
乳がんの治療、妊娠・出産を経てー闘病生活で感じた 日々の「ありがたさ」
ある日突然、乳がんと告げられたEMIさん。不安の中でもキックボクシングやアートなど“好きなこと”を続け、前向きに過ごしてきた。一方で、治療による妊孕性への影響など、命と向き合う決断も経験。今年6月には自然妊娠・出産という喜びにも恵まれた。
今回は、乳がんサバイバー・EMIさんのインタビュー後編をお届けする。
乳がんでも好きなことで日々を前向きに過ごす
- EMIさんは乳がんの治療中も、趣味のキックボクシングやアート作品の制作など、とてもアクティブに過ごされていましたね。それらの活動はメンタルに良い影響があったと思いますか。
EMIさん:
もし、キックボクシングをしていなかったら、治療で体力が落ち、家の中に引きこもりがちになっていたかもしれません。そうするとさらにメンタルが弱っていくという、悪循環になっていたかもとは思いますね。
それにキックボクシングって実は髪がなくても坊主の人はたくさんいるし、別に目立たないんですよね。むしろ強そうだと思われます(笑)。

- そうでしたか。ちなみにがんの治療中も、運動はOKなんですね。
EMIさん:
がんの治療中は、薬の副作用で太りやすくなることもあり、むしろお医者さんから運動をすすめられます。
肥満はがんの大きなリスクですし、再発にも影響するリスクファクターなので、乳がん患者向けの筋トレを指導する専門のトレーナーもいます。
- EMIさんのお話を伺っていると、がんやその当事者の方について、まだまだ自分の知らないことが多いと感じました。
EMIさん:
がんの治療で休職したことで、前から好きだった絵を始めることもできましたし、あまりこういうふうに言う人はいないかもしれませんが、治療中も結構楽しいことが多かったな、というのが率直な感想です。
ドラマとかを見ていると「がんになった人は最後に亡くなる」という展開が多いので、皆さんの中にもそういうイメージがすり込まれている部分はあると思います。
でも実際には、乳がんでも元気に過ごしている方は本当にたくさんいます。そういう姿をもっと取り上げてくれたらいいのにな、とは思いますね。

がん治療と妊孕性保存のジレンマー命の選択とEMIさんの決断
- 今年6月には元気な男の子を出産されたということで、本当におめでとうございます。妊娠がわかった時のお気持ちや、周囲の方々の反応はいかがでしたか。
EMIさん:
私自身も本当に驚きましたし、周りもみんなびっくりしていました。たぶん、私が子どもを持つ姿を誰も想像してなかったと思います。でもみんなすごく喜んでくれました。今は特に、私の母が子どもにメロメロになっていますね。
今は、世の中のお母さんたちを本当に心から尊敬しています。私にとっては乳がんの治療より、妊娠・出産や子育ての方がずっと不安でした。乳がんは自分の命だけを守ればいいけれども、子育ては子どもの命を考えないといけないですから。

- がん治療の際には、主治医などから「がんと妊孕性※」についても説明を受けたと思いますが、どのような流れでしたか。
※にんようせい。妊娠するための力のこと。がん治療で低下したり失ったりする可能性があるため、卵子・精子・胚の凍結保存などあらかじめ妊孕性温存の検討をすすめられる場合がある。
EMIさん:
まず、最初にがんと診断されたときに、先生から「来週から抗がん剤治療を始めるけれども、もし妊孕性を考えて卵子を保存したいのであれば、治療のスケジュールをずらす必要がある」という説明を受けました。
そのあと、同じ病院内の婦人科で妊孕性について詳しい説明を受け、来週までにどうするか決めてくるという流れでしたね。
- その時はどんな心境でしたか。
EMIさん:
私自身、昔から「絶対に子どもが欲しい!」と思っていたわけではありませんでした。でも、妊孕性の説明を受けて、いざ本当に子どもを持てる可能性が低くなると思うと、やっぱり気持ちは大きく揺らぎました。
ただ、4センチの乳がんが判明し、先生からは来週から抗がん剤治療を始めると言われた直後だったので、なんだか治療を急かされているような気もしました。
- 短い時間で非常に難しい選択をしなければならなかったのですね。
EMIさん:
それで、将来の子どもと今の私の命、どっちが大事か考えたときに「ここで卵子保存したとしても、私がもしがんで命を落してしまったら意味がない」と思い、最終的に卵子保存はせず、治療を始めることを選びました。
- ちなみに、抗がん剤治療が一度始まると卵子の凍結保存は難しいんですね。
EMIさん:
先生によると、抗がん剤の影響によって妊孕性が失われたり、低下することがあるため、先に保存しておくそうです。
だから、もし本当に子どもが欲しい方だったら、卵子の保存はお金もかかりますし、すごく悩む問題だと思います。私の時は保険適用外だったので、なおさら悩む方が多いだろうなと思いました。
- あと、EMIさんの投稿で初めて知ったのですが、抗がん剤治療中は生理も止まるんですね。
EMIさん:
そうなんです。抗がん剤使用中は、副作用で生理が止まります。そのかわりに更年期の「ホットフラッシュ」のような症状が出たのですが、これがもう大変で!体が急にぶわっと熱くなって、汗もすごく出るんですよね。
夜中に症状が出ると目が覚めてしまって、寝られないこともしばしばありました。ただこれは一時的なものだったので、治療が落ち着いてから1年くらいで生理も再開し、症状も治まりました。
- 妊娠中はがんや治療の影響を感じることはありましたか。
EMIさん:
細かいところで言うと、抗がん剤を右手に打っていたり、右胸を切ったりした影響もあったのか、妊娠中は右手の方に結構強いしびれとむくみが出ました。
先生からも「もしかしたら右胸を切った影響かも」と言われたのですが、今はもう治りました。

がん当事者には言葉よりもあたたかい「ハグ」を
- がんの当事者となった方への接し方について、正直悩む方も多いと思うのですが、EMIさんにとってはどんな寄り添い方がありがたかったですか。
EMIさん:
変にいろいろ気を使われるよりも、いつも通り接してくれるのが一番ありがたかったですね。もちろん、いつも通り接するのも簡単なことではないと思うんですけど。
でも、一番よかったのはハグでしたね。言葉の無い、無言のハグ。言葉で「大丈夫」と励まされても、タイミングによってはどうしても受け入れられない時もあるので、肌と肌が触れ合うハグが一番落ち着くよね、とはがん当事者同士でもよく話していました。
- 人のぬくもりが一番の安心になるんですね。
EMIさん:
私も休職前、営業でお世話になっていたお客さんに「乳がんで休職します」と伝えた時、女性の方が何も言わずにただ抱きしめてくれたことがありました。年配の方だったのですが、そのときは本当に涙が溢れました。
休職にあたってはいろいろな人と話をしたのですが、そのハグが最も心に残っています。
身近な人ががんになったと聞くと、なかなかどんな顔をしていいかわからないと思います。でも、ハグだったらお互い顔も見えないし、恥ずかしさもないのでおすすめですよ。
EMIさんが乳がんのリアルを通じ伝えたいこと
- EMIさんがインスタグラムなどでがん治療の詳細を発信されていた、一番のモチベーションは何でしたか。
EMIさん:
そんなかっこいい理由はなくて、治療中に時間を持て余していたということもありますが、私も乳がんの方の投稿を見て助けられた経験があったので、乳がんの治療経過など、まとまった情報があった方がいいかなと思ったんです。
それに、医療業界で働いていた身として、ちゃんとした医療の知識にプラスして自分の経験を発信すれば、自分にとっても見やすいまとめになるかな、と思ったのが最初のきっかけですね。

- 治療を始められた頃は、ここまで詳細な乳がんの情報発信はあまりなかったんじゃないでしょうか。
EMIさん:
パラパラとはあったのですが、信ぴょう性のない自由診療の治療の紹介や、「抗がん剤は毒だ」という趣旨の投稿もありました。これらはちゃんとした知識に基づくものではないのですが、そういう情報を信じる人も意外と多かったです。
「抗がん剤治療をしなくても助かった」という情報があれば、信じたくなる気持ちもよくわかります。でも、そういう情報に対抗するというわけではないですが、「私はちゃんとした情報を発信したい」という思いはありました。
- EMIさんのインスタグラムでは、最初の投稿に治療経過がピン留めされていてとてもわかりやすいです。
EMIさん:
例えば、抗がん剤を使うと髪の毛が一気に抜けるのか、それとも徐々に抜けるのかという、治療の「経過」についての情報は、私が乳がんの治療を始めた当初はあまりありませんでした。
ポイントごとの情報はあっても、全体の流れがわからなかったので、治療経過や流れをなるべく写真で載せるようにしています。文字だけだとやっぱ分かりづらいですからね。

闘病生活の中で感じた"当たり前"の「ありがたさ」
- EMIさんは、乳がんのしこりから着想を得たビー玉のアート作品を通じて、乳がんの啓発活動もされているそうですね。そこに込めたメッセージを教えてください。
EMIさん:
やっぱり、乳がんの場合は検診に行くことが最も大事なので、女性は30歳を過ぎたら、マンモグラフィー検査やエコー検査を必ず受けてほしいという思いが、個展などを通じて伝わればいいなと思っています。
あとは、がん治療中は「ありがとう」という言葉の漢字の意味を、本当に深く実感する機会が多かったです。
「ありがとう」は漢字で書くと「有り難う」、”有る”のが”難しい”と書きますよね。「ありがとう」の対義語は「当たり前」とよく言われますが、胸が2つあることや髪の毛があること、そういう「当たり前」のことって本当に「有り難い」ことで、感謝の気持ちを持って毎日を過ごすと、たわいない1日もとても「ありがたい」日になることに気付きました。

- 乳がんになり、不安な方もたくさんいると思います。そういう方に向けて伝えたいことはありますか。
EMIさん:
やっぱり、自分を信じることが一番大事です。自分を信じて、先生を信じて治療を進めてほしいですね。
あとは、甘い言葉には惑わされないよう気を付けてほしいです。
- 本日は貴重なお話をありがとうございました。思い出すのが辛いこともあったかと思いますが、お話しいただき感謝しています。
EMIさん:
いえ、むしろ色々ないい思い出がよみがえりました。
今はたとえがんと診断されても、早期発見であれば大丈夫だと思います。医療が進んで、多くの人が元気に過ごせていますから。編集部さんも年に一度はちゃんと検診を受けて全身チェックしてくださいね(笑)。
- 改めてありがとうございました!

まとめ
がんの治療、妊孕性への葛藤、そして妊娠・出産。命と向き合う経験の中でEMIさんがたどり着いたのは、当たり前の日常の「ありがたさ」だった。
もし、自分や大切な人が乳がんと向き合うことになったときは、ぜひ一度、EMIさんのインスタグラムを覗いてみてほしい。「乳がんでも日々を前向きに生きることができる」という希望を感じられるはずだ。
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