夫婦の年金受給額を共働き・専業主婦家庭ごとに計算!年金以外に必要な老後資金の備え方を解説
老後資金を準備したいけれど、「どれだけ準備すれば良いのかわからない」と思っている人は多いのではないでしょうか。老後資金を準備するには、まずは年金額を知らずに準備することはできません。とはいえ、年金もよく分からないという人もいるでしょう。そこで、共働きや専業主婦世帯など夫婦の働き方別に、年金額を紹介するとともに、老後資金を備えるための制度や商品についても解説します。
これだけはマストで知っておきたい公的年金の基礎知識
公的年金は国民年金と厚生年金の2種類です。国民年金は、学生や自営業などの第1号被保険者、会社員などに扶養される配偶者である第3号被保険者が加入します。厚生年金は、会社員や公務員、扶養の範囲を超えて働くパート等の第2号被保険者が加入します。
国民年金保険
日本に住んでいる20歳以上60歳未満の人は、国民年金に加入します。保険料を納めることで、自分に万一のことがあれば家族に遺族基礎年金が支給され、障害で働けなくなったら障害基礎年金を受け取ることができ、高齢になりそれまでのように働いて収入を得られなくなったら老齢基礎年金を受け取ることができます。
国民年金は老齢になったときの所得保障だけではなく、万が一加入者に重い傷害が残ったりや死亡した際、自身や家族の生活が苦しくなると思われる場合に、お金を受け取ることができる保険です。
なお、国民年金の保険料は一律で16,980円(2024年度)、満額の年金額も一律で816,000円(2024年度)です。
参照:日本年金機構「国民年金保険料」
厚生年金保険
厚生年金も国民年金同様、老齢時の所得保障や万が一重い傷害や死亡した場合にお金を受け取れる保険です。厚生年金加入者は国民年金と厚生年金、ダブルで年金を受け取ることができます。厚生年金の保険料や受け取る年金額は給料や厚生年金加入期間によって異なります。
なお、国民年金も厚生年金も、受け取るには保険料を納めている等一定の要件があります。
参照:日本年金機構「健康保険・厚生年金保険の保険料関係」
夫婦の平均年金受給額
では、老後はいくら年金を受け取ることができるのでしょうか。下記4つのケースにおいて年金の受給額を確認してみましょう。
共働きのケース(夫婦ともに自営業)
自営業は第1号被保険者であり、老後の年金は老齢基礎年金のみとなります。老齢基礎年金は国民年金を納めた期間に比例して支給され、免除や未納期間等があると、その分年金は少なくなります。
20〜60歳まで、40年間国民年金保険料を納めると、満額の年金を受け取ることができ、夫婦とも満額の年金を受給できる場合は、
夫約80万円、妻約80万円、夫婦合計で約160万円
となります。
なお、過去に会社員経験などがあり、厚生年金に加入していた場合、その期間分の厚生年金も受け取ることができます。厚生年金の金額については、次の「夫婦とも会社員のケース」を参考にしてください。
共働きのケース(夫婦ともに会社員)
夫婦とも会社員、第2号被保険者のケースをみてみましょう。第2号被保険者は老齢基礎年金に加えて、老齢厚生年金も受け取ることができます。老齢厚生年金の年金額は年収と厚生年金加入期間に比例し、以下の計算式でおおよその 年金額を求めることができます。
厚生年金加入中の平均年収×厚生年金加入年数×0.55%
たとえば、23〜65歳まで夫は会社員として働きその間の平均年収が600万円、妻は23〜60歳まで会社員として働きその間の平均年収が300万円とすると、夫婦2人の老齢厚生年金は下記の通りとなります。
夫:600万円×(65歳-23歳)×0.55%=約139万円
妻:300万円×(60歳-23歳)×0.55%=約61万円
上記に加えて老齢基礎年金も受け取ることができます。夫婦とも満額の老齢基礎年金80万円を受け取ることができるなら、年金額は下記の通りとなります。
夫:老齢基礎年金80万円+老齢厚生年金139万=219万円
妻: 老齢基礎年金80万円+老齢厚生年金61万=141万円
夫婦合計:360万円
共働きのケース(夫婦どちらかがパート)
次に、夫が会社員で妻が夫の扶養内で働くパートの場合で年金額をみてみましょう。妻は、厚生年金の加入経験はなく、結婚後ずっと扶養内で働いていたとします。この場合、夫は第2号被保険者、妻は第3号被保険者ですから、老後は、夫は老齢基礎年金と老齢厚生年金、妻は老齢基礎年金のみ受け取ります。 夫は23〜65歳まで会社員として働き、その間の平均年収600万円とすると、先ほどの「夫婦とも会社員のケース」同様、夫の年金は以下の通りとなります。
妻は老齢基礎年金のみ80万円を受け取るので、夫婦で合計した年金額は以下の通りとなります。
夫:219万+妻:80万円=299万円
専業主婦(主夫)のケース
例えば、妻が大学卒業後すぐに結婚し、その後ずっと専業主婦だったとします。この場合、 夫の職業が自営業か、あるいは会社員や公務員かによって夫婦の年金額は変わります。夫の職業が自営業であれば、夫婦とも第1号被保険者になるため、「夫婦とも自営業」のケースと同じ年金額となります。
夫が会社員や公務員だとすると、夫は第2号被保険者、妻は第3号被保険者になるため、「夫婦どちらかがパート」のケースと同じ結果になります。
第1号被保険者には扶養の制度はなく、また、扶養内のパートも専業主婦も第3号被保険者になるため、このような結果となります。
参照:日本年金機構「国民年金保険料」
参照:日本年金機構「健康保険・厚生年金保険の保険料関係」
夫婦で年金以外で備えておくべき老後資金はいくらぐらい?
では、老後のために、いくら準備すればいいでしょうか。先に述べた夫婦どちらかがパートのケースで考えてみましょう。
この夫婦の年金は夫219万円、妻80万円でした。夫婦合わせて月額約25万円です。しかし、年金からも税金や社会保険料を納めますから、手取りは22万円ほどになるでしょう。22万円で生活できそうだということであれば、老後は医療費や介護費、持ち家ならメンテナンス費用、また娯楽費用などの予備費用を準備するだけで良いでしょう。
一方、月々あと3万円は欲しいということであれば、仮に老後を65〜95歳の30年間すると
3万円×12ヶ月×30年=1080万円
生活費として1,080万円不足するということになります。
医療費や介護費、家のメンテナンス費用などの予備費用合計を仮に1500万円と見積もると、
準備したい金額は1,080万円+1,500万円=2,580万円
となります。
ここまで、一例として老後資金を計算しました。
しかし、ご自身の家庭の年金額は22万円でしょうか?不足金額は3万円でしょうか?生活水準や年金額、また予備費用の見積額は家庭によって様々です。老後の不安をなくすために、ぜひご自身の金額を計算してみてください。
今からできる老後資金対策
老後資金対策をするなら、早ければ早いほど良いです。自分に合った方法で準備していきましょう。
繰下げ受給
老後の年金は、原則65歳から受け取りますが、66歳から75歳までの間に受け取ることもできます。これを繰下げ受給と言いますが、繰下げ受給をすると増額された年金を受け取ることができます。老齢基礎年金、老齢厚生年金ともに繰下げ受給することができ、増額率は1ヶ月あたり0.7%です。
たとえば、先ほどの夫婦どちらかがパートで共働きのケースの場合、夫婦とも68歳から36月遅らせて繰下げ受給するとすると、夫婦それぞれの年金は下記のようになります。
妻:80万円×(1+0.7%×36月)=約100万円
本来の年金額は夫婦合わせて約299万円でしたが、3年遅らせることで約374万円と約75万円も増やすことができました。
増額は生涯続き、75歳まで繰り下げると増額率は84%となります。
参照:日本年金機構「年金の繰下げ受給」
付加年金
付加年金は第1号被保険者が加入できる公的年金制度です。保険料は月額400円で、年金額は付加保険料納付月数に200円をかけた金額です。
たとえば、付加保険料を10年納めると、
400円×12カ月×10年=48000円
納めることになり、
受け取りについては、年間、
200円×12カ月×10年=24000円
を生涯受け取ることができます。
付加年金は、老齢基礎年金に上乗せして支給され、老齢基礎年金を繰下げ受給する場合は、付加年金も老齢基礎年金の増額率に応じて繰下げされます。
参照:日本年金機構「付加年金」
関連記事:付加年金とは?メリット・デメリットや加入方法をFPわかりやすく解説します
国民年金基金
国民年金基金も国民年金第1号被保険者が加入できる公的年金制度です。年金の種類は、終身年金と確定年金の2種類ですが、受取期間や保証期間が異なるコースは7タイプあり、その中から自分自身で組み合わせて加入します。掛け金は年齢や性別、加入する口数によって異なり、年金額もそれらによって異なります。なお、国民年金基金と付加年金を併用することはできません。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは20歳以上60歳未満の人が加入できる私的年金制度で、条件にあてはまれば65歳未満まで加入可能です。しかし、時期など詳細は未定であるものの、現在70歳まで加入年齢を引き上げることが決定されています。
掛け金は職業や勤め先の退職金制度によって異なり、投資信託や預金で資産形成するため、受け取る金額も運用成果によって異なります。運用による利益が非課税になる点はNISAと同じですが、掛け金が全額所得控除できるため所得税や住民税を節税できる点がNISAと異なります。この点は、NISAより税制優遇が大きいと言えるでしょう。
一方、受け取り時は退職所得扱いとなります。一定の非課税枠が設けられているものの、その枠を超えると課税対象となります。
関連記事:iDeCoの特徴と3つの節税ポイント、NISA、個人年金保険の活用方法を解説
新NISA
2024年からNISA制度が新しくなり非課税期間が無期限になりました。一つのNISA口座の中に「つみたて投資枠」という積立専用の箱と「成長投資枠」という一括購入も積立購入もできる箱、2つが存在し、それぞれの年間投資上限額はつみたて投資枠は120万円、成長投資枠は240万円です。生涯に非課税投資できる金額は1800万円までですが、成長投資枠だけ利用する場合は1200万円が上限になっています。
老後のために資産形成をするなら、長期でコツコツと積み立てしていくことが適しています。成長投資枠でも積立投資は可能ですが、つみたて投資枠で購入できる商品は長期の積立・分散投資に適した投資信託となっていますから、老後のための資産形成とは相性が良いと言えます。
関連記事:いよいよ始まる新NISA、制度解説とメリット・デメリットとは?つみたてNISAからの移行は?
個人年金保険
個人年金保険には、決まった予定利率で運用される定額型と投資信託等で運用される変額型があります。また、円建ての商品もあれば外貨建ての商品もあります。円建ての商品は、中途解約しなければ元本割れの心配をする必要はありません。投資信託などリスク商品で運用することに抵抗がある人には、おすすめの商品と言えるでしょう。ただし、ほとんど増えないというデメリットもあります。
外貨建てや変額の個人年金については、為替や株価の影響を受けるリスクがあります。この点はNISAやiDeCoも同じですから、税制優遇の大きいNISAやiDeCoの方が資産形成には効果的です。しかし、NISAやiDeCoの仕組みがよく分からない、担当者に教えてもらいながら老後の資産形成がしたいという場合には、個人年金が選択肢となるでしょう。
関連記事:個人年金保険の必要性とメリット・デメリットをファイナンシャルプランナーが徹底解説!
会社の退職金制度
会社に退職金制度はありませんか?会社の退職金制度を知らない人は多いですが、退職金があれば、老後資金の準備はずいぶんラクになるはずです。この機会に退職金制度を確認しておきましょう。
関連記事:定年退職後に保険は不要?社会保険だけで備えは十分?定年退職後の保険選び・見直し方を解説
まとめ
今までお伝えしてきたように、老後の年金額はどのような働き方をしてきたのかによって大きく異なります。そのため、老後の準備額も家庭によって異なります。
まずは自分の家庭の年金額を知り、老後の不足額を見積もりしてみましょう。そして、その金額を準備するにはどの制度や商品が良いのか選んでみましょう。早ければ早いほど、老後への備えがしっかりできます。