更新日:2024年5月14日
法人保険とは、法人が契約者となって加入する保険を指します。 ここでは損害保険ではなく、法人向けの生命保険を中心に、法人が意識すべきリスクやそれに対してどういった保険を検討したらいいか、法人保険のメリットデメリットなどを解説します。
「法人保険」と聞くと、個人が加入するような一般的な「生命保険(死亡保険)」とは全く異なる、何か特殊な保険の種類というイメージを持たれる方がおられるようです。
しかし、実際にはそんなことはなく、「法人保険」は契約者が個人ではなく法人(企業)であるだけで、保険の基本的な種類としては個人が加入する生命保険とほぼ同じといって差し支えありません。
ここで、「個人」とは自然人、すなわち生身の人間のことをいうのに対して、「法人」とは「株式会社」「合同会社」といった企業組織であり、これらの組織も法律上では「人」と認められることから、生命保険の当事者(保険契約者・保険金受取人)になることができます。
しかし、生命保険である以上、被保険者(この人に事故があると保険金が下りるという対象者)は個人(自然人)しか設定することができませんが、ここでいう個人もあくまで法人関係者である個人(役員・従業員など)ということになります。
契約当事者 | 保険契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 |
---|---|---|---|
生命(個人)保険 | 個人 | 個人 | 個人 |
法人保険 | 法人 | 個人(役員・従業員など) | 原則として法人 |
まずは、「法人保険」といっても、契約当事者が個人か法人かの違いであって、個人が加入する保険と基本的に同じ種類のものを選択しているにすぎないことをご理解いただければよいでしょう。
個人は必ずしも事業活動(営利)に関係のないプライベートの側面が強く、一般的には遺族の生活保障が主な保障目的であるのに対して、法人は原則として営利のみを目的として存在し、事業の失敗や福利厚生など多岐にわたるリスクをカバーする保障が求められます。
これによって、個人と法人では、生命保険によって保障すべきリスクのターゲットが自ずと異なることになります。
法人が事業活動を行うに当たり見据えておくべきリスクの種類は、一般的には下記の4種類を挙げることができます。
図1
事業活動には例えば下記のようなリスクがあります。
最近では、新型コロナウイルス感染症の蔓延を契機とした経済活動の減衰によって、資金繰りが急激に悪化する例もありました。
このように、経営者は、通常の事業活動を行うだけでも経営破綻のリスクにさらされていますが、資金の枯渇による経営破綻という結果を招来しないためには、自社にとって必要な資金需要の規模を適切に把握し、経営者に万一の事態が発生した際に、借入金・仕入債務・従業員退職金などを満足に払い終えられるための資金的な手当てをしておくことが望まれます。
そこで、上記の事業活動に対するリスク全般に対応するために、保険契約者・保険金受取人を法人、被保険者を経営者として生命保険に加入することが有効となります。
経営者も人間である以上いずれリタイアの時期が到来しますが、従業員と同じ目線で退職金の支給額を検討することは必ずしも適切ではありません。
その理由は、経営者は、従業員と異なり上記(1)の事業活動リスクを負担しており、それに見合う報酬の給付を受けて然しかるべきでしょう。
また、従業員は基本的には経営状況の悪化に関係なく、就業規則などによって一定額の退職金が支給される一方、経営者の役員退職金はこれまでの企業成長の報償としての性格が強く、支給額の規模についても従業員より相当高額になる傾向があります。
ちなみに、税務上では、支給限度額について、下記の功績倍率法という方法が認められていますが、これについては、あらかじめ「役員退職慰労金規程」を作成して支給額の根拠を明確にしておくことが望まれます。
このように、経営者の退職は、従業員の退職に比べて、高額になる特徴がありますが、役員退職金を支給する時点において、社内にその原資が存在するとは限りません。
そこで、いずれは(何十年後には)訪れるであろう経営者の退職という長期的なスパンを見据えて、現時点から生命保険を活用して退職金の原資を外部に確保する(生命保険に加入する)という手法が採られることが一般的です。
具体的には、
②経営者の退職時にその保険を解約する
③その解約返戻金を原資として、「役員退職金」を経営者に支給する
というものです。
役員退職金は、税制上は在職時の役員報酬(給与所得)よりも優遇されており、所定の方法により算定した退職所得控除額を超えた金額のみ「退職所得」として所得税の課税対象になります。
中小企業は経営者の親族(通常は子ども)に事業承継させることが一般的です。
事業承継は、取締役という経営権を次期経営者が継承することの他に、経営者の保有していたその法人の株式を次期経営者が継承する必要があります。
中小企業(非公開企業)の株式は、大企業(公開企業)の株式のように証券取引所に上場されて客観的な株価が判明するものではありませんが、中小企業の株式についても、過去の業績や所有する資産・負債の時価を反映した税務上の株価を算出して、先代経営者の死亡時には、その株式が相続財産を構成して相続税の課税対象になります。
このように、先代経営者の株式を次期経営者に移転させるには、次期経営者に課税に耐えうる資金力がなければならず、そのためのひとつの手法として生命保険を活用する方法があります。
具体的には、
②先代経営者の死亡時に、法人が受け取った保険金を原資として、「死亡退職金」として先代経営者の親族である次期経営者に支給して、次期経営者の相続税の原資を確保する
というものです。
殊に、死亡退職金を相続人である次期経営者が受給した場合には、「500万円×法定相続人の数」という相続税の非課税枠が適用され、その非課税枠を超えた金額のみ相続税の課税対象となります。
我が国の人口は減少傾向が顕著となり、とりわけ、就業人口の減少が著しく、中長期的な人材確保を喫緊の経営課題と捉える企業が多くなっています。
中長期的な売り手市場の環境下で、自社が従業員から選ばれ、長期にわたり自社にコミットしてもらうために、給与賞与といった分かりやすい待遇面の改善の他に、各種の福利厚生の充実に力を入れる企業も現れています。
福利厚生というと、社宅・社員旅行が第一に想起されますが、従業員に万一の事態が発生した際にその親族の生活を下支えする制度を整えておくことも立派な福利厚生といえるでしょう。
具体的には、
・保険契約者・保険金受取人を法人、被保険者を従業員として生命保険に加入して、従業員の死亡時に、法人が受け取った保険金を原資として、遺族に弔慰金・見舞金を支給する
・保険契約者を法人、保険金受取人を従業員の親族、被保険者を従業員として生命保険に加入して、従業員の死亡時に、従業員の親族が直接保険金を受け取って生活資金に充てる
といった福利厚生制度を設けている企業があります。
上記1でご説明したとおり、「法人保険」は契約者が個人ではなく法人(企業)であるだけで、保険の基本的な種類としては個人が加入する生命保険の種類とほぼ同じといって差し支えなく、下記にご説明する生命保険の種別及びその変形バージョンを組み合わせることによって法人保険は組み立てられています。
終身保険(しゅうしんほけん)
被保険者が死亡した時に、保険金受取人が保険金を受け取る生命保険のこと。
図2
被保険者は個人しか設定できず、個人はいずれ必ず死亡するため、最終的には必ず保険金を受け取ることができる保険です。
ただし、被保険者本人は死亡のため保険金を受け取ることができず、被保険者以外で設定した保険金受取人が受け取ることになります。
したがって、終身保険は、必ず保険金を受け取ることができる点で、貯蓄型の保険といえ、解約返戻金は死亡時まで一貫して増加のペースを辿ります。
ちなみに、通常の積立貯蓄は、貯蓄した時点の残高しか受け取ることができない反面、終身保険は、仮に契約日の翌日に死亡しても、保険金額を満額受け取ることができるため、これを「貯蓄は三角・保険は四角」と表現されることがありますが、これも保険が有効といわれる理由のひとつです。
図3
養老保険(ようろうほけん)
「被保険者の死亡時」又は「保険契約者の設定した満期時」のいずれか早い時点に、保険金受取人が保険金を受け取る生命保険のこと。
図4
終身保険との違いは保険期間の終盤にあります。
被保険者の死亡時のみが満期
養老保険も必ず保険金を受け取ることができる点で、貯蓄型の保険といえ、解約返戻金は満期時まで増加していきます。
保険契約者の設定した満期時までに被保険者が死亡した時に、保険金受取人が保険金を受け取る生命保険のこと。
養老保険との違いは保険期間の終盤にあります。
満期時と被保険者の死亡時のいずれか早い時点で保険金を受け取ることができる
満期時までに被保険者が死亡した場合のみに受け取ることが可能であり、満期時に被保険者が生存していた場合には、その後被保険者が死亡しても1円たりとも保険金を受け取ることができない
したがって、定期保険は、必ず保険金を受け取ることができるとは限らない点で、掛け捨て型の保険といえます。
しかし、定期保険の仕組みのとおり、定期保険にも解約返戻金が一定程度発生することがあります。
これは、定期保険の保険期間が長期に及ぶ場合には、死亡保険金の支払に使用されない余剰の保険料が契約の初期に発生し、これを保険会社が運用することによって解約返戻金が蓄積するからです。
しかし、あくまで掛け捨て型の保険であり、平均寿命の前後から死亡保険金の支払に使用されることによって解約返戻金額が急激に減少して、最終的には満期時に0円となります。
上記2において、法人が事業活動を行うに当たり見据えておくべきリスクを4種類ご紹介しましたが、それぞれのリスクにおいて、上記3のどの生命保険を当てはめることが相応しいのでしょうか。
現時点又は将来の経営計画を策定している場合にはその終了期間の時点において、経営者に万一の事態が発生した際に、 資金の枯渇による経営破綻を避けるために必要な資金需要の規模を適切に見積もる必要があります。
そして、その見積金額のうち、保有する預貯金の金額や換金可能な有価証券の価額などを控除して、なお不足する金額があれば、その不足額を生命保険において手当てするのがよいでしょう。
具体的には、保険契約者・保険金受取人を法人、被保険者を経営者として生命保険に加入することになりますが、具体的な生命保険の種類はどのように選択するのがよいでしょうか。
上記の資金需要の規模は企業の成長や経営環境の変化によって逐次増減することが想定されますが、この変化に機動的に対応するためには、終身保険・養老保険よりも定期保険を選択し、保障金額を定期的に見直すことが有効でしょう。
また、定期保険は掛捨型の保険であることから、貯蓄型の保険である終身保険・養老保険よりも保険料が割安となります。
上記⑴は経営者の死亡保障という生命保険の本来の機能を期待する場面でしたが、(2)においては、貯蓄機能を期待して生命保険に加入することから、本来は貯蓄型の保険である終身保険・養老保険を検討すべきともいえます。
しかし、貯蓄型の保険は必ず保険金を受け取ることができるために、保険料は損益計算書上の費用(経費)ではなく、外部(保険会社)に貯蓄をしていることと同視されるとの税務上の考え方から、保険料の全額を資産(保険積立金)として計上することを余儀なくされます。
保険料が経費として認められないならば、定期預金を設定することと大差はなく、敢えて生命保険を活用する必要性が乏しいと考える経営者は多いでしょう。
掛け捨て型の保険である定期保険であっても、保険期間が長期に及ぶ場合には解約返戻金が一定程度発生することがあると解説しました。
掛け捨て型の保険は必ず保険金が受け取れるとは限らないことから、原則として保険料の全額が経費になるのですが、この掛捨型である定期保険の保険期間を超長期(例えば50年間や99歳満了など)に設定すればどのような効果が得られるでしょうか。
解約返戻金が最大となる時期に経営者が退職し、かつ、生命保険を解約することによって、その解約返戻金を原資として役員退職金を支給すると仮定します。
そうすると、下記のようなメリットがあります。
しかも、この超長期の定期保険の解約返戻金の蓄積のカーブを更に上昇させるために開発されたのが「逓増定期保険」です。
逓増定期保険は、被保険者が歳をとるにつれて、保険金額が逓増、すなわち、次第に増加する定期保険です。
被保険者が若い時分は死亡率が著しく低く、本来は保険会社が徴収する保険料も低い水準でよいはずですが、逓増定期保険は、その若い時分の保険金額を更に少額に設定することによって、保険金額が一定の(上記3の(3)の)定期保険よりも、死亡保険金の支払に使用されない余剰の保険料をより多く発生させることによって、解約返戻金の蓄積のカーブをより上昇させる特徴があります。
もちろん、定期保険である以上、保険期間の満期時には保険金額も解約返戻金額も0円となりますので、解約返戻金が最大となる時期を見据えて、経営者のリタイアプランを検討することになるでしょう。
図6
事業承継は、上記2の(3)において解説した先代経営者の死亡による相続税対策に止まらず、幅広い選択肢があり、それぞれの選択肢に対応する生命保険の活用が想定されることでしょうが、先代経営者の死亡による相続税の対策という点のみを検討するのであれば、上記(2)の役員退職金の原資の確保と大きな違いはないものと想定されます。
なお、検討開始時点で(先代)経営者が高齢であり上記(2)のような超長期の保険期間が確保できない場合には、定期保険による解約返戻金の蓄積が期待できないため、貯蓄型の保険である終身保険・養老保険に加入し、上記2の(3)において解説した死亡退職金の相続税の非課税枠の活用を主眼とすることも考えられます。
役員・従業員の福利厚生に生命保険を活用する代表例に、養老保険における「ハーフタックスプラン」と呼ばれるものがあります。
具体的には、
ものです。
保険契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 | |
---|---|---|---|
死亡保険金受取人 | 満期保険金受取人 | ||
法人 | 役員・従業員(親族を含む) | 遺族 | 法人 |
ところで、養老保険は貯蓄型の保険であり保険料の全額を資産(保険積立金)として計上することが本来の取扱いです。
しかし、死亡保険金受取人を遺族に設定することによって役員・従業員死亡時の福利厚生に活用できることから、保険料の2分の1相当額を経費(福利厚生費)として計上することが税務上認められています。
また、その役員・従業員の定年時を満期とすることによって退職金の原資の確保にも資することから、残りの2分の1相当額は資産(保険積立金)として計上することを求めています。
現実的には、在職時に死亡するケースは稀でしょうから、たとえ2分の1相当額でも貯蓄型の保険料が経費に計上できるというのは、課税所得の圧縮に寄与するという点で法人にメリットがあるものと考えられます。
この場合、被保険者は役員・従業員全般を対象とする必要があり(3年間など一定年数を勤続した者のみを対象としている企業もあります)、あまり特定の者のみに限定した制度とすると、保険料がその者に対する給与と認定されて、所得税の課税関係が発生することがあるため注意が必要です。
これまでの解説を踏まえて、被保険者を役員・従業員とした場合の生命保険料の税務上の会計処理、具体的には、課税所得の圧縮の効果をもたらす経費に計上できるのか、又は、圧縮の効果をもたらさない資産としての計上を余儀なくされるのかについて解説します。
なお、以下の解説において「第三分野保険」という用語が登場します。
終身保険、養老保険、定期保険といった生命保険のこと
第二分野保険
火災保険・賠償責任保険といった損害保険のこと
第三分野保険
第一分野、第二分野のいずれにも該当しない保険種別をいい、具体的には、医療保険、がん保険、介護保険、傷害保険といった保険種別が該当する
契約者 | 保険金受取人 | 会計処理 | |
---|---|---|---|
死亡保険金 | 生存保険金 | ||
法人 | 法人 | 法人 | 資産計上 |
役員・従業員の 遺族 | 役員・従業員 | 経費計上 (ただし役員・従業員の給与課税) | |
法人 | 50%資産計上、50%経費計上※ |
※ 結果として特定の者のみが対象となる場合には給与課税
契約者 | 保険金受取人 | 会計処理 |
---|---|---|
法人 | 法人 | 期間の経過に応じて100%経費計上 |
役員・従業員またはその遺族 | 期間の経過に応じて100%経費計上※ |
※ 結果として特定の者のみが対象となる場合には給与課税
上記の表の「期間の経過に応じて100%経費計上」について、月払であればそのまま100%経費計上ですが、前払(一時払)における未経過(将来に対応する)保険料はいったん資産計上となり、期間の経過によって順次取り崩して経費計上します。
この場合、保険期間が終身の第三分野保険の保険料を前払(一時払)しているときは、保険期間開始日から被保険者の116歳の誕生日までを保険期間として未経過保険料を資産計上します。
なお、解約返戻金がない又はごく少額で保険料払込期間が保険期間より短い定期保険又は第三分野保険については、被保険者1人当たりの事業年度中の払込保険料(複数の契約がある場合にはその合計額)が30万円以下であれば、100%経費計上できるという少額特例があります。
役員・従業員を被保険者とする保険期間3年以上の定期保険又は第三分野保険で、最高解約返戻率が50%超のものについては、上記(2)の「期間の経過に応じて100%経費計上」も認められず、保険期間の前半については、保険料の一部しか経費として認められず、残額はいったん資産計上をした上で、保険期間の後半まで経費計上が繰り延べられる取扱いとなります。
ここで、最高解約返戻率とは、保険料累計額に対する解約返戻金額の割合が保険期間中最高になる時点におけるその割合をいいます(下図における解約返戻金額が最高額になる時点とは限りません)。
しかし、下記のような解約返戻金の蓄積度合が相対的に低い保険契約については、上記(2)の「期間の経過に応じて100%経費計上」が認められます。
②最高解約返戻率が50%以下の保険契約
③最高解約返戻率が70%以下で、かつ、年換算保険料相当額(保険料総額÷保険期間の年数)が30万円以下の保険契約
一部資産計上期間(A) | 100%経費計上期間(B) | 100%経費計上+資産取崩期間(C) |
---|---|---|
保険期間の | 左右の中間期間 | 保険期間の末期25%期間 |
40%資産計上 | 100%経費計上 | 100%経費計上に加えて過去の資産計上分を均等取崩で経費計上 |
図7
一部資産計上期間(A) | 100%経費計上期間(B) | 100%経費計上+資産取崩期間(C) |
---|---|---|
保険期間の | 左右の中間期間 | 保険期間の末期25%期間 |
60%資産計上 | 100%経費計上 | 100%経費計上に加えて過去の資産計上分を均等取崩で経費計上 |
図8
一部資産計上期間(A) | 100%経費計上期間(B) | 100%経費計上+資産取崩期間(C) | |
---|---|---|---|
最高解約返戻率に達するまでの期間 | 左右の中間期間 | 解約返戻金が最高となった期間が 経過した後の期間(※2) | |
当初10年間 | 11年目以降 | ||
「最高解約返戻率×90%」は資産計上・残額は経費計上 | 「最高解約返戻率×70%」は資産計上・残額は経費計上 | 100%経費計上 | 100%経費計上に加えて過去の資産計上分を均等取崩で経費計上 |
※1:最高解約返戻率に達した後、毎年の解約返戻金増加額が年間保険料の70%超となる期間が継続する場合にはその期間が終了するまで(A)の期間を延長する。
※2:(A)の期間が5年未満の場合には5年間(ただし、保険期間が10年未満の場合は保険期間の50%の期間)。この場合、(B)の期間はなく保険期間の残余期間は全て(C)の期間になる。
図9
なお、上記(2)及び(3)の取扱いは、2019年7月8日以後の保険契約に係る保険料について適用されますので、同日前の保険契約に係る保険料については同年6月28日付けの国税庁長官通達改正前の処理方法に拠ります。
2019年の国税庁長官通達改正前の経費計上・資産計上の取扱いは下記のとおりであり、改正後の取扱いに比して簡素なものでした。
保険種別 | 資産計上期間 | 資産計上割合 | |
---|---|---|---|
長期平準定期保険(定期保険の仕組み参照) | 満期時70歳超かつ「加入時年齢+保険期間×2>105」 | 当初60%期間 | 50% |
逓増定期保険 (逓増定期保険のしくみ参照) | 満期時45歳超 | 50% | |
満期時70歳超かつ「加入時年齢+保険期間×2>95」 | 66.66…% | ||
満期時80歳超かつ「加入時年齢+保険期間×2>120」 | 75% | ||
がん保険 | 終身保障型 | 当初50%期間 | 50% |
医療保険 | 期間の経過に応じて100%経費計上 | ||
長期傷害保険 | 終身保障型 | 当初70%期間 | 75% |
上記以外の第三分野保険 | 個別の取扱いの定めなし |
※資産計上期間の経過後は、100%経費計上に加えて過去の資産計上分を均等取崩で経費計上
個人は加齢によって死亡率が上昇することから、保険期間を1年間とする定期保険を考えた場合、保険料は毎年少しずつ上昇することになる
・平準保険料(へいじゅんほけんりょう)
通常は、保険期間が長期にわたる場合には、保険期間をとおして保険料が平準になるように保険商品が設計されている
相対的に若齢の世代は、「自然保険料<平準保険料」となり、その差額が死亡保険金の支払に使用されない余剰の保険料となり、これが解約返戻金の原資となります。
一方、相対的に高齢の世代は、「自然保険料>平準保険料」、過去に蓄積した解約返戻金を取り崩して死亡保険金の支払に使用されることになります。
図10
定期保険の保険料は、これまでは保険期間が短期間であることを前提に、期間の経過に応じて100%経費計上する取扱いになっていましたが、保険期間が長期に及ぶ定期保険が次第に開発されて、定期保険であっても解約返戻金が多額に蓄積するものが発売されるようになり、従前は上記(1)の表に記載したような経費計上・資産計上の取扱いを定めていたところです。
しかし、最近では、税務上の資産計上を意図的に回避させる(可能な限り経費計上する)かのような保険商品も登場するようになり、実質的には貯蓄型の保険であるにもかかわらず、定期保険であるが故に保険料の全部又は一部が経費になるという状況が恒常的にみられるようになったことから、この状況を看過できないと認識した国税庁は、2019年2月に、解約返戻金が蓄積する生命保険の経費計上・資産計上のルールを厳格化する旨の方針を明らかにしました。
これが報道されたのが2月14日であったことから、生命保険業界では「バレンタインショック」と呼ばれています。
その後、国税庁は、「法人税基本通達等の一部改正について」という法令解釈通達について、意見公募手続を経た上で、2019年6月28日付けで上記5における取扱いを公表しました。
生命保険に限りませんが、違法ではないにせよ、課税庁の立場から見て課税の趣旨に反するような脱法的な行為を助長するような経済的な意思決定については、事後的に課税の網が掛けられることがあります。
例えば、令和5年度税制改正において、
が除外されました。
これは、比較的負担が少なく開業できる事業を立ち上げて税務上の経費の嵩増しを図ろうとする動きに歯止めを掛けたものです。
生命保険税務においても同様であり、当初は「貯蓄型の保険(終身保険・養老保険)は全額資産計上、掛捨型の保険(定期保険など)は経費計上」という単純なルールであったものが、節税を意識した保険商品の開発によって、「経費になるにもかかわらず実質的に貯蓄できる保険」が多く出回るようになり、国税庁は、経費になるタイミングを5.(3)の図7・図8・図9のように後ろ倒しになるように改め、図10の自然保険料のカーブに近似させるようにしたのです。
しかし、こういった納税者にとって不利な税制改正による事後的な網掛けが避けられないといっても、従前から契約していた保険契約にまで遡って適用されることは、日本国憲法に規定する租税法律主義の考え方に相反するとする意見が多く、それなりにハードルが高いものと考えられます。
したがって、節税のメリットを享受したいのであれば、税制改正の網が掛からないうちに早めに行動を起こすという意思決定が必要であるといえるでしょう。
法人保険のメリットとしては下記4点があります。
(2)保険の種類によっては保険料が経費になる
(3)従業員の福利厚生に活用できる
(4)契約者貸付制度の利用
これまでみたように、企業を運営するとさまざまな事業活動リスクに晒されることになり、主要なリスクの全てについて手許の現金預金・換金性のある有価証券によってカバーすることは自ずと限界があります。
こういった際に、「貯蓄は三角・保険は四角」という、少額の保険料によって多額の保障(安心)を得るという生命保険の本来の機能を活用することは、企業の持続可能性を最大化するためには必要な経営意思決定ではないかと考えられます。
これまでにみたように、定期保険のような掛捨型の保険であっても保険期間が超長期に及ぶものについては解約返戻金の蓄積が期待できます。
超長期の定期保険は、保険期間の前半こそ保険料の一部しか経費計上できませんが、保険期間の全体をとおしてみれば、最終的には全額を経費に計上することができます(定期保険は掛捨型の保険であるからです)。
これまでに確認した法人保険に係る保険料の税制改正においても、結局のところは、保険料の経費計上のペースを自然保険料の発生のペースに近似させたにすぎません。
そうすると、税制改正によって納税者に不利に取扱いが変更になったといっても、保険料の経費計上によって課税所得が圧縮されて法人税を節税できる効果がなくなったものではなく、更に、解約返戻金がピークに達する時期に経営者が退職して、解約返戻金を原資とした役員退職金を経費にすることによる法人税の節税ができなくなったものでもありません。
仮に、法人ではなく個人が生命保険料に加入した場合、その保険料に係る税制上の措置は、年間8万円以上の保険料に対して上限4万円の「生命保険料控除」という所得控除があるにすぎません。
一方、法人が生命保険に加入することにより、保険期間を通じて数千万円という保険料が最終的には全額経費となるにもかかわらず実質的な貯蓄が可能となり、高額な役員退職金の支給に備えることができます。
このように、法人を生命保険の契約当事者にすることによって、個人とは大きく異なる規模の節税の可能性が秘められています。
個人であっても事業を展開することはできますが、規模が拡大するに連れて自ずと限界が生じますし、個人に課せられる所得税が超過累進税率(課税所得の増加によって5%から45%の税率が段階的に課せられる)によって重荷になることもあって、法人化(法人成り)との比較検討がなされることがあります。
このように、法人成りを検討するということは事業規模が拡大しているということであり、企業を取り巻く利害関係者(ステイクホルダー)の種類・数も増加することになります。
もちろん、拡大した事業活動を経営者ひとりで行うことには限界があり、従業員を雇用して自社の活動のウイングを広げることも必要となりますが、自社が従業員に選ばれ、かつ、長期安定的に高いパフォーマンスを発揮して貰えるためには、相応の待遇をもって迎えなければなりません。
もちろん、給与賞与といった待遇面の充実も必要でしょうが、従業員に死亡・大怪我といった危難が生じた際に、従業員自身が、又は、その親族が安定した生活基盤を確保できるか、そのための手当てを会社が準備しているかは、その従業員にとって大きな関心事でしょう。
こういった偶発的な事象に対して、少額の保険料をもって多額の保障を得ることができることが生命保険の本来の機能であり、従業員を被保険者とする生命保険を活用することによって、従業員の自社に対するコミットメントの維持に資することになるでしょう。
貯蓄型の保険(終身保険・養老保険)はもちろん、本来は掛捨型の保険(定期保険など)についても、保険期間が長期に及ぶものについては、解約返戻金の蓄積が期待でき、その機能を期待して生命保険に加入する企業は多いことでしょう。
解約返戻金が蓄積することは社外に積立を行っていることと同じ効果を有し、資金繰りが一時的に窮した場合には、その解約返戻金を担保として保険会社から融資を受けることができる場合があります。
しかし、貯蓄型の保険は解約返戻金が減少することがないので担保とすることに特段問題はありませんが、掛捨型の保険(定期保険など)については、いずれは解約返戻金が減少に転じることから、いつまでも一定規模の貸付規模を維持できるものではありません。
また、契約者貸付は、金融機関から受ける融資と同様に、企業にとっては借入金であることに変わりはなく、金利情勢に応じた所定の利息の負担は避けられません(保険会社にとっては契約者貸付も運用形態のひとつです)。
法人保険のデメリットとしては下記2点があります。
(2)保険期間全体をとおしたスケジューリングが必要
たとえ保険料の全額又は一部が経費に計上できるといっても、保険料相当額の資金がいったんは社外に流出し、保険会社に蓄積されることになります。
自社の資金繰りに余裕があれば、現金預金として社内に滞留していた余裕資金を保険会社という外部に移転させ、効果的な運用と経費計上による節税を図ることが可能であるといえるでしょう。
一方、資金繰りに余裕のない企業、又は、資金繰りが一時的かつ急激に悪化した企業にとっては、生命保険に加入することで一定規模の資金が外部(保険会社)に長期かつ固定的に移転することになり、借入金・仕入債務・給与・税金などの支払いに充てる資金が不足する懸念が想定されます。
経営者にとって保険料が経費計上できることは魅力的ではあるものの、自社の身の丈を超える規模の生命保険の加入はキャッシュ・フローの側面から懸念があることも認識しておく必要があるでしょう。
自社が加入した生命保険が掛捨型の保険でありながら解約返戻金が蓄積する保険(定期保険、逓増定期保険)である場合、現在の時点が5.(3)の図7・図8・図9でいう保険期間全体の(A)(B)(C)のいずれの期間に当たるかを予め把握して、それぞれの期間に応じた保険料の経費計上・資産計上の会計処理を行わなければなりません。
保険期間が超長期に及ぶと、5.(3)の図7・図8・図9の(A)から(B)、(B)から(C)に移行していることに気が付かず、また、経理担当者の異動によって、漫然と前期(前任者)と同様の会計処理を行ってしまうことがあります。
また、同じく掛捨型の保険でありながら解約返戻金が蓄積する保険(定期保険、逓増定期保険)である場合、解約返戻金が一定の時点でピークに達し、その後は急激な減少に転じて最終的には0円となります。
しかし、解約返戻金のピークの時期を認識せずに経営者の退職時期を決めてしまうと、得られたはずの解約返戻金が得られないことになりかねません。
このように、保険料の時期に応じた会計処理を誤ると税務調査において指摘を受けることになりますし、解約時期のスケジューリングを誤ると結果的に逸失利益が発生することになりますので、保険プランナーや関与税理士と緊密に連携を取りながら、遺漏のない会計処理・意思決定を行う必要があります。
法人保険は、企業が対応すべきリスクが広範であり、そのリスクに対応すべく保険種別のバリエーションも多様であるため、個人が加入する生命保険に比べて難解なイメージを抱かれるかもしれません。
しかし、税制面を含めた知識及び経験を備えた保険プランナーに自社の実情を前広に相談することによって、星雲状態とも思える保険種類の中から、自社が抱えるリスクをカバーするにふさわしい保障内容・保障金額の最適解を提案してもらえることでしょう。
併せて、この記事のボリュームの多くを保険料の税務上の会計処理が占めたように、法人保険をプランニングするに当たっては、税制面の考慮を抜きにしては成り立ちませんし、資金繰りを過度に悪化させてまで大規模な法人保険に加入するのは本末転倒といえますから、自社の財務内容をよく把握している関与税理士などの専門家にも意見を求めつつ、長期にわたり継続できる法人保険を選択することが何より肝要といえるでしょう。