更新日:2024年5月14日
外貨建て保険とは、日本国内では一般的に円通貨を使った仕組みになっているところを、外貨(外国の通貨)を使った仕組みに変えている保険のことですが、具体的にどの部分が外貨なのでしょうか? 外貨にすることでどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか? 外貨建て保険を簡単に理解できるよう、基本的な内容でまとめてみました。
外貨建て保険とは、日本円ではなく外貨を使ってつくられた保険商品で、主に貯蓄性のある終身保険、養老保険、個人年金保険で外貨建ての商品が数多くあります。
日本円より比較的高金利の通貨を使うことで、効率良く資産形成をしていくことができます。
外貨建てなので、加入者が支払う保険料も、保険金受取人が受け取る保険金や契約者が受け取る年金・解約返戻金等も外貨であり、円での取引を希望する人は通貨を交換する必要があります。
円入金特約や円支払特約が用意されているので、加入者がわざわざ銀行へ行って両替する必要はありませんが、為替レートは日々変動しており、そのリスクは加入者が負います。
外貨建て保険は、保険商品に設定されている予定利率と為替レートの水準によって販売動向が大きく変動します。
加入時の理想は
の状況で、反対に利率が低く円安の時は加入者が減る傾向にあります。
予定利率(よていりりつ)
保険会社は集めた保険料を資産運用して一定の収益をあげることを見込んでおり、保険料はその収益分を割り引いて設定しています。予定利率はこの割引率のことで、予定利率が高いほど保険料は安くなります。
為替レート(かわせれーと)
円や米ドル等の異なる通貨を交換する場(外国為替市場)での交換比率のことで、需要と供給のバランスにより随時変動します。円と米ドルの為替レートは1ドル139円程度(2023年6月6日現在)で、ここから1ドル150円の方へ向かえば現在よりも「円安」、100円の方へ向かえば現在よりも「円高」と言えます。
日本に住んで日本円を使っている人にとっては、外貨建て保険に対して円建て商品にはない魅力を求めているので、外部環境の影響を受けて魅力が増せば人気となり、反対の状況になれば人気がなくなってしまいます。
それでも、多くの保険会社で外貨建て保険を取り扱っていることから、日本では生命保険商品の一つの分野として根づいていると言えるでしょう。
基本的な保険の仕組みは外貨建ても円建ても同じですが、外貨建てなので為替レートの影響を受けることになります。
例えば、保険金額10万ドル、月々の保険料100ドルの米ドル建て終身保険に加入したとします。
<例>月払保険料:100米ドルの場合
ご契約時 | 2回目 | 3回目 ・・・ | |
---|---|---|---|
為替レート(1米ドルあたり) | 100円 | 150円 | 50円 |
保険料(円換算) | 10,000円(100ドル×100円) | 15,000円(100ドル×150円) | 5,000円(100ドル×50円) |
出典:執筆者作成[/linkBox]
<例>保険金額:100,000米ドルの場合
ご契約時 | 2回目 | 3回目 ・・・ | |
---|---|---|---|
為替レート(1米ドルあたり) | 100円 | 150円 | 50円 |
保険金額(円換算) | 1000万円(10万ドル×100円) | 1500万円(10万ドル×150円) | 500万円(10万ドル×50円) |
出典:執筆者作成
このように為替レートによって保険料や保険金額が変動するのが、円建てはない外貨建て保険の特徴です。
死亡保険金を受取人へ1000万円程度遺す想定で加入しても、為替レートの変動により実際は1500万円だったり500万円だったりする可能性もあります。
同様に毎月支払う保険料を1万円程度で想定していても、為替レートの変動により実際は1万5千円になったり、5千円になったりする可能性もあります。
また、日本円を外貨へ交換する時と、外貨から日本円へ戻す時に為替手数料がかかります。
TTM(てぃーてぃーえむ)
TTS(保険加入者が円を外貨へ交換するときの為替レート)とTTB(保険加入者が外貨を円に戻すときの為替レート)の仲値
為替手数料は保険会社によって異なり、保険料を払う時と保険金や年金・解約返戻金を受け取る時で手数料が異なる場合もあります。
外貨建て保険として一括りにしていますが、保険の種類は数多くあります。
中でも円建て保険で貯蓄性のある終身保険や養老保険、個人年金保険等の外貨版のような商品が特に多く、そこに低解約返戻金型の仕組みを取り入れたり、介護保障等の特約を付けたりしている商品もあります。
主な外貨建て保険の仕組みは下記のようになっています。
出典:執筆者作成
外貨建て終身保険の仕組みは、基本的に円建ての終身保険と同じで、一生涯(終身)の死亡・高度障害保険金を備えることができる保険です。
終身保険には貯蓄性があるので、解約した場合は解約返戻金を受け取ることができます。
何れも外貨建てなので、円に交換した時の額は為替レートの影響を受けます。
保険料の払込期間は選択肢があり、働いている期間に合わせて60歳や65歳までの有期払いにしたり、保険期間と同じ終身払いにしたりできます。
被保険者の年齢と保険金額が同じであれば、払込期間が短いほど1回あたりの保険料は増えますが、その代わり早期に払い終えることができます。
解約返戻金の額や率(払い込んだ保険料に対する解約返戻金の割合)は加入からの経過年数に連動しているので、短期間で解約すると返戻率は低く、受け取れる返戻金は僅かです。
払込期間が満了した後のような長期間経過後に解約すると、返戻率が100%を超え、払い込んだ保険料以上の返戻金を受け取れる可能性もあります。
出典:執筆者作成
外貨建て養老保険の仕組みは、基本的に円建ての養老保険と同じで、保険期間中に万が一お亡くなりになられた場合、保険金受取人が死亡・高度障害保険金を受け取れ、保険期間を無事に満了することができたら保険金額と同額の満期金を契約者が受け取れます。
契約期間中に解約した場合は、解約返戻金を受け取ることができます。
何れも外貨建てなので、円に交換した時の額は為替レートの影響を受けます。
保険料の払込期間は基本的に保険期間と同じで、保険期間が10年なら払込期間も10年です。
解約返戻金の額や率は加入からの経過年数に連動して増えていきます。
解約する時期や為替レートにより、解約返戻率が100%を超えることもあれば超えないこともあります。
元本保証はしていません。
出典:執筆者作成
外貨建て個人年金保険の仕組みも基本的には円建ての個人年金保険と同じで、将来の生活資金を貯めるために保険料を払っていきます。
年金の受け取り方は確定年金(選択した一定期間だけ年金を受け取れる)や終身年金(亡くなるまで年金を受け取れる)等から選ぶことができ、年金としてではなく一括での受取も可能です。
契約期間中に万が一お亡くなりになられた場合は死亡保険金を、解約した場合は解約返戻金を受け取ることができます。
何れの場合も外貨建てなので、円に交換した時の額は為替レートの影響を受け、受け取る時に円安なら増え、円高なら減ります。
元本保証はしていないので、年金や解約返戻金の受取額が支払った保険料を下回る場合もあります。
契約時に個人年金保険料税制適格特約を付けることで、個人年金保険料控除が適用される外貨建て個人年金保険もあります。
生命保険料控除は課税される所得から一定額を控除できる制度で、年末調整や確定申告で手続きをすることによって税負担を軽減できます。
現在の生命保険料控除は3種類(生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除)に分かれており、個人年金保険は個人年金保険料控除の対象となる場合もあれば、生命保険料控除の対象になる場合もあります。
生命保険料控除の方は終身保険等に加入していれば上限額に達しやすいですが、個人年金保険料控除は個人年金保険のみが対象なので、外貨建て個人年金保険に加入している場合は個人年金保険料控除が適用されると控除額を増やしやすいです。
個人年金保険料税制適格特約(こじんねんきんほけんりょうぜいせいてきかくとくやく)
年末調整や確定申告で個人年金保険料控除を受けるために付加する特約で、下記の4点を全て満たす必要があります。
出典:執筆者作成
外貨建て終身保険では仕組みを少し変化させたタイプが増えています。
外貨建て終身保険(低解約返戻金型)の特徴は、保険料払込期間の解約返戻金を低く抑えていることです。
円建て終身保険にも同様の仕組みがあり、払込期間中の解約返戻金を通常の終身保険の70%程度にして保険会社の支払リスクを抑えています。
低解約返戻金型の仕組みを取り入れることでその分だけ保険料を割安にでき、結果として保険料払込期間が終わった後の解約返戻率が上がっています。
死亡・高度障害保険金は払込期間中も通常の終身保険と変わらないので、支払う保険料を少しでも抑えたい人や貯蓄性を少しでも高めたい人に向いた仕組みと言えます。
出典:執筆者作成
外貨建て特別終身保険(低解約返戻金型)は外貨建て終身保険(低解約返戻金型)を更に変化させた仕組みで、保険料払込期間中は解約返戻金だけでなく病気死亡等の保険金額も保険料払込相当額に抑えています。
この仕組みを取り入れることによって更に保険料を割安にでき、結果として保険料払込期間が終わった後の解約返戻率を更に上げることができています。
外貨建て特別終身保険(低解約返戻金型)は払込期間中の死亡・高度障害保険金も抑制されてしまうので、どちらかと言えば死亡保障を備えるより貯蓄性を重要視したい人に向いています。
この保険も外貨建て終身保険(低解約返戻金型)も外貨建てなので、円に交換した時の額は為替レートの影響を受けます。
外貨建て保険には保険料の払い方による種類の違いもあります。
例えば、外貨建て終身保険には「外貨建て終身保険」と「外貨建て一時払い終身保険」があり、一時払いの方は名前の通り保険料を一度に全額払います。
出典:執筆者作成
一生涯の死亡保障を確保できる点は外貨建て終身保険と同じですが、加入者が契約時に保険料を全額払うので、保険会社にとっては運用する額を多く確保でき、運用する期間も長く確保できるため、その分だけ保険料を割安にできます。
一般的な外貨建て終身保険は、月払いと年払いの選択ができるだけでなく、払込期間を終身と有期から選択することもできます。
終身払いは生きている限り払い続ける方法で、一方有期払いは「60歳まで」や「10年間」のように一定年齢もしくは一定期間で払い込みが満了する方法です。
外貨建て終身保険の有期払いと終身払い、外貨建て一時払い終身保険を、同じ年齢・性別の被保険者が同じ保険金額に加入する場合、支払う保険料の合計は保険料が少ない方から「一時払い<有期払い<終身払い」となります。
そのため、効率良く一生涯の死亡保障を確保したい方や、終身保険で効率良く貯めていきたい人にとっては、一時払いが最適な選択になります。
ただ、外貨建て一時払い終身保険は保険料を払う回数が一度きりなので、ドルコスト平均法による為替リスクの分散ができず、契約時の為替レートの影響を大きく受けます。
外貨建て保険の場合、円高の時に保険料をドルに交換して支払い、円安の時に円に戻すのが理想で、月払いだと、円を外貨へ交換するタイミングは数十回から数百回にもなりますが、一時払いは一度しかありません。
最適なタイミングを注意深く見定めたいものです。
また、一時払いの場合は契約時に保険関係費用をまとめて引かれるので、契約から短期間で解約した場合は受取額が支払った保険料を下回ってしまう可能性が高いです。
日本国内で販売する保険なのにわざわざ外貨建てにするには、明確な理由がいくつかあります。
日本では不動産バブルが弾けてから金利は下がり、低金利状態が20~30年も続いています。
低金利だとお金を借りるローン商品(住宅ローン等)は金利が低く、返済額を抑えられて良いですが、お金を貯める方の預金商品等は、金利が低いとほとんど利息が付かないので、何年経っても増えない悲惨な状況です。
保険商品においても、貯蓄目的にもなる個人年金保険や養老保険、終身保険等で同じことが言えます。
また、保険会社は将来の保険金支払い等のために、加入者から受け取った保険料を運用しながら保有しています。
運用成果を期待できる状況にあれば、加入者から受け取る保険料(運用の元本)を少なくすることができ、反対に低金利で運用成果を期待できない状況にあれば、加入者から受け取る保険料を多めにする必要があります。
外貨建て保険は、金利が相対的に高く信用できる通貨を活用することで、保険会社は運用成果を期待できるようになり、加入者は円建ての保険よりも割安な保険料で、効率良く資産形成ができる保険を手に入れられます。
その他にも、外貨建て保険は米ドルや豪ドルの資産になるので、資産の多くが円資産の人にとっては、通貨を分散することもできます。
一方で、外貨建て保険は加入するにあたって注意しておきたい点もあります。
名前の通り「外貨建て」なので、日本国内で生活している人にとっては、外貨で保険料を払うのも保険金等を受け取るのも日常的ではなく、仕組みを理解するところから始める必要があります。
保険料を払う時は円を外貨へ交換し、保険金や年金・解約返戻金を受け取る時は外貨から円へ戻す必要があり、この時に為替手数料が発生します。
また、為替レートは固定ではないので、保険料や保険金額が変動します。
基本的に円を外貨へ交換する時に円高だと沢山の外貨を得られるメリットがあり、外貨から円へ戻すときに円安だと沢山の円を得られるメリットがあります。
しかし、反対に円安で外貨にし、円高で円に戻すようなことになると、為替差損が発生するデメリットが生じてしまいます。
外貨建て保険は円建て保険よりも仕組みが複雑なので、内容を十分に理解してから加入する必要があります。
特に為替レートの影響により、保険金や解約返戻金の額が円換算で払い込んだ保険料合計より少なくなってしまう可能性があることは注意が必要です。
外貨建て保険の中には貯蓄性のある商品もあれば、そうでない商品もあります。
貯蓄性も考えて外貨建て保険を検討するのであれば、資産を外貨で保有することができるので、保険以外の資産も含めた保有資産全体の中で通貨分散をしたい人は適しています。
日本円より高い金利の通貨を利用して資産形成していけるので、多少のリスクがあっても効率良く貯めていきたい人にも適しています。
さらに、外貨建て保険は保険金や解約返戻金を日本円で受け取らなければならないことはなく、外貨を入金できる口座があれば、外貨のまま受け取って使うこともできます。
例えば米ドル建ての保険なら、保険金受取人や契約者にアメリカへ移住する予定があれば、米ドルのまま受け取って移住後の生活費に充当するような使い方もできます。
この場合、通貨の交換はしないので、為替レートの影響を受けることはなく、為替手数料を負担する必要もありません。
外貨建て保険は円建ての保険と比べて保険内容が複雑です。
保険に限らず内容を理解できない金融商品は購入するべきではないので、外貨建て保険の仕組みを理解するのが難しい人は、加入を避けた方が無難です。
また、外貨建て保険は為替レートの影響を受けて保険料や保険金額が変動しますが、為替レートが毎日のように気になって仕方ない人や、変動することに心理的な抵抗がある人も、加入は避けた方が無難です。
さらに、保険内容を理解できても加入期間を長く確保できない人も避けた方が無難です。
外貨建て保険は為替リスクがあるので、保険料を支払った時よりも解約返戻金等を受け取る時が円高だと、思っていた以上に受取額が少ないかもしれません。
そのようなリスクを避けるためにも、為替レートが好転するまで時間的余裕はあった方が良いですし、時間の経過とともに外貨建て基準で解約返戻金等は貯まっていくので、長期で加入できれば為替レートの影響を和らげることができます。
ほとんどの外貨建て保険には同じ仕組みの円建て商品があるので、外貨建て保険への加入を検討する時は、まずは円建て保険との違いを確認してみると良いです。
例えば、1ドルが100円の時だと10万ドルと1000万円のように、保険金額を同じような価値に設定すると、円建てと外貨建てで支払う保険料や受取人が受け取る保険金額、将来解約した場合の返戻金等の違いがわかります。
利率の違いによる差もわかります。
さらに前提条件を変えて違う為替レートでも比べてみると良いです。
1ドルが150円だとすると、10万ドルと同じような価値は1500万円になります。
保険金額がドルでは同じ10万ドルでも、日本円で1000万円から1500万円へ変われば、円建て保険で支払う保険料は当然大きく変わります。
このように同じ種類の保険商品を比べることで、円建てと外貨建てのどちらを選んだら良いかの判断しやすくなります。
自分にとって外貨建ての方に魅力を感じたなら外貨建て保険を選ぶと良く、為替等のリスクのわりにリターンが小さいと感じたら外貨建てではなく円建ての方を選ぶと良いでしょう。
外貨建て保険同士でも、米ドル建て終身保険と米ドル建て養老保険、米ドル建て個人年金保険では保険内容がかなり違うので、何のために加入するのか目的を今一度確認してみましょう。
保険選びを外貨建てで考えると混乱しそうな場合は、改めて円建ての同じ保険種類で違いを比べると分かりやすいです。
また、通貨分散の観点から保有していない通貨の保険を選ぶのも良いでしょう。
外貨建て保険の通貨は米ドル建てが主流ですが、豪ドル建てやユーロ建てもあります。
選択肢がある時にどの通貨を選ぶかは、その保険に設定されている利率も判断材料として参考になります。
利率は先述した予定利率の他に、積立利率変動型の外貨建て保険であれば積立利率もあり、同じ保険会社でも保険商品によって利率が異なり、通貨によっても異なります。
日本との利率の違いは、国債の利回りを確認するとイメージしやすいです。
外貨建て保険のホームページには日々の利率や為替レートが載っています。
過去の推移も載っていたら、現在の状況が過去と比べて良いのか良くないのかも確認できるので、加入する前に自分で調べてみると良いでしょう。
日々の為替レートは証券会社等のホームページでも確認できます。
国民生活センターの発表情報 によると、外貨建て生命保険に関する相談が増加しており、2018年度は2014年度の3倍以上になっています。
契約数の増加も影響しているでしょうが、高齢者を中心に、為替変動リスクや手数料負担があることを理解していなかったり、生命保険であることを認識せずに契約したりしているようです。
外貨建て保険の加入を検討する際はメリットだけ頭に入れるのではなく、契約に関する諸費用や円建て保険にはない為替レートの影響等を理解するよう努め、疑問点があればそのままにしないで保険会社や保険募集人へ必ず確認し、納得してから加入するようにしましょう。
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