寡婦年金(かふねんきん)とは ?遺族年金との違いや申請方法などわかりやすく大解説
寡婦年金は、個人事業主などの夫が亡くなった場合に妻が受け取ることができる年金です。しかし、家族が亡くなった時に受け取れる年金には、寡婦年金以外にも遺族年金や死亡一時金があります。それら年金との違いは何か、寡婦年金を受け取れる人の要件は何かなど、寡婦年金について詳しくお伝えします。
寡婦年金(かふねんきん)とは?
寡婦年金を理解するには、少し年金の基礎知識が必要です。
まず、日本に住んでいる人は20歳になると国民年金に加入します。国民年金加入者は3種類に分けられ、学生や個人事業主は第1号被保険者、会社員や公務員は第2号被保険者、第2号被保険者に扶養されている人は第3号被保険者です。
- 第1号被保険者:学生や個人事業主
- 第2号被保険者:会社員や公務員
- 第3号被保険者:第2号被保険者に扶養されている人
寡婦年金は、国民年金に10年以上加入していた第1号被保険者である夫が死亡した時に、夫に生計を維持されていた妻に対して、妻が60〜65歳になるまでの間、支給される年金です。寡婦年金は名前の通り女性に対して支給されるものです。妻が亡くなったとしても、夫は受け取ることができません。ただし、受け取るには妻側と 夫側がそれぞれ支給要件をクリアしている必要があります。それぞれの要件を確認しましょう。
寡婦年金の対象となる妻の要件
寡婦年金を受け取れる妻は、下記の3つの要件を満たしている必要があります。
①夫との婚姻期間が10年以上必要
夫と10年以上継続した婚姻関係が必要です。事実婚でも構いません。
②妻と死亡した夫との間に生計維持関係が必要
生計維持関係とは、具体的には生計同一要件と収入要件の2つです。寡婦年金を受け取るには、これら2つの要件を満たす必要があります。生計同一要件とは、住民票上同一世帯であること、住民票は別世帯であるが住所は同じであること、住民票は別であるが家計が同じ(単身赴任など)であることを言います。
収入要件とは、妻の前年の年収が850万円未満(所得655.5万円未満)だったこと、あるいは、おおむね5年以内にこれらの年収や所得になると認められたことを言います。一時的な収入や所得は除きます。
③老齢基礎年金を繰上げ受給していない
老後の年金は基本的に65歳から受給しますが、60〜64歳の間に早めに受け取ることもできます。これを繰上げ受給と言いますが、妻が繰上げ受給していると寡婦年金を受け取ることはできません。
寡婦年金の対象となる夫の要件
妻が寡婦年金を受け取るためには、亡くなった夫が下記2つの要件を満たしている必要があります。
①老齢基礎年金・障害基礎年金を受けたことがない
夫が老齢基礎年金や障害基礎年金を受け取ったことがある場合、妻は寡婦年金を受け取ることができません。
②保険料を10年以上納めている
死亡した前月までに第1号被保険者として保険料を納めた期間、および免除期間の合計が10年以上あることが必要です。また、国民年金には、収入が少ない場合に保険料の納付を猶予する保険料納付猶予制度や学生のため保険料の納付が猶予される学生納付特例の制度がありますが、これら期間も10年の中に含まれます。
寡婦年金で受け取れる金額
妻が受け取れる寡婦年金の金額は、夫が受け取ることができた第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金の3/4の金額です。
計算式にすると下記の通りです。
老齢基礎年金の満額×(保険料納付済月数+免除月数×4/8〜7/8)÷(40年×12ヶ月)×3/4
少し複雑ですから、例をあげて確認しましょう。例えば、20〜40歳まで第1号被保険者で20年間ずっと保険料を納め続けてきた夫が40歳で亡くなったとします。この場合、寡婦年金の金額は下記の通りとなります。
令和5年の67歳以下の人の老齢基礎年金の満額が79万5,000円のため
79万5,000円×(20年×12ヶ月)/(40年×12ヶ月)×3/4=29万8,125円
寡婦年金は、29万8,125円となります。なお、寡婦年金は非課税ですから、税金はかかりません。
今回の例では、20年間ずっと第1号被保険者であった人が亡くなったケースで計算しましたが、会社員経験などがあり、第1号被保険者以外の期間がある場合、その期間は計算に含みません。
夫が亡くなった時に妻が60歳になっていなければ60〜65歳になるまで、60歳を超えていれば、亡くなった翌月から65歳になるまで年金を受け取ることができます。ただし、妻が死亡したり、結婚したり、老齢基礎年金の繰上げ受給をしたりすると寡婦年金を受け取れなくなります。
寡婦年金と遺族年金の違い
遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金があります。遺族基礎年金は国民年金に加入していた人が亡くなった場合など、遺族厚生年金は、厚生年金に加入していた人が亡くなった場合などに受け取ることができます。亡くなった人が第1号被保険者期間のみの場合、遺族厚生年金は支給されないため遺族基礎年金と寡婦年金の違いをお伝えします。
遺族基礎年金 | 寡婦年金 | |
---|---|---|
金額 | 遺族基礎年金=79万5,000円 + 子の加算額 | 夫が受け取ることができた第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金の3/4 |
支給期間 | 子が18歳、子が20歳未満で障害等級1級または2級の状態の場合は20歳になるまで | 最長で妻が60〜65歳までの5年間 |
支給対象者 | 亡くなった人に生計を維持されていた子のある配偶者・子 | 夫に生計を維持されていた妻 |
①金額
・遺族基礎年金
老齢基礎年金の満額に子の加算額が加算されます。ここで言う「子」とは、18歳までの子、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態の子を言います
遺族基礎年金=79万5,000円 + 子の加算額
(令和5年度 67歳以下の人が受け取る場合)
令和5年度の子の加算額は、子ども2人目までなら1人あたり22万8,700円、3人目以降は1人あたり7万6,200円です。
・寡婦年金
夫が受け取ることができた第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金の3/4
②支給期間
・遺族基礎年金
子が18歳、子が20歳未満で障害等級1級または2級の状態の場合は20歳になるまで
・寡婦年金
最長で妻が60〜65歳までの5年間
③受給対象者
・遺族基礎年金
亡くなった人に生計を維持されていた子のある配偶者・子
・寡婦年金
夫に生計を維持されていた妻
※遺族基礎年金は男女関係なく子がいれば受給できますが、寡婦年金の受給対象は女性のみで子の有無は関係ありません。
寡婦年金と死亡一時金の違い
死亡一時金も寡婦年金同様、第1号被保険者専用の給付制度です。第1号被保険者として保険料を3年以上納めた人が老齢基礎年金や障害基礎年金を受けないまま亡くなった時、生計が同じだった遺族が受け取ることができます。
死亡一時金 | 寡婦年金 | |
---|---|---|
金額 | 保険料を納めた月数に応じて12〜32万円 ※亡くなった人が付加保険料を納めていた場合は8500円が加算 | 夫が受け取ることができた第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金の¾ ※亡くなった人が付加保険料を納めていても加算はない |
受給対象者 | 遺族の中で優先順位が高い人 | 夫に生計を維持されていた妻 |
①金額
・死亡一時金
保険料を納めた月数に応じて12〜32万円
亡くなった人が付加保険料を納めていた場合は8500円が加算
・寡婦年金
夫が受け取ることができた第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金の¾
亡くなった人が付加保険料を納めていても加算はない
死亡一時金は名前の通り一時金ですから、一般的には寡婦年金の方が金額は大きくなります。
②受給対象者
・死亡一時金
遺族の中で優先順位が高い人
優先順位は、配偶者が最も高く、子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹の順で年齢は関係ありません。
・寡婦年金
夫に生計を維持されていた妻
寡婦年金を受給した場合、他の年金は受け取れる?
遺族基礎年金との併給について
寡婦年金と遺族基礎年金を同時に受け取ることはできません。しかし、受給時期が重ならなければ、どちらも受け取ることができます。たとえば、子が18歳未満だったために遺族基礎年金を受け取っていて、子が高校を卒業し遺族基礎年金の支給が終了した後に妻が60歳になるような場合、妻は60歳から寡婦年金を受け取ることができます。
遺族厚生年金との併給
遺族厚生年金は厚生年金加入中に死亡したり、老齢厚生年金を受け取っていた人が死亡したりした場合などに遺族が受け取れる年金です。寡婦年金と同時に受け取ることはできず、どちらか一つの年金を選択します。
老齢基礎年金・老齢厚生年金との併給
老後の年金は、65歳より前に受け取る繰上げ受給をできますが、繰上げ受給する場合は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に繰上げなければいけません。老齢年金の繰上げをしている時は、寡婦年金を受け取ることができません。
障害基礎年金・障害厚生年金との併給
障害年金にも障害基礎年金と障害厚生年金がありますが、これら障害年金を受けている時は、寡婦年金を受け取ることはできません。どちらか1つを選択します。
死亡一時金との併給
死亡一時金と寡婦年金両方受け取れる時は、どちらか一つを選択します。両方受け取ることはできません。
寡婦年金の申請方法
寡婦年金を請求するには、年金請求書(国民年金寡婦年金)を提出します。請求書は日本年金機構のホームページからダウンロードできますし、市区町村役場や年金事務所、街角の年金相談センターで手に入れることもできます。
寡婦年金に必要な書類
寡婦年金を請求する際は、年金請求書に下記書類を添付して、市区町村の窓口や年金事務所、街角の年金相談センターに提出します。手続きできるのは、夫が死亡してから5年以内です。
- 基礎年金番号通知書または基礎年金番号がわかる書類
- 戸籍謄本
- 世帯全員の住民票の写し(マイナンバーの記入で添付を省略することも可能)
- 死亡者の住民票の除票
- 源泉徴収票や課税証明書など請求者の収入が確認できる書類
- 受取先金融機関の通帳等
- 公的年金から年金を受けている場合は年金証書
なお、下記のように状況に応じて別途必要な書類があります。
事実婚の場合は事実婚を明らかにできる書類
- 健康保険の被扶養者になっている場合は健康保険者証の写
- 葬儀の喪主になっている場合は、葬儀を主催したことを証明する書類など
住民票が別の時は、生計同一を証明できる書類
- ⽣計同⼀関係に関する申⽴書
- 健康保険の被扶養者になっている場合は健康保険者証の写
- 単⾝赴任による別居の場合は辞令の写など
死亡の原因が第三者行為による場合
- 第三者行為事故状況届など
上記、書類を提出してからおおむね60日で「年金証書・年金決定通知書」が送付され、その後おおむね50日で初回分の年金を受け取ることができます。受け取れる金額は受給権を取得した日(夫が死亡した日、妻が60歳未満の場合は60歳に到達した月)の翌月から受け取り月の前月分までです。その後、偶数月の15日に定期的に年金を受け取ります。
まとめ
家族が亡くなった場合に受け取れる年金は、遺族年金、寡婦年金、死亡一時金があります。国民年金の第何号被保険者であったか、残された家族の構成や年齢によって受け取る年金が異なります。
年金制度は非常に複雑ですが、民間の死亡保険に加入する際の保険金設定の判断材料になります。どのような年金を受け取ることができるか、年金の種類は知っておくと保険加入の際にも役立ちますし、万一の際の備えも効率的に行うことができるでしょう。