生命保険は、「マイホームを購入したい」という夢を後押しする心強い保険といえます。
一方で、その保障範囲や加入条件は通常の生命保険と異なるところもあり、加入前に入念な確認が必要といえます。また、団信のほかに民間の保険でライフイベントにともなうリスクに備えておくと安心です。
団信でカバーできないリスクについて、民間の保険で備えたいと考えている人は、保険の専門家であるFP(ファイナンシャルプランナー)に相談するのもよいでしょう。