がんの実態を誤解していませんか
あなたは、がんという病気にどんなイメージを持っていますか。
おそらく怖い病気という印象を抱いている人が多いと思います。なにしろ、日本人の死亡原因で30年もトップの座に居座っているのですから、当然といえば当然です。
身体への負担、治療に対する不安、治療費や生活費といった経済面の気がかり……考えるほど心配が募ります。禁煙や食生活の改善、適度な運動など生活習慣を見直すことによって、ある程度の予防はできます。ですが、それらを心がけていても、完全に防ぐことは不可能でしょう。タバコを吸わないあの人が、日ごろから健康に気をつけているこの人が、がんになったという話もしばしば耳にします。
たしかに、がんは手強い相手です。しかし、漠然と思い描いたイメージが独り歩きしていることも多いようです。やみくもに恐れる前に、実態を知っておきたいもの。ここでは、誤解しやすい点について見ていきましょう。
がんの5年相対生存率
がんから死を連想する人は少なくないでしょう。国立がん研究センターの調べでは、2017年にがんで死亡した人は37万3344人です。部位別に見ると1位が肺、2位が大腸、3位が胃という順になっています。もちろん生死に関わるケースもあります。とはいえ、「がん=死に直結する病気」ではありません。がんを発症した部位や進行の度合いにもよりますが、いまやかなり治る病気になっています。
それをよく表しているのが「5年相対生存率」です。
5年相対生存率とは、がんと診断された人が治療によってどのくらい命を救われたかを示す目安です。がんになった人が5年後に生きている割合と、日本人全体が5年後に生きている割合を比較します。男女を合計した5年相対生存率は約62パーセント。半数以上は5年後も生存しているわけです。
部位ごとに見れば、100パーセントに近くなるほど治療で生命を救えるがん、0パーセントに近づくにつれ治療を行っても生命を救いにくいがんを表します。生存率が高い例としては、皮膚がん、乳がん(女性のみ)、前立腺がん、甲状腺がんなどがあげられます。
さらに、がんにかかる確率と死亡する確率もイコールで結ばれません。生涯でがんにかかる確率は男性が62パーセント、女性が47パーセントです。しかし、がんで死亡する確率に目を移せば、男性25パーセント、女性16パーセントと、ぐっと下がるのです。
年齢が上がるにつれて、がんにかかる確率は高くなります。そうはいっても、現在40歳の男性が20年後までにがんと診断される確率は、わずか7パーセントと言われています(国立がんセンター、2014年データに基づく)。このくらいの年齢までは、かなり低いといえます。一方、高齢になると、がんにかかる確率は高くなってきます。
がんの平均入院日数
入院が長引くと考えている人も多いのですが、入院日数はどんどん短期化しています。
たとえば、平成8年は平均入院日数が46日でした。およそ1ヶ月半の入院が必要だったわけです。それが平成26年には19.9日と、半分以下の日数に短縮されています。
ただし、入院日数が短くなった分、通院での治療は増えています。がん治療の中心が入院から通院へとシフトしているのです。いっさい入院をせず、抗がん剤治療や放射線治療を通院のみで行うケースもあります。治療を受けながら働くといった考え方も増えてきました。
医療技術の進歩により、がんとつき合う時間はむしろ長くなったといえそうです。

首を傾げてしまうかもしれませんね。
むろん、治る可能性は広がっています。同時に、根治には至らなくても、症状を和らげたり、いっそう延命できる可能性も広がっているのです。がんを抱えつつもより長生きできるのはうれしいことですが、逆にいつまで延命治療を続けるかという判断が難しくなっているようです。
治療費が多額になる?
ところで、がんになったら医療費が膨大にかかると思っていませんか。これもよくある誤解のひとつです。
健康保険が適用される治療であれば、自己負担は3割です。がんだけ特別に高い医療費を請求されるなんてことはありません。高額療養費制度も使えますから、自己負担の上限を超える分は戻ってきます。要するに、ほかの病気やケガと負担は変わらないのです。
もっとも、がんの場合は先進医療や自由診療といった選択肢もあります。こちらは200万円だの300万円だの、驚くほど高額な治療があることは事実です。おまけに健康保険適用外の診療は全額が自己負担なので、相当なお金が必要になります。
どのような治療を選ぶかによって、医療費は大きく変わってくるわけです。
最後にひとつ注意点を。がんは休職や退職するケースが多いといえます。治療は健康保険の範囲内でも、収入が減ったら非常に大きな経済的な不安を抱えることになるでしょう。医療費だけでなく、収入ダウンのリスクも考慮に入れておきましょう。
まとめ
がんは恐ろしい病気というイメージがありますが、誤解もまた多いものです。医療技術の発達によって、かなり治るようになってきましたし、入院日数も短くなっています。健康保険の範囲内で治療を受ければ、自己負担はほかの病気と変わりません。正しく理解し、正しく備えましょう。