LGBTQ を取り巻く社会・環境の変化と保険について
保険業界で働くきっかけは?
コのほけん!編集部
加藤良さん
保険業界歴は10年ほどになります。僕はもともと、スポーツジムのトレーナーをしていましたが、思うところがあり、プルデンシャル生命のライフプランナーに転職しました。現在は、R&C株式会社でコンサルタントをしています。
今は「自分の周りの人を幸せにしたい」「お金で悲しい思いをする人を減らしたい、しっかり相談に乗れる窓口になりたい」という理想を掲げておりますが、はじまりはお金を稼ぐ必要があったためです。母の病気の治療費を稼ぐために、お金が必要でした。
人を幸せにしたいというのは、自分が幸せじゃないと人を幸せにできないですし、 何よりもお金は大事だということを30歳越えてから身に染みて感じるようになりました。
「下町ゴリラズ」設立の経緯
コのほけん!編集部
加藤良さん
下町ゴリラズ合同会社は、4年前にアメフトチームを作って、スポンサーもつくようになり、お金の動きが大きくなってきたので設立しました。
僕は動物の中でゴリラが大好きなので、まず名前をつけるのであれば「ゴリラズ」にしようと思っていました。
企業名がついたチームもあるのですが、「ゴリラズ」という単語の前か後ろに何の単語を繋げたらいいかなと考えた時に、聞いた人が応援したいなとか、優しい雰囲気だなとか、ちょっと気になるなと思って貰える言葉は何かということを考えました。
地域名をつける、地域を限定させるというのもひとつの案としてありました。「隅田ゴリラズ」「浅草ゴリラズ」という感じですね。
もう少し幅を広げて、馴染みやすいフレーズは何かと考えた時に、「下町」というフレーズにたどり着き、「下町ロケット」や「下町ボブスレー」という活動があったので、そこから「下町ゴリラズ」という名前になりました。
コのほけん!編集部
ぱっと見た時に印象に残るお名前だと思います。言葉選びのセンスがいいというか上手だなと思いました。チームの皆さんが体格のいい方々なので、イメージもすごくあっている印象です。
加藤良さん
インパクトはあると思います。最初は笑われましたが、みんな気に入っています。
これがたとえば、「六本木ゴリラズ」だったら、なんかギラギラしてそうで少し嫌だなと思う人もいたかもしれませんね。
LGBTQをとりまく環境に変化はあったのか?
コのほけん!編集部
加藤良さん
10年前ではあまり考えられなかったが、同性パートナーを受取人にできる生命保険が増えています。外資系生保を中心に、現在は国内生保でも徐々に増えてきたという点が大きな変化だと思います。
一方で、これだけニュースになって話題になっている反面、まだ変えられない部分もあります。たとえば、同性パートナーも保険金の受取自体はできるようになりましたが、税制面での優遇措置はいまだにありません。すぐに変わることは難しいと思います。
病気に対する偏見とパートナー共済
加藤良さん
変化がないということでいうと、病気に対する偏見がまだ変わっていないと思っています。たとえば、HIVについて詳しいですか?
コのほけん!編集部
詳しくありません。普通に生活している限りには感染しやすいものではないということや、必ずしも同性愛だからなりえるという病気ではないという程度の認識です。
加藤良さん
おそらく一般の方より詳しいと思います。10年くらい前だったら、特に、一般の方のイメージだと、HIV=死の病気、HIV=エイズであったりします。保険会社の医務査定の基準をみると、HIV /エイズと書いてあります。引受に関しては、緩和型の保険以外は大抵引受不可となります。
昨日、世界エイズデー(12/1)だったのですが、今やHIVは死の病気ではなく、きちんと服薬をしていれば他人にうつすことなく、普通の生活が可能です。
平均寿命についても普通の人と変わらなくなってきたのですが、ただ、HIVとするだけで保険に入れない部分がどうにかできないかなと思っています。我々の取り組んでいるパートナー共済は、HIVの方でも加入できるようになっています。
パートナー共済でいずれデータが集まって、HIV=死の病気ではないという証明ができたら、各保険会社の査定も緩和されて、HIVの方でも望んだ保険に入れるようになるのではないかと考えています。
コのほけん!編集部
取り組まれていることは非常に実験的、実証的でかなり意義のあることですね。
加藤良さん
そうですね。社長はそういう方々が困っているなら作ってしまえばいいというチャレンジャー精神旺盛な人です。パートナー共済では、HIVの方、GIDの治療中の方も入れるようになっています。
GIDの治療、たとえば、性転換治療をしたらホルモン治療を続けなくてはいけないのですが、それが原因で保険に入れないということになります。ホルモン治療しないと病気になってしまうからやっていることですが矛盾していますね。健康を保つためのものが、治療中扱いのために保険に入れないという現実があります。理解が進んでも制度が変わっていくのはもう少し時間がかかると思います。
LGBTQの保険のニーズは?
コのほけん!編集部
加藤良さん
あります。ただ、保険のイメージが先行するのか、残す人がいないのであれば入る必要がないと考える人はいまだに多いです。一般の生命保険の加入率は約9割と言われていますが、 LGBTQの方々の加入率は6割ぐらいです。
コのほけん!編集部
思っていた以上に、ずいぶん差があります。
加藤良さん
要因として、昔ながらの「家族はいないから生命保険に入る必要がない」という話を聞いたことがあって入らない人が多いのではないかなと思います。僕がお客さまへ情報提供をしていると、こんな話を聞いたことがなかった、あまり営業を受けたことがなかったというお客さまの声があって、加入される方が結構いらっしゃいます。
そもそも、そういった情報への接点がない、あるいは接点があってもカミングアウトはしづらいので、どこに相談したらいいのかわからないという状況が結構あると思われます。
コのほけん!編集部
LGBTQの方も、普通にパートナーや恋人がいらっしゃいますよね?
加藤良さん
そこに保険でお金を残せることを知らない人がほとんどです。
コのほけん!編集部
そもそも知らないということですか?
加藤良さん
自分が昔に入った保険が同性パートナーに残せるかどうかはなかなか調べないと思います。そして、担当者に聞くのも難しいでしょう。僕が今このように発信して、少しずつ影響力を持つようになり、問合せが増えてきましたが、まだまだ知られていないように感じます。
もちろん、メディアで情報発信することも大事ですが、そこから情報をシャットアウトしている当事者の方が多いのではないかと思います。保険に絶対入った方がいいとか、保険が必要というわけではないですけど、お金の問題というのは、性別・性的指向に関係なく大事な話です。知っていて保険に入らないことと、知らないで入らないとでは意味が違うと思います。そのため、情報提供だけでもしたいという思いで取り組んでいます。
法律面での環境の変化は?
コのほけん!編集部
加藤良さん
まず、社会の変化として、 同性パートナーを受取人にできる保険の取り扱いが増えました。とはいっても各社条件が異なります。たとえば、外資系生保だと住民票が一緒だったら、すぐに受取人に指定できる、国内生保だと同棲期間が3年以上必要、あるいは、パートナーシップ証明書を出さないといけないという形もあります。
社会の変化はありますが、法律の変化は難しいですね。
コのほけん!編集部
どうして進まないのでしょうか。理解の問題でしょうか。
加藤良さん
僕も行政の人間ではないため詳しくわかりませんが、法律を変えるということは一番大変だと思います。今の現行の法律の上に、パートナーシップ制度を条例で追加するという形であれば作りやすいのでしょうが、大本となる法律を変えるのはなかなか難しいと思います。
2022年11月30日に同性パートナーの結婚を認めないことについての裁判があって、現行の憲法上の違憲ではないけれど違憲に近い状態であるという判決が出ました。法律がそもそも想定していない状態という理由のようです。
当事者からすると一歩前進で喜ばしいことですが、だからと言って、すぐに法律を変えましょうという流れにはならないと思います。
コのほけん!編集部
考えてみると、夫婦別姓の導入も進んでいないので、そうなのかもしれませんね。ちょっと前に調べて知ったのですが、性同一性障害で性転換手術を受けて、男性から女性に性転換をし、戸籍上も女性に変更した方が、里親になり、特別養子縁組をしてお母さんになったという事例があって、家族の形にこだわる必要があるのかなと疑問に思いました。
加藤良さん
幸せな人が増えるのであれば、法律として同性婚も認めたらいいと僕は思います。
保険選びの前におさえておくべきポイントとは?
コのほけん!編集部
加藤良さん
最近は皆さんのリテラシーが上がってきていますが、国の制度の把握はしたほうがいいと思います。
自分が病気やけがをしたらどこからどれだけのお金が出るのか、どういう出費が考えられるのか、年金はいくらもらえるかというのは知っておいて損はないでしょう。たとえば、当事者でお金残す人がいない人が1億円の死亡保険入っていたら、それは無駄になってしまいますし、だったら、自分にあったものを選ぶほうがいいですね。
僕自身が最初保険の加入した時には、 担当の営業から「いつか結婚しますよね、だから何千万円必要になりますよ」と言われて、結婚はしないと言いつつ、保険に加入した経験があります。
コのほけん!編集部
カミングアウトする・しないはセンシティブですね。カミングアウトしないと告知違反になりますか?
加藤良さん
カミングアウトしなくても告知違反にはなりません。ただ、その部分を言わないとライフプランを組むことは難しいですね。だから、担当を選んだ方がいいと思います。
たとえば、いきなり、保険ショップの窓口に行って、知らない女性に「僕、ゲイですけど」といきなり話を進めることも難しいですよね。とはいっても、それを知っているか知らないかで、提案するものもだいぶ変わってきます。ただ、全員が言うべきだという問題でもありません。
コのほけん!編集部
すごく難しい条件の中で、営業されているのですね。
加藤良さん
何が正しいかはわかりませんが、LGBTQに特化した結果、そうではない方々に声をかけ営業をしづらい側面があります。
保険業界はニーズに応えられている?保険加入の傾向は?
コのほけん!編集部
加藤良さん
十分ではないけど、 応えようとしているという姿勢は感じます。徐々に変わってきていると思います。今後10年で急激に進むのか、また時間がかかってしまうのかはわかりませんが、良い方向であると思います。
コのほけん!編集部
加藤さんのメインのお客さまはLGBTQの方々ですか?
加藤良さん
98%は当事者の方々で、ゲイの方が多いですね。僕もこれだけオープンにしてやっていますのでその影響もあります。
コのほけん!編集部
ご自身のための保険と、パートナーの方のための保険だと加入されるのはどちらの傾向が強いのでしょうか。
加藤良さん
ご自身のための保険のほうでしょうか。
まだ何組かですが、カップルの方が最近増えています。あるお客さまは、その地域にはパートナーシップ制度はなく、ただも一緒に住んでいるだけですが、お互いを受取人にしてご加入されました。結婚はできないけど、こうやって受取人にできるのはいいねという感想や、まだ結婚はしていないけれど、パートナーに残せる保険があることを知って、残せる相手がいるということは幸せですねという意見を頂きました。そういう声を聞けるとだけでもこの仕事や取り組みしていて良かったと思います。
コのほけん!編集部
LGBTQの方々に人気の保険商品はどんなものになりますか?
加藤良さん
僕のお客さまは、特に、LGBTQ当事者の方は死亡保障にはあまり興味がないようです。多少金額があがってもお金が貯まるものや、介護状態になった時に自分で使えるものが好まれます。将来お世話をしてくれる人がいなくて、介護状態になったら、施設に入るお金を準備する必要がありますよね。そういった説明をすると加入される方がいらっしゃいます。僕のお客さまは特にゲイの方が多いのですが、可処分所得が高い傾向があるので、それも影響しているかもしれません。
コのほけん!編集部
お客さまは紹介ですか?
加藤良さん
紹介はほぼないです。ストレートの人は、いい保険屋さんがいるよと紹介で繋がることはあると思います。LGBTQ当事者の方がすごく喜んでくれたとしても、LGBTQ当事者の方がストレートの方を紹介するかというと、僕がゲイだとわかっているので、紹介がアウティングに繋がる可能性があるのでありません。
僕に保険の相談をしたということや保険に加入したということ自体が、望まないカミングアウトを引き起こす可能性があるので、非常に気をつかう部分です。
アメフトのチームメイトはほとんどストレートの人ですが、そこからゲイの方を紹介されることもないですし、ゲイの方からゲイの方を紹介してもらう機会もありません。みんな個別にピンポイントでSNS等のメッセージをもらって相談に至るというのが現状です。
加藤良さん公式LINE:https://line.me/R/ti/p/@272hjcyz
まとめ(編集部後記)
LGBTQ専門の保険コンサルタントであり、ご自身はゲイでLGBTQの当事者である加藤良さんにお話しをうかがいました。
社会のLGBTQに対する理解が進み、良い意味での変化も起きていますが、一方で、法律等のハード面では法整備が進んでいない現状があります。そうした状況で「人を幸せにする」という目標を掲げLGBTQ専門の保険コンサルタントとして活動されている加藤さん。
「幸せな人が増えるといいと思う」という言葉が非常に印象的でした。