
がんと「共生」する時代ー自分と家族を守るがんの話
近年、がんは「共生」する病気へと考え方が変わりつつある。がんをコントロールしつつ、画期的な治療の登場を待つーそんな選択肢ができた一方で、依然としてがん治療には「情報」という大きな壁が存在している。
「がん治療とお金」についてコンサルティングを行う、株式会社M&Fパートナーズ代表取締役の高橋さんは、がんの早期発見の重要性や後悔のない納得できるがん治療を選ぶ大切さを日々相談の現場で実感してきた。
今回の高橋さんへのインタビュー後編では、進化を続けるがん治療やがん検査の現状、保険による保障のあり方について詳しく話を伺った。さらに、日々忙しい現役世代に向けたメッセージも紹介する。
がんと「共生」する時代の心構え
高橋さん:
昔は、がんになったらとにかく手術をして、身体の中からがんを取り除くという考え方でした。しかし近年、国は「がんとの共生」という考え方を打ち出すようになりました。
これは、がん細胞はもともと自分の細胞が変異したものだから、日常生活に極めて大きな支障がないのであれば、うまく付き合い「共」に「生きる」、すなわち「共生」していこうという考え方です。
高橋さん:
私もこの「共生」には意味があると思っています。それは、がんが原因のわからない病気であり、今は治せないがんもあと数年経てば治せるようになっている、ということが起こり得るからです。
日常生活に支障がない程度にがんをコントロールして、うまく「共生」していけば、新たな治療の登場を待つこともできます。
しかし、それにはやはりお金がかかります。ですので、がん保険などで備えるという考え方はありだと思っています。

進化するがん治療と求められるがん保険の保障の形とは
高橋さん:
がん保険の加入動機ほぼ100パーセント「がんが心配だから」です。安いからという理由だけで加入している方は、ほとんどいないと思います。だからこそ、保障で足りないところがあれば、きちんと補っておくことが大切です。
保障については、何よりもがんが見つかったときにまとまった大きな一時金を受け取れるかどうかが重要です。これはなぜかというと、今後がん治療は大きく変わっていくからです。
少々専門的な内容にはなりますが、実際に脳腫瘍の一部で「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」という新しい治療が保険適用になっています。これはホウ素と中性子の核反応を使ってがん細胞だけを破壊できる治療方法で、長年京都大学などで研究されてきましたが、ついに現場レベルで行えるようになりました。
あとは「光免疫治療(※1)」や「がんウイルス治療(※2)」という新しい治療も、脳腫瘍の一部についてはすでに保険適用となっています。
※1 がん細胞と光に反応する薬剤を投与し、主に近赤外線などの光を照射することでがん細胞を破壊する治療法。薬剤や光自体は正常な細胞に対し反応しない。
※2 がん細胞にのみ感染・増殖して破壊するよう、人工的に改変したウイルスを用いた治療法。正常な細胞に対し、ウイルスは増殖しない。
高橋さん:
脳の治療は非常に難しくて、手術すると後遺症が残ったり、抗がん剤も効きにくかったりします。しかし一方で、こうした新しい治療方法も続々と登場しています。
そうすると、今後出てくる新しい治療を受けられるようにしておくための方法は、私はひとつしかないと思っています。それは、先生が「悪性新生物(がん)」と診断した時点で、まとまった一時金が受け取れる保険に入っておくことです。
ただ、その一時金が何十万円程度ではまったく十分と言えません。また、決められた治療に対して給付金が支払われる従来型のがん保険では、新しい治療に対応できない可能性があります。
しかし、「保険会社の勧めるプランだから問題ないだろう」と考えて、そのまま契約される方も少なくありません。
-がん保険に入っているだけでは不十分で、足りない保障をしっかり見直すことが大事ですね。
高橋さん:
がん保険にも良し悪しがあります。
お客様にがんが見つかったときに、大きな一時金を前払いで支払ってくれる保険会社の商品であれば、がん診断時に多額の現金を受け取ることができますし、それをご家族の生活を守るために使うこともできます。

精度が高く身体への負担も少ないがん検査も登場
高橋さん:
がん治療だけではなく、がん検査も今大きく変わっています。たとえば最近では、PET-CT検査よりも精度の高い新しい検査として、DWIBS(ドゥイブス)(※3)という検査が開発されました。
※3 MRIで全身を撮影し、がんなど細胞が密集した部分を白く映して発見しやすくする検査。PET-CT検査と異なり撮影前の造影剤の投与が不要で、被ばくのリスクがなく身体への負担が少ない。
また、大腸内視鏡検査に代わる検査もあります。実は、女性が最もたくさん亡くなっているがんが大腸がんです。その理由のひとつに、なかなか大腸内視鏡の精密検査を受けていただけない、ということがあります。
高橋さん:
健康診断の便潜血検査で陽性が出た場合は、大腸内視鏡の精密検査を受けることになります。
しかし、実際に受けたことがある方にはわかっていただけると思いますが、肛門から内視鏡を挿入するため、恥ずかしさや強い抵抗感のある検査です。よって、特に女性の方に受けていただけないということが起こっています。
しかし今は「仮想大腸内視鏡検査(大腸3D-CT検査)」という検査も、大腸内視鏡検査に抵抗がある方への選択肢としてあります。
これはCT撮影により大腸などを3D画像化する検査で、大病院ではなくても街なかにある胃腸内科のクリニックでも受けることができる場合があります。

がんの早期発見に「スクリーニング検査」の活用を
高橋さん:
また、PET-CT検査のような高額な精密検査を、定期的に受けるのは難しいという方も多いはずです。
それなら、最近さまざまな会社が提供している、いわゆる自宅でできる「がんの簡易検査」を活用することもひとつの方法です。
ただし、こうした検査はがんのリスクのある人とない人をふるい分ける「スクリーニング検査」なので、陽性反応が出ても具体的にどのがんなのかを、現状では数種類しか特定できないことがほとんどです。
私はそうしたスクリーニング検査を定期的に受けています。そうすると必ず「がんのリスクが高い」という結果になります。ですので数年前にPET-CT検査を、去年はDWIBS検査を受けましたが、特に異常はありませんでした。
高橋さん:
スクリーニング検査の結果をきっかけに、数年に一度、より精密ながんの検査を受けてみる。そうやって検査を繰り返していけば、突然末期がんが見つかり余命宣告を受けるという可能性は低くなると思います。
こうしたスクリーニング検査も、複数の大学などでの相当な基礎研究を重ねて実用化されており、精度は高くなっています。「精密ながん検査を受けるきっかけ」としてこのような検査を取り入れ、早い段階でがんを見つけることができれば、がんを克服できる方も増えていくと考えています。
検診が命の分岐点、知らぬうちにがんは進行する
高橋さん:
健康診断は、会社員であれば毎年必ず受けなくてはいけません。しかし一方で、お子さまが小さく忙しいなどの理由で、健康診断を受けられないという配偶者の方はかなりいらっしゃいます。
先日、あるご夫婦から奥様の乳がんのことでご相談を受けました。奥様が背骨の骨折で緊急搬送され、精密検査を受けたところ、肺と骨まで転移した状態の乳がんが見つかったそうです。
奥様は大手企業にお勤めのご主人の健康保険で、毎年健康診断とがん検診が受けられるようになっていました。しかし奥様に話を聞くと、「自分はがんにならないだろう」と思い3~4年間がん検診は受けていなかったそうです。
高橋さん:
このように「がん検診を受けなければならない」という強い意識がなく、気が付いたらがんが転移した状態で見つかったという方は少なくありません。数年間でがんの状況は大きく変わってしまいます。だからこそ、毎年検診を受けてもらうことが大事です。
特に、女性のうちパートや派遣などの非正規雇用で働いている方ほど、健康診断を受けていないという現状があります。だからこそがん検診を受けてほしいですし、難しい場合は先ほど申し上げたような、スクリーニング検査も選択肢として検討いただきたいです。
後悔のないがん治療とセカンドオピニオンの重要性
-万が一がんと診断されたら、先生から示された治療方針を受け入れるしかないと考える方は多いかと思います。その他の治療の選択肢について知るためには、どうすればいいでしょうか。
高橋さん:
仮に新しい治療や症例数が少ない治療、また健康保険が適用されていない治療でも、自分や家族のがんに少しでも関係がありそうなら、セカンドオピニオンとして話を聞いてみるべきだと思います。
なぜなら、がん治療において「あのときああしておけばよかった」という後悔は、決してあってはならないものだと思っているからです。
高橋さん:
以前、前立腺がんの手術を受けたことでひどい尿漏れの後遺症に悩む方のご相談を受けたことがあります。
基本的に、前立腺がんは転移がなければ手術を行うのですが、この方のように尿漏れや男性機能の喪失といった、重篤な後遺症が出る可能性もあります。
しかし一方で、実は前立腺がんというのは、健康保険適用の放射線治療が最も多いがんです。この方も、もし放射線治療を受けていたなら手術と同程度の治療効果が望め、かつ後遺症が出る確率も低くできたのではないかと思います。
がんという大病だからこそ、納得できる治療のためにセカンドオピニオンを受けたいと考えている患者さんのご相談を受けることも多いですね。

治ることだけじゃない、がん治療で大切な「納得感」
高橋さん:
こうした、がん治療に対する患者さんやご家族の納得感というのは、私自身、強いこだわりを持っています。
今、当社では年間500~600件ほどがんの相談をお受けしています。基本的には当社からがんの治療や医療機関を患者さんとご家族にご紹介して、患者さんがひとつの治療に行き着けば、それ以降の関わりはなくなります。
亡くなられた患者さんのご遺族から、年間に2~3件お電話をいただくこともあります。ただ、「そちらに勧められた治療のせいで、亡くなってしまった」と責められる可能性もあるので、私にとっては非常に緊張する電話でもあります。
高橋さん:
でも、そのような電話は過去に1件もありませんでした。むしろ、「○○は残念ながら亡くなりましたが、おかげさまで本人も家族も最期まで納得した治療を受けられました、ありがとうございます」という感謝を伝えてくださるんですね。
今年もすでにこのようなお電話を2件いただきましたが、そのたびに思うことがあります。
それは、がん治療で大事なことはもちろんがんが治ることですが、患者さんやご家族が治療に納得しているかどうかも同じくらい大切だということです。
高橋さん:
納得した治療を受けていただくために必要なものが、「治療に関する情報」です。お医者様から提供される情報を最優先で検討することは当然ですが、「より多くの選択肢の中から、自分と家族の意思で行うべき治療を選ぶ」という考え方が大切ではないかと思っています。
お医者様の目線(考え方)と患者様の目線は、異なっていることがあります。納得した治療を受けていただくためにも、生命保険会社や保険の募集人さんからの情報提供は重要だと考えています。
また、情報提供だけではなく、治療現場の状況を踏まえた「お客様をがんから守るための保険の提案」についても積極的に行っていただきたいと思います。
日々忙しさに追われるあなたへー大切な人のためにがん検診を
-最後に、仕事や子育てで忙しい現役世代に向けて、がんについて伝えたいメッセージをお願いします。
高橋さん:
今、乳がんや大腸がん、胃がんなどで亡くなるのは「もったいない」と言われる時代です。「もったいない」というのは変な言い方に聞こえるかもしれませんが、それはこれらが早期発見できれば治せるがんだからです。
また、若いうちにがんで亡くなることは決してあってはいけません。特に、守るべき小さなお子さんがいらっしゃる方はなおさらです。しかし実際には、若くしてがんで亡くなられた方を多く知っています。
だからこそ、健康診断やがん検診も受けるだけではなく、結果まできちんと確認していただきたいです。「面倒くさいな」と思いながら会社の指示で受けて、返ってきた結果にも特に目を通さない。そんな方もいらっしゃるかもしれませんが、それでは良くありません。
高橋さん:
日本は「何かあればすぐ病院に行けばいいから」という方が多い。しかし、本来こうした検査は「症状がないときに受ける」ものです。また、検査というのはご自身のためだけではなく、ご家族など大切な方のために受けるものでもあります。
だからこそ、現役世代の方にはお子さんやご家族の顔を思い浮かべて、健康診断やがん検診を受けていただきたいですね。仕事や子育てで忙しい方が多いのもわかりますが、大事なご家族がいらっしゃるからこそ、今、がん検診を受ける必要がある、ということはお伝えしていきたいです。

まとめ
「いのちを支える情報を、もっと多くの人へ」──高橋さんの強い使命感が伝わると同時に、がんについて知らないことが多すぎると実感したインタビューだった。
現代は忙しさに追われ、自身の健康を後回しにしがちな人も多い。しかし、健康診断やがん検診は自分のためだけでなく、子どもや家族など大切な人を守るためにも欠かせない。自身と大切な人の笑顔を守るためにも、今一度自分の身体と向き合う時間を持ってみてはいかがだろうか。






