葬儀保険とは?保障内容の特徴や選ぶ際に知っておきたいポイントを解説
いざというときに家族へ迷惑をかけたくない。そんな思いから最近注目されているのが「葬儀保険」です。葬儀費用に備える手段として、シンプルで加入しやすい保険ですが注意点もあります。
この記事では、葬儀保険の特徴や他の保険との違い、選び方のポイントをやさしくお話していきます。
この記事のポイント
- 葬儀保険は、葬儀費用の保障に特化したシンプルな死亡保険。告知のみで加入できる商品が多く、死亡保険金を迅速に受け取ることができるのが特徴である。
- 葬儀保険は、少額短期保険である場合が多いため、税制優遇や保険会社破綻時のセーフティネットはない点に注意が必要である。
- 葬儀保険には加入条件があり、保険料は年齢に比例し上がる。長期加入による、払込保険料が死亡保険金額を上回る元本割れリスクにも注意が必要。
葬儀保険とは

葬儀保険とは、その名のとおり「葬儀費用の備え」として加入する生命保険の一つです。
一般的に掛け捨てで、高額な保障はなく、必要最低限の費用をまかなうことに特化したシンプルな保険です。
葬儀保険の特徴とメリット
葬儀保険の最大の特徴は、保障内容がシンプルで、葬儀費用に特化している点です。
保険金の受取人を遺族に設定することで、手続き後すみやかに葬儀費用を準備することができます。
また、以下のようなメリットもあります。
- 告知のみで加入できる
- 少額短期保険が中心で、保険料が比較的安い
- 葬儀費用以外にも使うことができる
少額短期保険(しょうがくたんきほけん)とは
保険金額が少なく、保険期間が短いのが特徴の保険。「ミニ保険」とも呼ばれる。
なお、「葬儀保険」という名称ですが、万が一のとき、実際に支払われるのは死亡保険金です。つかいみちは必ずしも葬儀費用にあてる必要はありません。
関連記事:少額短期保険とは?保障内容の特徴やメリット・デメリットについてわかりやすく解説
葬儀保険と他の生命保険の違い
葬儀保険は被保険者がお亡くなりになった時に保険金が下りるもので、いわゆる死亡保険のひとつです。
一般的な死亡保険と比較すると、以下のように異なる点があります。
葬儀保険 | 一般的な死亡保険 | |
---|---|---|
保険金額 | 数十万円〜300万円程度 | 数百万円〜数千万円 |
加入年齢 | 50代〜80代中心 | 0歳~70代中心 |
目的 | 葬儀費用の確保 | 遺族の当面の生活費の確保 |
保険期間 | 1年定期・掛け捨て | 定期もしくは終身 |
葬儀社への直接支払 | できるものもある | できない |
生命保険料控除 | 少額短期保険の場合、対象外 | 対象 |
相続税の非課税枠 | 少額短期保険の場合、なし | あり |
保険会社破綻時の | 少額短期保険の場合、なし | 保険契約者保護機構による補償 |
葬儀保険を一般的な死亡保険と比較すると、保険金額は小さく、保険期間は短いのが特徴です。
加入できるのは、シニアの方のみ、といったものは多く、20代や40代から加入できるものもありますが、数は限られます。
一般的な死亡保険は主に残された家族の当面の生活費の確保を目的としていますが、葬儀保険は葬儀費用の確保を目的としており、保険金を葬儀社に直接支払い、葬儀費用を精算できるものもあります。
なお、葬儀保険の多くは少額短期保険であるため、生命保険料控除の対象外となります。
また、同様に死亡保険金に相続税の非課税枠の適用はなく、保険会社破綻時のセーフティネットはありません。万が一のときには、供託金から補償をうけることとなります。
関連記事;生命保険は終身(貯蓄型)・定期(掛け捨て)どちらがおすすめ?違いを比較!
葬儀保険が注目される背景
最近、葬儀保険が注目されているのには、社会的な背景があります。
医療の進展にともない、長寿化が進む一方、社会構造の変化や価値観の多様化により、年を重ねておひとりで暮らす方が増加しています。「家族に迷惑をかけたくない」という想いからいわゆる「終活」を始める方が増えています。
日本社会の高齢化と単身高齢者の増加
内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によると、65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合(高齢化率)は29.1%で約3割です。過去70年間、右肩上がりで増加しており、今後もさらなる増加が見込まれています。
さらに、単身で暮らす高齢者も増加しています。高齢者世帯のうち、単身世帯は31.8%です。夫婦のみの世帯(32.1%)に次いで2番目に多く、2050年には男性の4人に1人、女性の3人に1人が一人暮らしになると予測されています。
家族との同居が前提ではなくなる中、ご自身の最期を自分で準備する「終活」の一環として、葬儀保険が注目されています。
葬儀にはまとまったお金が必要
葬儀には数十万円から数百万円の費用がかかることが一般的です。
経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、2024年の葬儀1件あたりの平均金額は約122万円でした。

※出典:経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」よりコのほけん!編集部が図を作成
最近では、故人の見送り方が多様化しており、家族や親しい友人を中心に営む家族葬が主流になりつつありますが、家族葬の場合、必要となる金額の目安は30万円~120万円です。
一方、葬儀を執り行う遺族のするべきことは多いです。そのうえ、万が一の際は銀行口座が凍結されたりして、故人の口座からは葬儀に必要な金額を引き出せないケースもあります。
もし事前に葬儀保険を含む死亡保険に加入していれば、万が一のとき、あらかじめ指定していた受取人に死亡保険金が支払われます。
手続き後すみやかに受取人の口座に振込まれるため、葬儀を担う遺族の「資金繰り」にかかる負担を軽くする助けとなることでしょう。
とくに相続人がいない方や、親族に経済的な負担をかけたくない方は、万が一のとき葬儀費用を工面する方法について、事前に確認しておくことが重要です。
葬儀保険を選ぶ際に知っておきたいポイント

葬儀保険にはさまざまなものがあるため、いざ葬儀保険に加入しようと思っても、どれを選べばよいのかわからない、という方は多いはずです。
ここでは、葬儀保険に加入する場合に、確認すべきポイントについてお話します。
加入時には告知義務や加入条件(年齢・健康状態など)がある
葬儀保険に入る際には「告知義務」といって、被保険者のかたは現在の健康状態などについて、告知にありのままに答える義務があります。
もしわざと正しく告知しなかったりすると「告知義務違反」として契約解除となる可能性があります。聞かれていることには、誠実に告知しましょう。
告知項目は商品ごとに異なりますが、例えば以下のようなものがあります。
- 身長/体重
- 職業
- 現在の健康状態
- 過去6ヵ月の健康状態
- 過去5年の傷病歴
葬儀保険は、医師の診査が不要で告知のみで加入できる、というものが多いです。
ただし、そうはいっても、健康状態によっては加入できなかったり、一部不担保となるケースがあります。以下の持病がある方は加入が難しい可能性があります。
- 認知症
- 統合失調症
- アルツハイマー病
- パーキンソン病
- 筋ジストロフィー
- 心筋症
- 心不全
- 腎不全
- 肝硬変
- 人工透析 など
なお、持病がある方でも入りやすい「限定告知型」や「引受緩和型」の葬儀保険もありますが、加入は慎重に検討したほうがいいでしょう。保険料は割高に設定されています。
また、加入の際には年齢要件もあります。一度加入すると、90歳を超えて続けて加入できるものは多いですが、80歳を超えると新たに加入できるものは少なくなります。
何歳まで加入できるかどうかは商品ごとに異なります。あらかじめ確認しましょう。
関連記事:保険加入時の告知の重要性・生命保険に加入するときの注意点
加入時の年齢や保険金額によって保険料は変わる
葬儀保険の保険料は、高度な計算により算出された確率などをもとに設定されています。
例えば葬儀保険を含む死亡保険で、参考とされている指標の1つに「平均余命」というものがありますが、これは、その年齢時点で考えられる平均的な人の余命です。
高齢期における平均余命は、年を重ねるにつれ短くなっていきます。「令和5年簡易生命表」を参照すると、女性の平均余命は80歳で11.81年、85歳で8.33年、90歳で5.53年、といったかたちです。
葬儀保険の保険料は一般的に、平均余命の変化に比例するように上がっていきます。つまり、契約もしくは更新時には、年齢を重ねるにつれ、保険料は上がるのです。
長期加入により、払込保険料が死亡保険金額を上回る「元本割れ」となる可能性もあります。
何歳まで生きるか、といったことは誰にもわかりませんが、あくまで平均余命を生きなかった場合に、経済的な利益がでるもの、といったことを理解しておくことは重要でしょう。
保険料の見通しをクリアにしたいなら、保険料が変わらないかわりに保険金額が徐々に減るタイプの葬儀保険もありますが、平均余命を超えて長生きすると元本割れとなる可能性がある点は同じです。
長く払い続けるつもりなら、払込保険料が保険金額を超える可能性をふまえ、「何歳まで支払うのか」「支払総額はいくらになるのか」をシミュレーションしておきましょう。
葬儀費用をすみやかに準備できる商品が多い
葬儀保険は葬儀費用の準備に特化しているため、葬儀費用をすみやかに確保できるものが多いです。
提携先の葬儀社での葬儀なら、死亡保険金を直接葬儀社に支払い、葬儀費用を清算してくれるものもあります。
死亡保険金を受取人が受け取る場合は、一般的な死亡保険同様に葬儀費用保険会社が請求を受理した後、5営業日以内に支払い、といったものが一般的ですが、当日や翌営業日に支払いが可能、といったものもあります。
ただし、あくまで不備のない手続きが前提となっていることには注意が必要です。
請求手続きや受け取り方法は保険会社によって異なります。契約前に、請求手続きの仕方や受け取り方法についても比較検討するといいでしょう。
まとめ
葬儀保険は、自分の最期を見送ってくれる方へのおもいやりをわかりやすく残せるものです。今後家族のかたちの多様化やおひとり様の増加にともない、ニーズは高まってくることでしょう。
ただ、まだ新しい分野の保険であり、実際には一般的な死亡保険と比較したときベネフィットが少ないものもあります。
シンプルで加入しやすい反面、長生きにより保険料負担が重くなってしまうため、長生きしたときの経済的な不安は軽減できるのか、といった点にも注意が必要でしょう。
加入前には加入の目的を確認し、複数の商品を比較検討するよう心がけましょう。望ましい備え方にあわせて商品を選ぶことが、よりよい終活への第一歩となります。
迷ったときは、ライフプランに詳しい専門家に相談することも検討してください。