労災保険とはどんな制度?申請手続きの流れや書類の書き方とは?
労災保険は雇われている労働者であれば誰にでも適用される制度です。しかし、詳しく知らない人も多いのではないでしょうか。そこで、労災保険はどのような状況で適用されるのか制度内容や申請方法についてお伝えします。
労災保険とはどんな制度?
労災保険とは
労働者が業務上または通勤中の災害によって、病気や怪我をしたり障害を負ったり、死亡したりした場合に保険給付を行う制度です。
公務員など適用除外の事業もありますが、原則、労働者を雇用する事業所は事業の規模等にかかわらず労災保険の適用を受けます。
正社員、パート、アルバイトなど雇用形態は関係ありませんが、会社の役員には労災保険は適用されません。また、現在フリーランスも原則労災保険適用外ですが、業務委託を受けて働くすべてのフリーランスが労災保険に加入できるよう、2024年秋法改正を目指して議論が進められているところです。なお、労災保険の保険料は事業主が負担します。
労災保険の給付が行われる災害とは?
業務災害
業務災害とは
業務を原因として発生した災害を言います。事業主の支配下での業務であること、業務に起因していることが労災保険給付の認定基準です。
したがって仕事中に行っていた私用行為、自然災害によるもの、休憩中は業務災害と認められません。ただし、自然災害や休憩時間中であっても事業所内の施設や設備などの管理が原因で発生した災害は業務災害と認められます。
通勤災害
通勤災害とは
通勤中の災害を言います。
ここでいう「通勤」とは
- 家と就業場所の往復
- 就業場所から次の就業場所への移動
- 単身赴任先と帰省先の移動
を言います。
また、この移動においては経路を逸脱したり中断したりした場合は、その後の移動は「通勤」とはなりません。
仕事帰りに飲みに行き、その帰りに怪我をしたとしても経路の逸脱・中断が発生しているため「通勤」とみなされず、通勤災害として認められないということです。ただし、例外として日用品の購入や病院で診察を受けるなど日常生活において必要な行為で、最小限の範囲で行う場合は、その後、合理的な経路に戻って移動すれば再び通勤と認められます。
複数業務要因災害
複数業務要因災害とは
複数の事業所で働いていたことを原因とする災害を言います。
対象となるのは脳・心臓疾患や精神疾患などです。一つの事業所での負荷なら災害と認められない場合でも、複数の事業所で働いていたためにストレスや稼働時間が増え負荷が大きくなることがあります。複数業務要因災害では、このような場合に、総合的に判断して労災認定が行われます。
労災保険の給付内容とは?
下記は労災保険における給付の種類です。業務災害の場合に「補償」という言葉がつき、通勤災害の場合には「補償」という言葉がつきません。また、下記給付以外にも社会復帰を促進するための特別支給金があります。
療養(補償)給付
療養(補償)給付には、診察等を受ける医療機関によって給付内容が異なります。
療養の給付
労災指定の医療機関等で治療や薬の調剤を無料で受けることができます。
療養の費用の支給
労災指定の医療機関以外の医療機関等で療養を受けた場合、その費用が現金給付されます。
障害(補償)給付
業務災害または通勤災害による傷病が治癒した後に障害が残った場合に給付を受けられます。
障害(補償)年金
障害等級第1級〜 第7級までに該当する場合に支給されます。第1級の場合は、おおよそ給料1日分の313日分、第2級は277日分、第7級は131日分と障害等級が小さくなるにつれ給付額も減ります。
障害(補償)一時金
障害等級第8級〜第14級までに該当する場合に支給されます。障害等級に応じて、おおよそ給料1日分の503日分から56日分の一時金が支給されます。
休業(補償)給付
業務災害または通勤災害における傷病によって働けず、賃金を受けられない場合に 休業4日目からおおよそ給料の6割の給付金が支給されます。
遺族(補償)給付
業務災害または通勤災害で死亡した場合に支給されます。
遺族(補償)年金
その労働者によって生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹がいる場合に優先順位の高い受給権者に支給されます。遺族の数等に応じておおよそ給料1日分の153日分から245日分の年金が支給されます。
遺族(補償)一時金
遺族(補償)年金を受け取る遺族がいない場合などに支給されます。
葬祭料(埋葬給付)
業務災害または通勤災害で死亡した人を埋葬する時に支給されます。
傷病(補償)年金
業務災害または通勤災害による傷病が療養開始後1年6か月を経過しても治癒していない、かつ傷病等級に該当する場合に、傷病等級に応じておおよそ給料1日分の 245日分から313日分の年金が支給されます。
介護補償給付
障害(補償)年金または傷病(補償)年金の受給者で第1級または第2級(精神・ 神経の障害および胸腹部臓器の障害)であり、介護を受けている場合に支給されます。
二次健康診断等給付
定期健康診断において血圧検査などで異常の所見があると診断された場合、二次健康診断および特定保健指導を受けられます。
労災保険の申請手順
どの給付を受けるかによって申請手順は異なりますが、ここでは業務災害や通勤災害で傷病した場合に受けられる療養(補償)給付の申請手順についてお伝えします。
1:会社に報告
災害が発生したことや災害状況などの詳細をまずは会社に報告します。
2:労災の請求書を提出
請求書は厚生労働省のホームページからダウンロードできます。労災の請求は被災した労働者本人が行うものですが、会社が代行してくれる場合もあります。請求書も会社が準備してくれるかもしれませんから、この場合は会社の指示に従いましょう。なお、受診する医療機関によって請求書の提出先が異なります。
・労災指定医療機関等で受診する場合(療養の給付)
請求書に会社の証明を受けた上で、指定医療機関等に提出します。
・労災指定医療機関等以外の医療機関で受診する場合(療養の費用の支給)
請求書に会社の証明と診察を行った医師の証明を受けた上で、労働基準監督署に提出します。
3:労働基準監督署で調査が行われる
労働災害にあたるかどうか調査の上、判断されます。
4:治療費等が支払われる
労働災害として認められれば保険給付が行われます。労災指定医療機関等で受診した場合は、医療機関に直接治療費が支払われ、指定医療機関等以外の医療機関で受診した場合は、請求人の口座に振り込まれます。
労災保険の請求書の書き方
労災指定医療機関等で受診(療養の給付)か指定医療機関等以外で受診(療養の費用の支給)かによって書式は異なりますが、いずれの請求書も名前や住所のほか、災害発生状況などを記入します。参考までに療養の給付の請求書を見てみましょう。
①負傷又は発病年月日・負傷又は発病の時刻
事故の発生日時または発病の日時を記入します。
②災害の原因及び発生状況
どこで、どのような状況でどのような災害が発生したのか詳しく具体的に書きます。
③指定病院等の名称・所在地
治療を受けている医療機関の名前と住所を記入します。
④事業主の証明
会社から証明を受けます。
なお、労災指定医療機関等以外で受診した場合は、被災労働者本人が支払ったことがわかる領収書の添付が必要です。そのほかにも付き添い人の費用や通院にかかった費用があれば請求できますが、この場合も領収書の添付が必要です。ただし、通院費については、片道2km以上で近隣に適切な医療機関がないなどの条件に該当した場合に支給されます。
労災保険を受給する際の注意点
労災保険の認定を受けられたとしても注意すべき点があります。確認しておきましょう。
立て替えが発生する
労災指定医療機関等以外で受診した場合は、一旦治療費を支払い、後日、治療費が振り込まれます。その間、立て替えが必要になりますが、健康保険は適用されませんから10割負担の金額を立て替えることになります。
健康保険は使えない
健康保険は労働災害以外の傷病に対して適用できる制度です。労働災害にもかかわらず健康保険を使って受診した場合、労災保険へ変更する必要があります。健康保険から労災保険へ切り替えできる場合は、窓口で支払った金額が返還されますが、切り替えができない場合は、医療費の全額を一旦立て替えた上で、労災保険の請求をすることになります。
治癒とは傷病が治ることではない
給付は症状が治癒するまで行われますが、労災で言う治癒とは完全に傷病等が治ったことを指すわけではなく、症状が安定しこれ以上治療を行っても改善が期待できない状態を言います。
時効がある
労災指定医療機関で受診した場合の給付である「療養の給付」には時効がありませんが、指定医療機関等以外で受診した場合の給付である「療養の費用の支給」には時効があります。費用を支出した日の翌日から2年を経過すると時効となり、費用を請求することはできません。
労災保険でよくある質問
労災保険の申請は誰がしますか?
申請は原則被災した労働者本人が行います。ただし、労働者が手続きすることが困難であれば会社がサポートしてくれることもあります。会社には、請求手続きを手助けする助力義務があります。
労災で入院したら自己負担額はいくらですか?
治療費、入院費、薬代、食事代、パジャマ代など通常治療に必要な費用については自己負担はありません。 ただし、差額ベッド代については絶対安静など特別な理由がなければ自己負担となります。
労災申請には診断書は必要ですか?
療養の給付(労災指定医療機関等で受診)であれば診断書は不要です。ただし、療養の費用の支給(労災指定医療機関等以外の医療機関で受診)の場合、請求書に医師の証明が必要です。
まとめ
ふだん病気やケガで利用する健康保険は労働災害以外に対して適用される保険です。労働災害においては自己負担のない労災の制度がありますから、どちらの保険が適用になるか間違いないようにしましょう。業務上の災害や通勤災害に該当するかもしれないと思ったら会社に相談し、正しく手続きをして治療にあたりましょう。