意外と使える!病気やケガで働けなくなった時の公的保障
社会人になって自分のお金で生活するようになると、不安になるのが「病気やケガで働けなくなったとき」のこと。働けないということはつまり、生活のためのお金が稼げないということです。
働けない期間が有給の使える範囲内であればなんとかなるかも、と思うかもしれませんが、もし1か月、2か月、半年、1年…とかかってしまったらどうしますか。不安になりますよね。
そこで今回は、病気やケガで働けないときにどうしたらいいのか? について、考えていきたいと思います。
病気やケガで給料が支払われない時に使える公的補償
まずは、病気やケガで給料が支払われないときに使える公的補償について確認しておきましょう。知っているのと知らないのでは、万が一の時に、大きな差が付きます。知らないと受け取れないものがあるので、一通りチェックしておいてくださいね。
労災保険の休業補償
労災保険は、労働するにあたって生じたケガもしくは病気などに対する補償です。仕事中はもちろん、通勤途中も対象となります。病気やケガの治療・療養で仕事ができず、賃金を受け取れなかったときに補償してくれる仕組みになっています。
なお、補償を受けるための要件は、以下の3つです。
- 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のためであること
- 労働ができないこと
- 賃金を受けていないこと
上記をすべて満たすと、休業開始から4日目から「休業補償給付」と「休業特別支給金」が支給されます。
補償の内容は次の通りです。
- 休業補償給付=給付基礎日額の60 % × 休業日数
- 休業特別支給金=給付基礎日額の20% × 休業日数
ちなみに、休業開始から3日目までは待期期間といいます。待期期間は、1日につき平均賃金の60%の休業補償のみが支払われます。
給付基礎日額とは?休業補償の支給額を計算してみよう!
「給付基礎日額」」とは、事故が発生した日、もしくは医師による診断で病気であることが確定した日の、直近3ヶ月間に支払われた賃金の総額を暦日数で割ったものになります(ボーナスは除く)。これで1日あたりの賃金額を算出することができます。
なお、療養開始から1年6ヶ月経過してもケガや病気が治っていない場合は、「傷病補償年金」に切り替わります。
では、具体的にどのくらいの支給額になるのでしょうか。たとえば、月給30万円で労災の休業補償を申請した場合は、以下のようになります。(事故の発生日を10月とした場合。直近の3ヶ月は31日、30日、31日という暦日数)
まず、給付基礎日額は、
となります。
ここから休業補償を計算すると、
休業特別支給金:9,780円 × 20% = 1,956円
となります。
つまり1日当たりの補償額は、1~3日目までは5,868円、4日目以降は7,824円(5,868円+1,956円)になるというわけです。
休業補償の請求方法
休業補償を請求する場合、「休業補償給付支給請求書」を所轄の労働基準監督署長へ提出します。会社の担当部署で提出してくれるケースも多いので、まずは会社の総務部や人事部などの担当部署に連絡してみてください。指定の病院へ行ってくださいと言われるケースもあるようです。
絶対そうしなくてはいけない、というわけではないのですが、労災指定の病院であれば、無料で治療を受けることができるのがメリットです。別の病院で診察して治療費を請求することもできますが、働けなくなるほどのケガや病気のときにそんなことで手間取りたくないですよね。であれば、最初から労災指定病院に行くのがベストです。
※参考:厚生労働省 – 労災保険 休業(補)給付 傷病(補償)年金の請求手続
健康保険の傷病手当金
労災の適用範囲外のケガや病気で、働けなくなる可能性もあります。その場合に使えるのが、健康保険の傷病手当金です。
支給要件は以下の4つです。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
- 仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
- 休業した期間について給与の支払いがないこと
労災保険の待期期間は連続していなくてもいいのに対し、傷病手当金の制度では連続した3日間でなければ成立しないことに注意が必要です。なお、支給期間は、支給開始した日から最長1年6ヵ月となります。
傷病手当金の支給額を計算してみよう!
1日あたりの支給額の計算方法は以下の通りです。
支給開始日以前の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × 2/3
転職などで支給開始日以前の期間が12か月に満たない場合は、「支給開始日以前の継続した各月の標準報酬月額を平均した額」と28万円を比べて、少ない方を使用して計算します。
ここでいう「標準報酬月額」とは、会社からもらう給料で決まりますが、都道府県ごとに異なるため注意が必要です。
たとえば、標準報酬月額が30万円の場合、1日あたりにもらえる金額は30万円 ÷ 30日 × 2/3 =6,670円(日額)となります。待期期間があるため、最初の1ヶ月は27日間分となり、総額は180,090円となります。
傷病手当金の請求方法
傷病手当金を申請する場合、まずは会社に報告をして申請書を用意します。会社と医師に記入してもらう箇所がありますので、確認して漏れなく記入してもらうようにしましょう。
協会けんぽのHPには、「1ヵ月単位で給与の締切日ごとに申請されることをお勧めします。」とあります。これは、給与の支払いを会社に証明してもらう必要があるため、こまめに連絡を取っておく必要があるということです。
※参考:全国健康保険協会 – 病気やケガで会社を休んだとき
入院費用ってどのくらいかかるの?
ここまでは公的保障について見てきました。しかし実際、入院にはどのくらいのお金がかかるものなのでしょうか。公益財団法人 生命保険文化センターの2022(令和4)年度「生活保障に関する調査」(2023年3月発行)によると、1日あたりの自己負担費用は平均で20,700円となっています。この金額を見て、どう感じるでしょうか? 多いと思いますか、それとも、少ないと思いますか。
この入院費用には、
- 治療費の自己負担分
- 食事代
- 差額ベッド代
- 交通費
- 衣類
- 日用品の購入費
- テレビの視聴カード代
…などが含まれます。つまり、入院には治療費の自己負担分だけでなく、生活必需品のお金も必要だということです。
さらに、お見舞いに来る家族の交通費や、お見舞いに来てくれた人へのお返しの品を用意することを考えると、けっこうな額の出費になってしまいます。
関連記事:差額ベッド代をわかりやすく解説!医療費控除や高額療養費は適用される?
1回の入院でかかる費用は約40万円
同資料によると、入院日数の平均は17.1日。「5~7日」が最多で27.5%、次いで「8~14日」が24.1%となっているようです。最近は、医者もなかなか入院させないとは言われていますが、意外と長いと思いませんか。平均で計算してみると、20,700円×18日=372,600円ものお金が1回の入院でかかることに。
さらに、よくよく考えてみるとその間働けないのですから、お金を得る機会を逃していることになります。同資料によればこうした「逸失収入」の総額の平均は302,000円。
つまり、入院で働けない状態が続けば平均で372,600円(入院費用)+302,000円=647,600円も損をすることに!これはかなりの痛手ですよね。
50万円+1ヶ月の給与分の貯金があれば安心
大きな出費ではありますが、逆に考えると、50万円ほどの貯金と1ヶ月の手取り給与分さえあれば、当面の費用は賄える計算になります。
病気やケガはないに越したことはありませんが、こればっかりはどれだけ気を付けても防ぎようがないこともあります。筆者の友人で健康に気を付けていて、車の運転も超安全運転という人が交通事故に巻き込まれてケガをしてしまったときにはかなりショッキングでした。
どんなに気を付けていても、後ろから追突されてしまってはなすすべもありません。幸い軽症で、入院まではしなくてよかったのですが、どんなに気を付けても万が一ということがあります。その時になって慌てないためにも、今からしっかりと貯金をして備えておきましょう。
病気やケガになったときのために…就業不能保険に入っておいたほうがいい?
貯金をしておいたほうがいいといっても、すぐには貯まりません。そうなると「働けなくなったときのために、なにか保険でも入ったほうがいいのかな」と思う人もいるのではないでしょうか。
たとえば、働けなくなったときの保険として「就業不能保険」があります。文字通り、病気やケガなどで働けなくなったときの保険で、「給料のようにお金を受け取れる」と謳っている保険会社も多いようです。たしかに、毎月支払っている家賃や光熱費、通信費などの支払いは待ってはくれない、ということを考えると、保険に入っておくほうが安心です。
というわけで、就業保険について各社の支給要件を簡単に見ていきたいと思います。
A社
- 対象となる疾病:悪性新生物や急性心筋梗塞、脳卒中、慢性肝不全、肝硬変などの5疾病とうつ病や摂食障害、胃潰瘍や過敏性腸症候群などのストレス性疾病
- 支給要件:60日間以上入院した場合
B社
- 対象となる疾病:精巣癌、多発性骨髄腫、くも膜下出血、後天性血友病、白血病など(精神障害を除く)
- 支給要件:就業不能状態。ケガや疾病の影響で元の仕事に戻れず、元の収入よりもかなり少ない収入しか得られない状態になっても支払いがされない。
各社で支払いの条件も、対象となる疾病やケガの程度も異なるため、一概に比較はできません。しかし、生活費や子どもの教育費用、家賃やローンの支払いなど、お金がかかる時期には、公的制度だけでなく、民間の保険による備えもあるといいでしょう。
なお、就業不能保険だけでなく、入院費用の負担が気になるのなら医療保険に加入するという手もあります。公的制度と民間保険を上手く組み合わせて、無駄なくてあついを保障受けられるように準備しておくのがいいですね。
万が一のリスクに備えておくことが大事
誰でも病気になる可能性はありますし、ケガをすることもあります。そういうときに家族が困るのは避けたいですよね。ただ、「心配だから」と高すぎる保険料を払うのも家計を圧迫してしまうことになります。実際にどれくらいのお金が必要になる可能性が高いのか、よく検討して可能性に見合った保険料で十分な保障を受けられるように準備しておきたいものですね。