更新日:2024年12月23日
認知症は誰もがなる可能性のある疾患ながら、これまで治療が難しいとされてきました。しかし、近年認知症の約6割を占めるアルツハイマー型認知症の新たな治療薬が承認されたことで、早期段階での進行の抑制が期待されており、認知症の早期発見や早期治療への備えが注目されています。 この記事では認知症の早期発見や治療費の備えに活用できる認知症保険についてお話します。
認知症保険とは、認知症の治療や介護に必要なお金をカバーする保険です。保険期間は5年や10年など、期間を一定とする定期タイプと一生涯つづく終身タイプがあり、契約可能年齢は、40歳から80歳前後までとするものが多いです。
認知症の保障のみに絞ったものが多いですが、少額の死亡保険金を受け取れるものもあります。一般的に認知症保険の主な保障内容として、以下のようなものがあります。
初めて医師により認知症と診断されたときなどに一時金を受けることができます。保障の対象となる認知症は、器質性認知症とするものが多く、また医師による診断確定とあわせて公的介護保険制度において要介護1以上であるなど、介護状態に関する要件を設けているものもあります。
なお、器質性認知症とは、何らかの原因によって脳そのものの構造的・形状的な性質が障害されて起こる認知症です。脳内にたまった異常なたんぱく質により神経細胞が破壊され、脳が萎縮するアルツハイマー型認知症が代表的で、厚生労働省の資料によれば、アルツハイマー型認知症は認知症の67.6%、若年性認知症においては52.6%を占めています。
参考資料:厚生労働省社会保障審議会「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(第2回)資料2」
認知症により、要介護1や要介護2以上など、一定の介護状態になった時に給付金が支払われます。給付金は年金形式で支払われるのが一般的ですが、一時金で支払われるものもあります。
初めて軽度認知障害(MCI)と医師により診断を確定されたときに一時金を受けることができます。特約の付加が必要な場合もあります。
なお、軽度認知障害(MCI)とは認知症と健常な状態の「中間のような状態」です。放置すれば1年で5~15%程度が認知症に移行しますが、適切な予防をすることで16~41%程度、健常な状態に戻ると言われています。
参考資料:日本神経学会「認知症疾患ガイドライン2017」
参考資料:国立研究開発法人国立長寿医療研究センター「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」
厚生労働省の資料によれば、国内の認知症患者数は2012年時点で462万で、2060年には850万人(65歳以上の4人に1人)、多いケースだと1,154万人(65歳以上の3人に1人)になると推計されています。
年齢別の認知症有病率を見てみると、85歳以上では女性は2人に1人、男性は2.8人に1人が認知症です。さらに90歳以上では男性は2.3人に1人、女性では1.4人に1人が認知症となっていることから、だれでもなる可能性がある疾患と言われています。
参照:厚生労働省社会保障審議会「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(第2回)資料2参考1」 を元にコのほけん!編集部でグラフ作成
認知症になると生活する上でさまざまな支障が出てくるため、介護費や医療費が必要となります。厚生労働省「わが国における認知症の経済的影響に関する研究(2015年3月)」によると、認知症ではない場合と比較すると、介護費・医療費いずれもかさむ傾向にあると推計されています。なお、認知症により必要になる医療費の推計は以下のとおりでした。
また認知症があることによって、入院においては医療費が0.85倍に、外来においては1割負担の場合で1,370円増えることが推計されています。
介護費用については、以下のように推計されています。
【在宅】月約18万円(1割負担の場合)
【施設】月約29万円(1割負担の場合)
居宅サービス、居宅介護支援、地域密着型サービス、施設サービスいずれにおいても、認知症でない場合より介護費用が多くなることが推測されています。特に、居宅サービスでは1.4倍、居宅介護支援では1.39倍と、費用がかさむ傾向にあることがわかっています。
老後医療や介護に必要となる費用は、公的医療保険や公的介護保険など、公的制度を活用し、預貯金によって備えるのがセオリーですが、認知症の場合は資金管理能力が低下することが考えられます。
不要な買い物により大きく預貯金額を減らしてしまう事例も見受けられます。また老後資金準備が十分ではない場合、晩年に必要な金額を拠出できない、という可能性もあるでしょう。認知症保険を活用することによって、認知症となった場合に必要になる費用の確保をしやすくなることが期待されます。
また、近年ではアルツハイマー型認知症の新たな治療薬が承認されたことで、早期段階での進行の抑制が期待されていることから、予防の取り組みに着目した認知症保険が増えてきました。
例えば、前述した軽度認知障害保障では、軽度認知障害(MCI)と診断されると給付金が受け取れるため、新薬を利用するなど、MCIからの回復費用にあてることができます。
また、契約後、認知症になっていない場合にMCIスクリーニング検査費用にあてることができる予防給付金を受け取れるものや、70歳時点での残存歯数によって保険料が割り引きになるものなどもあります。認知症保険を活用することにより、スムーズに認知症予防に取り組むことができるでしょう。
認知症保険に向いている方は以下のような方です。
老後資金を準備できている場合でも、寿命がわからない中、取り崩すことに不安を抱える方は多くいらっしゃいます。前述のとおり、認知症の場合、医療費や介護費がかさむ傾向にあります。年金だけでは不足し、資産の取り崩しが必要となる方もいらっしゃるでしょう。
認知症保険に加入しておくことによって、認知症となった場合の資産の取り崩しスピードをゆるやかにすることが期待されます。なお、老後資金が不足する場合、老後に必要な医療・介護資金を確保することが難しくなることも考えられます。認知症保険では一定の介護状態などになったとき以後の保険料の払込が免除されるものもあります。そういった認知症保険であれば、老後資金が不足する場合でも認知症に備える資金を準備しやすいでしょう。
認知症保険では、前述のとおり軽度認知障害(MCI)も保障されるものが多くあり、商品によって認知症予防の取り組みを応援するしくみをもつものもあります。こういったしくみを活用することにより、スムーズに認知症予防の取り組みをすすめられることが期待されます。また認知症保険には心身の健康や介護の不安をサポートするサービスが付帯されているものが多いです。認知症だけでなく、介護予防にも活用できるでしょう。
認知症になると、医療費や介護費用の負担が増加することが見込まれますが、公的制度によらない周囲の人たちなどからの手助けを受けることもあります。厚生労働省「わが国における認知症の経済的影響に関する研究(2015年3月)」によれば、このようなインフォーマルケアに要する時間は要介護者1 人あたり週に25.71 時間で、要介護度が上がるにつれて増加することが推察されています。家族からサポートを受ける場合、勤務先やお仕事状況によっては家族の経済的な損失が大きくなる可能性もあります。
認知症保険の仕組みを活用することで認知症予防に取り組んだり、あらかじめ一定の認知症に備える資金を確保することによりご家族への負担を軽減することが期待されます。
認知症保険を検討する際は、複数の商品を比較した上で検討しましょう。その際、特に確認したいのは以下の3点です。
まずは保障内容を確認しましょう。認知症保険の一般的な主な保障内容は前述のとおりですが、すべてを備えられるものは少なく、内容は商品ごとに異なります。例えば、認知症介護保障の場合では、年金で払われるものと一時金で払われるものがあり、受取り方法は異なります。なお、年金と一時金両方選べるものもあります。施設への入居を想定すると、年金形式の方が施設選びの際、選択肢を増やせる可能性があります。一方で一時金で受け取る場合は、自宅のリフォームなどの使いみちにあてることもできるでしょう。
給付金等の支払い条件についても確認しましょう。例えば、前述した認知症介護保障の場合、支給要件を要介護1以上とするものや要介護2以上とするものがあります。また、認知症診断一時金の場合、器質性認知症を対象とするものは多いものの、その他の認知症も対象となるものもあります。
保険料についても確認しましょう。認知症保険は終身払いのものと有期払いのものがあります。有期払いを選択する場合、保険料は高くなりますが、老後を迎える前に保険料の払い込みを終えることも可能でしょう。保険料の負担を抑えたい場合は、終身払いがいいでしょう。なお、保険料が安いものは、支払い要件もあわせて確認しましょう。一定の介護状態に関する要件があるなど、支払い要件が厳しい傾向です。
認知症保険を検討する際には注意点もあります。ここでは3つあげ解説します。
認知症保険のほとんどは告知により加入することができます。告知項目は4つ程度とするものは多く、簡単な告知で加入できるものもありますが、すでに認知症・MCIと診断されている方や、要介護・要支援認定を受けている方は加入できないことが多いです。日常生活において周囲からのサポートが必要になる前段階での加入検討が必要でしょう。
商品によって保障の不担保期間を設けているものもあります。不担保期間は商品ごと、保障ごとにもうけられており、契約成立から90日、半年、1年、2年など、異なります。不担保期間がある場合、その期間内に支払い要件にあてはまったとしても保障は受けられず、無効となります。
認知症になり徘徊がはじまると事故の当事者となってしまう可能性も考えられます。もしも事故を起こしてしまった場合、賠償責任を負うことがありますが、認知症保険ではこのような賠償責任には備えることができません。認知症の事故による賠償責任に備えたい場合は、別途個人賠償責任補償などを備えた損害保険への加入が必要となります。
認知症保険では多くの場合、指定代理人請求特約を付加することにより給付金の請求を指定代理人が行えるようになっています。
ただし、認知症になると、本人名義の預貯金口座が凍結される可能性もあり、せっかく振込まれても自由に引き出せなくなってしまうため、事前に銀行で代理カードを作成しておくなどの対策があわせて必要となります。
なお、振込まれる銀行口座は被保険者のものとなるのが一般的ですが、指定代理人の口座で受け取れるものもあります。認知症保険を検討する際は、保障などの内容はもちろん、給付金受取り時の状況も考慮した上で、家計と照らしあわせつつ検討しましょう。
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