
インスタグラムで乳がんのリアルを発信ー右胸の”しこり”に気づいたあの日から
「まさか自分が乳がんになるなんて」―多くの人がそう語る。
現在インスタグラムやブログで、自身の乳がんの経験を広く発信するEMIさんもそのひとりだった。仕事もプライベートも充実し、定期検診でも特に異常なし。それでも、4年前の夏にお風呂で“ビー玉のようなしこり”を発見した日から、EMIさんの乳がんとの闘病生活が始まった。
今回はEMIさんの乳がんが明らかになった経緯や治療中の心境について話を伺った。
EMIさんプロフィール
34歳で乳がんと診断されたことをきっかけに、約1年3か月にわたる闘病生活をインスタグラムやブログで発信。治療終了後も、乳がんサバイバーとしてセルフチェックの重要性を訴え、早期発見・早期治療の啓発に取り組むと同時に、アートを通じた乳がんの啓蒙活動も実施。テレビ東京「生きるを伝える」にも出演し、支援と共感の輪を広げている。
EMIさんのインスタグラムアカウント:https://www.instagram.com/breast_cancer_emi34/

予兆ゼロの乳がん―“ビー玉のようなしこり”に触れた日から診断されるまで
- まず、EMIさんが乳がんに気づき、正式に診断されるまでの経緯を教えてください。
EMIさん:
最初に気づいたのは、2021年の夏休み、お盆に実家に帰っていて、お風呂で右胸に触れた時に「なんか、しこりみたいなものがあるな」と、気づいたのがきっかけですね。
よく乳がんって、ビー玉みたいなしこりがあるって言われますが、生理前で胸が張った時のような感じじゃなくて、それは本当に硬かったんですよね。それで「もしかして」と思って、実家から都内に戻り、すぐにマンモグラフィー検査とエコー検査ができる婦人科系のクリニックを探して行きました。
そこで検査したところ、悪性の可能性が高いと言われて。大きな病院に移って精密検査をした結果、正式に乳がんと診断されました。しこりを発見してから1ヶ月後ぐらいでした。
- 乳がんのしこりはガラス玉のような、本当に硬い感触なんですね。
EMIさん:
そうなんです。自分で触った時は1センチくらいのしこりかなと思っていたのですが、実際に検査してみたら、約4センチくらいだというのがわかって。結構大きいのに、定期的に受けていたマンモグラフィー検査でも発見できなかったんですね。
しこりを見つけた後、最初に受診したクリニックで、マンモグラフィーの画像を先生と一緒に見たのですが、「あれ、何も写ってないね」って。日本人は乳腺が濃いため白く写るから※、マンモグラフィーでがんが発見しにくいとは言われているんですけど、本当に何も写っていなくて。そのあとエコー検査をしたら、そこにはしっかり写っていました。
※乳腺の密度が高い高濃度乳房(デンスブレスト)の場合、マンモグラフィー検査では白く写る部分が多く、異変を発見しにくい。
- 4センチですか!かなり大きくなっていたのに、定期的な検査でもわからなかったんですね。
EMIさん:
私も、4センチが写らなかったらむしろ何が写るんだろうとも思いました(笑)。だから、エコー検査とマンモグラフィー検査はセットでやって!と必ず友人には伝えるようにしてます。
- その時点で、がんの進行はどのくらいだったんでしょうか。
EMIさん:
その時点で私はステージⅡB※でした。がんがギリギリ胸の中に収まっていたのですが、転移していたらおそらくステージⅢになっていました。
※乳がんのステージ(病期)は、がんの広がり具合に応じて0期〜Ⅳ期に分類される。0期は乳管や小葉内にとどまる「非浸潤がん」、Ⅰ〜Ⅲ期はがんの大きさやリンパ節への転移の有無などで決まり、Ⅳ期は骨や肺など他の臓器に転移した状態を指す。
- しこりに気づくまで、体調面で異変はあったのでしょうか。
EMIさん:
それが、体調の変化も全くなくて!当時、ちょうどコロナ禍で、外に出られず暇になったこともあり、キックボクシングを始めて半年くらい経っていたのですが、体もすごくいい感じになってきていて、全く問題なかったです。
しかも、しこりを見つけた前月には友達と海に行っていて、その時に水着に着替えて、いつもより胸のあたりは触っていたはずなのに全く気づかなくて。だから本当に「いつできたんだろう」ってびっくりしましたね。
- 現在はどういう状況なんでしょうか。
EMIさん:
私の乳がんはトリプルネガティブ※だったので、治療が終わって5年が経てば完治ということになります。今は経過観察という形で、年に1・2回、診察に行っています。
2021年に乳がんになったので、あと1年、何もなければ完治です。こうやって話をする機会がないと、自分が乳がんだったことを忘れているくらいですね(笑)。
※エストロゲン・プロゲステロンに反応せず、HER2(がん細胞の成長を助けるタンパク質)を作らない乳がん。ホルモン治療やHER2を標的とした薬が効きにくいため、主に抗がん剤で治療する。

手術で右胸を全摘出ー最も辛かった時期をどう乗り越えたか
- 約1年3か月くらいの治療期間中に、どのような治療を行ったのでしょうか。
EMIさん:
まず、抗がん剤治療が始まりました。EC療法というものを2週間おきに4回行い、その後パクリタキセルという抗がん剤を同じく2週間おきに4回使用したので、全部で8回抗がん剤を使用しました。
がんが小さくなったのを確認してから、次に手術で右胸を取り、その後は放射線治療をやって、最後に飲み薬の抗がん剤を半年ぐらい服用しました。

- かなり色々な治療を経験されたんですね。その中で、精神的・肉体的に辛かったことはありましたか。
EMIさん:
私は抗がん剤はむしろ全然ウェルカムで。もともと、製薬会社で働いてたのもあって、薬のことには理解がありましたし、副作用で髪が抜けても生えてくるからいいかと思っていました。
ただ、右胸を全摘出する手術の前後あたりが、一番辛かったですね。胸は生えてこないので。
- 右胸を全摘出すると聞いて、最初にどう思いましたか。
EMIさん:
正直、右胸を切った後の自分の姿があまり想像できませんでした。胸の温存で有名な先生のとこに行ったのですが、がんの配置からもう全摘出しかないと言われて。
ぼんやりとした怖さや不安はあったのですが、同じ手術を受けた乳がんの先輩たちが術後の写真をDMで送ってくれたりしたので、それを見て少し安心できた部分もありました。
- EMIさんが胸を摘出した後の姿をインスタグラムに掲載されているのを拝見したのですが、本当にすごいことだと思いました。
EMIさん:
摘出後の姿って、インターネットではおそらく規制とかで、なかなか見ることができないんですよね。
でも、乳がんの当事者にとっては、見られないのがむしろ怖いことだなと思って。だから私は自分の姿を出していこうと思い、公開しています。

- 治療中、メンタルを保つために心がけていたことはありますか。
EMIさん:
とりあえず、グラビアアイドルが出るテレビは見ないようにしていました。胸を連想させる情報は、一切遮断したくて。
でも、「しょうがない」と思う部分もあったので、当時お付き合いしていた人(現:EMIさんのご主人)と気分転換に温泉旅行に行ったり、両胸がある写真をたくさん撮ったりして、自分の胸をちゃんと思い出として残すようにしていました。
- 胸を摘出することを、周囲に伝えた時の反応はどうでしたか。
EMIさん:
「命が助かるためならしょうがない」とは結構言われたのですが、実はその言葉が一番辛かったですね。「胸は再建するんでしょ」と、豊胸手術の例を出されて気軽に言われることも多くて。
でも、お付き合いしていた彼のお母さんもたまたま乳がんを経験していたので、彼は理解をしてくれていたと思います。

「入っていてよかった」ー保険が約100万円の治療費の支えに
- ぜひ、お金の話も伺えればと思います。約1年3か月間の治療で、大体100万円ぐらいかかったとインスタグラムで拝見しました。
EMIさん:
私は当時、医療保険などふたつの保険に入っていたので、がんと診断された時に一時金が結構いただけました。
ちょうどがんになる1年くらい前に、担当者に言われるがまま、婦人科系疾患を手厚いプランにたまたま変更していたのですが、今思えばラッキーでした。

- 保険は結構、役に立ったという印象ですか。
EMIさん:
めちゃくちゃ役に立ちました。ただ、私の契約では「入院しないと抗がん剤の費用が出ない」というのを知らなかったので、その分はちょっと損したなと思いました(笑)。最近は、若い人ががんになるとほとんど通院で治療するんですよね。
それでも、保険はすごくありがたかったです。精神的にも、入っていてよかったなと思いました。
- 治療費のほかに、どんな費用がかかりましたか。
EMIさん:
交通費ですね。放射線治療は1ヶ月間、毎日病院に通って受けなくちゃいけないので、私は地下鉄で通える範囲の病院でしたが、もし遠方だったらめちゃくちゃ大変だったなと思います。
放射線治療って2~3回で終わるというイメージだったので、1カ月間毎日通わなければいけないと聞いたときはびっくりしました。
- EMIさんはセカンドオピニオンも受けられたそうですが、いかがでしたか。
EMIさん:
セカンドオピニオンは、放射線治療が終わった後の治療を相談するために利用しました。
乳がんって、実は結構治療法が多くて、お医者さんに「こういう治療もあるし、ああいう治療もあるけど、来週までにどっちにするか決めてきてね」みたいな感じで言われることもありました。
- 来週までに決めてきて、って急に言われても難しいですよね…。
EMIさん:
私は、放射線治療が終わった後に使う抗がん剤について、自分では決められなかったので、セカンドオピニオンを受けました。そしたら、セカンドオピニオンの先生がすごく丁寧で、30分間しっかり説明をしてくださったので、納得して治療を決めることができました。
ちなみに、費用は3万円ほどでしたが、それも保険でカバーされることがわかったので、受けてみることにしました。

インタビュー後編に続く
ある日突然、乳がんと診断されたEMIさん。治療中に感じたリアルな経験や思いについて伺った。現在は体調も安定しており、今年6月には自然妊娠で元気な男の子を出産した。
後編のインタビューでは、闘病生活で感じたことや、乳がんサバイバーとして妊娠・出産を経験した心境、さらにインスタグラムで自身の体験を発信する理由などについて詳しく伺う。